前のエピソード――第26話　記憶と現在のギャップ

フラッシュバックは、私の生活に突然入り込む不意打ちのようなものでした。日常の何気ない瞬間、予期せぬ形で過去の記憶が鮮明によみがえり、心の平穏を奪っていきます。そのたびに、私は現在を生きているはずなのに、記憶の中の過去に引き戻され、胸の奥が締めつけられるような感覚に襲われました。

フラッシュバックが起きるきっかけは、本当に些細なものです。たとえば、道端ですれ違った人の表情や声のトーン、昔と似た匂い、あるいはテレビの中の何気ないシーン。それらが過去の記憶の鍵を突然開き、私を小学校でのいじめの教室や、就職活動での辛い面接、孤立した専門学校の教室へと引き戻します。その瞬間、現実が薄れ、目の前の光景が過去の記憶に塗り替えられるような感覚になるのです。

このフラッシュバックは、私にとって日常生活を妨げる要因であるだけでなく、自己否定の感情を増幅させる存在でもありました。過去に戻るたびに、「あの時こうしていれば」「もっと強くなれていれば」という後悔や、自分の無力さに対する怒りが湧き上がり、心が重くなります。日常の中でふと笑顔になれそうな瞬間にも、その記憶が襲ってくると、すべてが暗く塗りつぶされてしまうような感覚がありました。

フラッシュバックに対処するために、私はいくつかの方法を試しました。まずは、自分が「今、過去に引き戻されている」と気づくことです。それは簡単なことではありませんが、記憶に飲み込まれそうになるたびに、「これは過去の出来事だ。今ではない」と自分に言い聞かせることで、少しずつ冷静さを取り戻せることに気づきました。

また、フラッシュバックが起きたとき、自分を安心させるためのルーティンを作るようになりました。例えば、深呼吸をして現在の自分に意識を戻したり、手元の物に触れて今ここにいる感覚を確かめたりすることです。そうすることで、記憶の渦に巻き込まれる時間を少しでも短くすることができました。

さらに、自分にとって安心できる空間を作ることも重要でした。私にとって、それは支援施設の一部であったり、落ち着ける音楽を聴く時間であったりしました。これらの空間や時間は、フラッシュバックの後の心を落ち着かせる役割を果たしてくれます。過去の記憶が私を飲み込むように感じたときでも、そこに戻ることで再び心を穏やかにすることができました。

フラッシュバックは、今も私の生活の中で完全に消えたわけではありません。しかし、そのたびに「これは私の一部であり、私を支配するものではない」と思えるようになったのは大きな進歩です。フラッシュバックが現れることで、過去の記憶に向き合う必要があることを感じますが、それと同時に、現在を生きる力も少しずつ育まれています。

過去の記憶と現在の生活を切り離すことはできませんが、それらが共存する形を模索し続けることで、私は少しずつ心の安定を取り戻しつつあります。フラッシュバックを完全に消すのではなく、それとどう向き合い、日常生活を大切にするか。それが今の私にとって、心の平穏を保つための大切な課題です。