第17話 現実との折り合い

過去の記憶が容赦なく蘇り、心をかき乱される日々の中で、私はどうにかして現実と過去の間で折り合いをつける方法を見つけようとしました。過去の傷や後悔が、私の行動や考え方に影響を及ぼし続けていることは自覚していましたが、その重さに押しつぶされて現実から逃げてしまうわけにはいかないと感じていたのです。


現実と過去の記憶がぶつかり合うたびに、私は立ちすくみ、動けなくなるような感覚に襲われました。けれども、このままでは心が疲れ果て、前に進むことなどできないと気づき始めていました。過去にとらわれることなく、現在を生きるために必要なことは、過去と戦うことではなく、過去と共存することかもしれないと、少しずつ考え始めたのです。


まず取り組んだのは、過去の自分を責めることをやめることでした。何かうまくいかないと、「あの時、もっと強くなれていたら…」という後悔が頭をよぎります。しかし、過去の自分がどう感じ、どんな選択をしたかもまた、自分の一部です。苦しい中で懸命に生きていた過去の自分を否定するのではなく、「その時の自分にはそれが精一杯だった」と認めることから始めるべきだと考えるようになりました。


次に、フラッシュバックが起きるたびに自分の感情を押し殺すのではなく、「今、過去の記憶に反応している」と認識する練習をしました。心が過去に引き戻される感覚があっても、それに飲み込まれるのではなく、「これは過去の出来事だ」と、少し距離を置くように意識してみるのです。言葉にするのは簡単ですが、実際にはとても難しく、何度も失敗しました。しかし、何度も繰り返すうちに、少しずつフラッシュバックに対して冷静でいられる瞬間が増えてきたように感じます。


現実との折り合いをつける中で、最も難しいと感じたのは、過去の傷を「完全に癒やそうとしない」ことでした。傷が完全に消えるわけではなく、その痛みと一緒に生きていく覚悟が必要だと気づき始めたのです。過去の経験を「自分の一部」として受け入れることで、その重さが少し軽く感じられるようになりました。それでも、時には苦しみが再び襲いかかり、心が揺れることもありますが、それもまた、私が過去と共に生きる過程なのだと思うことにしました。


この「現実との折り合い」を模索するプロセスは、私にとって心を軽くする方法を見つける一歩になりました。過去を完全に消すことはできないけれど、過去を否定せず、むしろそれを抱えながら生きることができるのではないかと思えるようになったのです。過去を忘れるのではなく、過去にとらわれずに今を生きる力を身につけること。それが、私の心の安定を取り戻し、前に進むための新しい指針になりました。

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