第25話 記憶の重さに耐える

過去の記憶は、私にとって宝物であると同時に重荷でもありました。とりわけ、辛い経験や苦しい出来事の記憶は、まるで心に重くのしかかる石のようで、日々の生活の中でその重さを感じ続けています。これらの記憶は消え去ることなく、時に鮮明に、時にぼんやりと私の意識の中に現れ、私の行動や感情に影響を与え続けました。


記憶が重いと感じる瞬間は、ふとした時に訪れます。例えば、何気ない会話の中で思い出した一言や、道端で見た景色が、私を過去の出来事に引き戻すことがあります。その記憶はしばしば、苦しさや後悔を伴い、私を「なぜあの時もっと強く言い返せなかったのだろう」「どうして自分はあの場面で動けなかったのだろう」といった思考の渦に巻き込むのです。


特に、学校でのいじめや就職活動でのパワハラ、家族とのすれ違いなど、私の心に深い傷を残した出来事の記憶は、私にとって避けられない課題でした。これらの記憶に対処しようと努力しても、完全に忘れることはできず、その重さが今の私の判断や感情に影響を与えているのを感じます。その結果、過去に縛られ、未来に向かうための一歩がなかなか踏み出せない自分に、時折失望を感じることもありました。


しかし、記憶を完全に消し去ることはできないと理解したとき、私はそれとどう共存するかを考えるようになりました。過去の記憶を「敵」として見るのではなく、「私を形作る一部」として受け入れることが大切だと気づいたのです。そのプロセスは簡単ではありませんでしたが、記憶を否定せず、その存在を認めることで少しずつ心が軽くなるのを感じました。


また、私は記憶の重さに耐えるための「言葉の力」を借りるようになりました。書くことは、私にとって過去と向き合い、その重さを外に出すための方法となりました。紙の上に記憶を吐き出すことで、それが私の中に閉じ込められたままではなく、外に解き放たれるような感覚がありました。文章を書くことで、自分の記憶に対する見方が少しずつ変わり、傷ついている自分を理解し、受け入れることができるようになったのです。


記憶の重さに完全に耐えられるわけではありません。それでも、私はその重さを抱えながらも歩み続ける方法を模索しています。記憶に押しつぶされるのではなく、それを心の片隅に置きつつ、前を向く力をつけていきたいと思っています。記憶は消えないけれど、それと共に生きていくことは可能なのだと信じて。過去の記憶に向き合うことが、今の私を支える柱になるように、これからもその重さに耐えながら、一歩ずつ進んでいこうと思います。

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