第7話
「投げれたんだなぁ。」
自室でシャドウピッチング中、今日のスライダーが決まったことが未だに頭から離れない。
これがきっとアドレナリンなんだろう。それのせいか、あまり寝付くことが出来なかった。
練習試合から二日たった今でもアドレナリンが多少出ている気がする。
「よ、伊那。初セーブおめでと。」
「あ!ありがとうございます、八木ケ谷先輩。」
その後も野球部の先輩全員から祝福の言葉をもらってしまった。
「整列!」
「「「「「はい!」」」」」
「一昨日の練習試合で得るものは多かったと思う。皆、名前を呼ばれたら前に出ろ。」
そう言って先生は一人一人にプリントを渡してきた。
「各自の課題とアドバイスを添えておいた。これは王凛高校の監督さんと一緒に作成したものだから、いつもより第三者目線で書かれているはずだ。試合に出ていなくても、練習の時でも見れるものはあるからな。」
なるほど、どれどれ俺の内容は?
良
・投げる球全てにおいて高水準
・落ち着いて投げられている
・ピッチングフォームが珍しい
・とても素晴らしいノビのある直球
悪
・胸をもっと開いた方がいい
・投げる時に左肩から右肩と出し入れした方がいい
(球速があがる)
・体重がかかりきっていない
・球速が速くない
・リリースする時、肘を顔の前に出すように
・テイクバックでもっと腕を下げる
・もっと尻を落とす
・投げた後に力の流れを押し留めずに、前に出ながら相手を威嚇するようなイメージで
上記を行っていけば、今よりも確実に球速は速くなると思われる。
是非頑張っていただきたい。
め、めっちゃ書かれとる…………
スゥー……少しずつ修正してみるかぁ。
「なぁ、皆どんな感じ?」
田辺の言葉に全員でプリントを見せ合う。
「あ、やっぱり試合に出てた三人はかなり詳細だね。」
田上、雲井、俺。この三人は試合に出ていない二人の二倍ほど書き込まれていた。
「ブハッ!?伊那お前かかれすぎだろ!」
田辺が腹を抱えて笑う。
「くっ!田辺!笑ってないでキャッチングしてくれ!ここの書いてるやつも一緒にだ!」
「ははっ、仕方ねぇな。じゃ、俺のもよろしく。」
そう言って渡されたプリントには、一言目を鍛えろと書かれていた。
どう指摘しろと?
「もっと重心意識して腰を落とせー!」
「腕が上がりすぎだぁ!」
「意識しすぎて足が固いぞー!」
くそ!俺にだけ直すところがあるからって好き放題言いやがって………
「もう……ダメだ………」
「おいおい、まだ五十も投げてないぜ?もうへばったんかよ。」
「腕が……上がらん………」
「ハァー…じゃ、走り込みしとけよ。足はいけんだろ?」
「…フゥ、もちろんだ。」
腕立て伏せを増やすか……?
「向井先輩、お疲れ様です!」
「おう、伊那か。お前も走り込みか?」
「はい、ちょっと腕が上がらなくなっちまったんで。」
右肩を軽く回しつつアピールした。
「じゃ、外周でさ、伊那がゆっくり走って俺が全速力で走る。それで、俺が伊那に追い付いてタッチしたら今度は伊那が全速力で走って、俺はゆっくり走る。これの繰り返しをやろうと思うんだが、どうだ?」
「うわ、キツそーですねぇ。」
「でも、かなり効くぜ?」
向井先輩がニヤリと笑って太ももをパンと叩いた。
「……分かりました、一緒にやりましょう!」
「おう!その意気だ!」
「じゃ、行くぞーよーいスタート!」
向井先輩がストップウォッチを持って走り出した。
「はっや~……」
想像以上にキツイかもしれねえ………
「ガッ……ゴホッゴホッ!」
大丈夫だ、ちゃんと生きてる………
酸素が足りなさすぎて息を吸い込む度に、口の中からよだれが垂れて、地面に染みをつくる。
「ふぃー良い汗かいたな。ちゃんと水分とっとけよぉー。」
「ふぁい………」
向井先輩は手をヒラヒラさせて、個人で走り込みを始めた。
無尽蔵かよ………
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