第16話 突然の記憶の蘇り

日常生活の中で突然、過去の記憶が鮮明に蘇ることがありました。それはまるで、心の奥底にしまい込んでいた記憶が一瞬で表面に浮かび上がってくるような感覚です。特に何かをしているわけでもなく、ふとした瞬間に、過去の出来事や感情が頭をよぎり、意識を支配するのです。その一瞬がどれほど心を乱し、痛みを伴うものであるか、自分にしか分からない苦しみでした。


記憶が蘇るきっかけは実に些細なものでした。街中で聞こえる人の笑い声、窓から見える景色、香り、ふとした言葉。それらが引き金となり、小学校時代に馬鹿にされた瞬間や、中学での孤立した教室の風景、高校や専門学校で味わった孤独感と無力感が、まるで今その場で起きているかのように頭をよぎるのです。


この突然の記憶の蘇りは、私の心を深く傷つけました。過去の出来事が鮮明に蘇るたびに、その時の屈辱や悲しみ、怒りが再び私の中に沸き上がり、胸が締めつけられるような痛みに襲われます。心がその過去の場面にとらわれ、現実から遠ざかってしまうような感覚がありました。過去の傷がまだ癒えていないことを痛感し、どれだけ時間が経ってもその痛みが消えないことに絶望すら感じることもありました。


また、記憶が蘇るたびに、「どうしてあの時、自分はこうしなかったのか」「もっと強く抵抗できていれば」といった後悔の念も生まれました。過去の自分の行動に対する後悔が積み重なり、それがさらに自己否定感を深めていくのです。自分の弱さや無力さを責める気持ちが強くなり、「自分には何もできなかった」という思いが心を押しつぶしていきました。


このような記憶の蘇りは、私にとって避けたいものでもありましたが、同時に逃げられないものでした。忘れようとするほど、それは逆に強く心に残り、いつまでも私を苦しめ続けました。記憶を抑え込もうとしても、無理に蓋をすることで余計に思い出す結果となり、苦しみがさらに増していったのです。


この「突然の記憶の蘇り」にどう向き合うかは、私にとって大きな課題でした。過去をただ封じ込めようとするのではなく、どのように受け入れるべきなのか、どうやって折り合いをつけていくべきなのか。その答えを見つけることができれば、心が少しでも楽になるのではないかと考えましたが、具体的な方法が分からず、ただ途方に暮れるばかりでした。


この記憶の蘇りと共存する方法を見つけるためには、まだ長い時間が必要だと感じていました。過去の痛みと向き合い、その記憶に押し流されずに現実を見つめる力をつけることが、私の心の安定を取り戻すための一歩なのかもしれません。それは簡単ではありませんが、この苦しみを抱えたまま生きる道を探ることが、私の次の課題だと思い始めました。

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