あの子

「う〜ん、何を使おうかなぁ」

そう呟く三月の前にはナイフ、鉄の棒、麻紐など凶器となりうる様々な物が並べられれている。


「よし、これにするか」

そう呟くとあるものを手に取り立ち上がる。


「たのしみだなぁ、あの子はどんな顔をしてくれるかなぁ」

そう呟く三月の顔は醜く歪んでいた。



───────────


21時、人気ひとけの無い夜道を一人の少女が足早に歩いてくる。


「は〜、ほんっと最悪。マジなんなのあの先生」

誰かの愚痴を溢しながら歩く少女の意識は何者かに殴られ、そこで途切れた。




───────────


大きなバケツが一つ置かれただけの見覚えのない倉庫のような場所でその少女は目を覚ます。


「えっ…………なに、これ?」

少女の両腕、両足は結束バンドで縛られ、木製の椅子に麻紐で縛り付けられていた。


「あは、起きた?あはよう」


「はっ?って君か、何で私縛られているのかな?とりあえず自由になりたいんだけど……これ、解いてくれるよね?」

少女は三月に親しそうに話しかける。


「え〜、どうしようかなぁ……じゃあさ、僕の話聞いてくれたら解いてあげるよ。それでどう?」

初めから少女の問いがわかっていたかのようにスラスラと答える。


「……分かったわ」

少女も何かを察したように三月の提案に従う。


「で、話って何なのかな?」


「うん……僕さ、君のこと好きだったんだ」


「え……?」

予想していなかった答えに少女は余裕の表情を崩し目を見開く。


「君はさ、僕の事どう思っていたの?」


「……どうって、特に何とも思ってないわよ。それに──」


「……嘘は聞いてないよ。僕は本当のことを話してほしいと思うな」

その言葉を聞いた少女は口を止め真っ直ぐに三月を見つめる。


「そうね……好きだったわよ、"アレ"が起こるまでは、ね」


「……やっぱり、殺人鬼の子供はダメかな?」

三月も少女を見つめ真剣な顔で問う。


「えぇ、当たり前でしょ」


「そう、か」


「……話を聞いたらこれ解いてくれるんじゃないの?」


「もう一つ聞きたいことがあるからね、それに答えてくれたら解いてあげるよ」


それを聞いてあからさまに不服そうな顔をした少女は三月を睨みつける。


「そんなに睨まないでよ、可愛い顔が台無しじゃないか……」


「そんな事はどうでも良いから、聞きたいことって何?」


「うん、そうだね…………今の僕の事、好き?嫌い?」


「…………嫌いよ。ほら、答えたんだからちゃんとこれ解いてよね」

ぶっきらぼうにそう言って少女は自身に巻き付いた紐を忌々しく睨みつける。


「もちろん、約束したからね」


そういって三月はズボンのポケットに手を入れ何かを取り出す。


「…………?」


少女に近寄る途中で大ぶりのバケツを手に取りゆっくりと歩み寄る。


「おっそいわねぇ、何してんのよ。早くしなさいよ」


その瞬間、少女にバケツに入った液体を浴びせる。


「は…………?なにこれ、何してんのというかクッサ、どうしてくれんのよこれ」


三月はそんな少女の声には反応もせずに手に持ったソレに目を落とす。


「ん……?それって、ライター?」


「うん、そうだよ。これを使ってその紐を解いてあげようと思ってね」


当然、少女は驚愕で目を見開き、それと共に自身にかけられた液体の正体にも気づく。


「これって、も、もしかしてガソリン⁉︎」


「あ、やっとわかった?ガソリンってよく燃えるからさ、直ぐに紐が解けると思うよ」


そういって三月はライターに火をつけ当然のように少女の服の裾に引火させる。




「キ、キャァァァァァァァァァァァァァァァァ」

少女の叫び声が倉庫中にこだまする。


「あは、そんな大きな声出してどうしたの?もうすぐ紐が解けるんじゃないかな?まぁ、それ耐火の紐なんだけどね」


「お、おまえ……しね!うざい!何とかしろ!人殺しの分際で!せっかく優しくしてやったのに!」


少女は次々と暴言を投げかけるがその全てがもう三月には届かない。


少女の声は次第に助けを求める懇願に変わり最後には掠れた声も出なくなり黒焦げの焼死体だけが残った。





「……僕も好きだったよ」

少女の死体を眺め、小さくそう呟いた三月の心の中には優しかった頃の少女ではなく、三月をいじめる集団の中で笑みを浮かべる少女の顔しか残っていなかった。




6(+1)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る