第24話 幻聴との闘い

精神障害の中でも、私にとって最も辛い症状の一つが幻聴でした。それは、まるで現実の声のように鮮明で、しかも否定的で傷つける内容ばかりが耳に飛び込んでくるものでした。その声は、私の自己否定をさらに強化し、心の中に刻まれた過去の痛みを掘り起こすように響き渡りました。


幻聴は、特に私がストレスを感じているときや、心が弱っているときに強く現れました。自分の心の中にだけ響く声でありながら、それが現実なのか、幻覚なのか区別がつかなくなる瞬間もありました。例えば、誰もいないはずの部屋で突然「お前なんて無価値だ」という声が聞こえると、心臓が締めつけられるような感覚に襲われ、息が詰まりそうになるのです。その声はいつも冷たく、容赦なく、私を否定し、傷つけるものでした。


「聞こえないふりをしよう」と思っても、その声は無視するにはあまりに強烈で、私の意識を完全に支配してしまいます。何度も耳をふさぎたくなるような感覚でしたが、それが物理的に消えるわけではありません。幻聴が現れるたびに、自分がさらに孤独になり、誰にも理解されない存在だと感じることが多くなりました。


幻聴との闘いは、ただ耐えるだけではどうにもならないことを理解するまでに時間がかかりました。ある日、医師に相談した際に、「幻聴はあなたの感情やストレスが反映されているのかもしれません」と言われたことが、私にとって一つの転機となりました。それまで私は、幻聴をただの症状として受け止め、それを無くすことだけを考えていました。しかし、その声の背後に自分自身の内面が隠されている可能性があると気づき、それに向き合うべきだと感じるようになったのです。


その後、幻聴が現れたとき、私は少しずつ「その声が私に何を伝えようとしているのか」を考えるようにしました。もちろん、それは決して簡単なことではありません。幻聴の内容が傷つけるものである以上、それに耳を傾けることは恐怖でもありました。しかし、時にはその声が、自分が無意識に感じているストレスや不安を反映しているのではないかと思える瞬間もありました。


さらに、私は幻聴を打ち消すための「自分の声」を作る練習を始めました。否定的な声が聞こえたとき、それに対抗して自分の中で「それは違う」「私は価値がある」と言い返すのです。初めはとても難しく、幻聴に圧倒されてしまうことが多かったのですが、少しずつ自分の声が強くなり、幻聴に振り回されることが減っていきました。


今でも幻聴は完全に消えたわけではありませんが、それが現れるたびに「私はこの声に負けない」という気持ちを持つことで、少しずつ心を安定させることができています。幻聴は私の人生の一部であり、それとどう共存していくかが重要なのだと気づきました。この闘いを通じて、私は少しずつ「自分を守る力」を身につけています。それは、私が前に進むための大切なステップであり、心を強くするための旅の一環だと感じています。

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