第6話

 紅白戦が終わった後はひたすら守備と投げ込みに費やした。

 気がつけば王凛高校との練習試合の日である。



「スタメン発表するぞー。

 一新木

 遊佐野

 投筑波

 三安達

 捕八木ケ谷

 左田上

 右佐々木

 二馬田

 中向井

 以上だ。全員、試合未参加も含めて気合いを入れろ!自分達の今の実力を身をもって実感することが出来るだろう!」

「「「「「おう!」」」」」

 


「まさか、田上が試合に出れるとはなぁ。」

「あぁ、俺も驚きだよ。」

「ミスんなよ?」

「もちろん。全力でやってやる!」

「俺らはベンチでお前の動きを逐一見といてやるよ。」

「そりゃいい!どこがダメだったかメモしておいてやるよ。」

「お、おう……絶対エラーしねえ。」

 田上が誓うように呟いた。




「動かねぇなぁ………」

 田辺がポツリと呟く。

 試合は六回裏0ー0。お互い塁には出るが、後が続かない。

「小々本、センターいけるか?」

「はい!」

「よし、向井と交代だ。」


 起爆剤となって打線が繋がればいいな。


 と思っていたら初球、小々本先輩がバントヒット。

 それに続くように新木先輩がフェアゾーンスレスレヒットでランナーは一三塁。

 そしてここで佐野先輩。ベンチは盛り上がって一際大声で声援を送る。

 

 そして、ついに五球目。内角に決まったストレートを詰まりながらも振り抜き、ショートの頭を越えるポテンヒット!0ー1で遂に試合が動いた!

 ベンチでは口笛が鳴る大盛り上がりだ。

 ランナー一二塁で更にエースの筑波先輩。


 しかし、筑波先輩は粘りに粘って九球目が審判にストライクを取られ見逃し三振。

 その後は安達先輩がヒットを打ったものの、八木ケ谷先輩がファーストファールフライでチェンジ。



 七回表は筑波先輩が難なく抑え、七回裏。

 相手は先発を降ろし、継投に入った。

 次の選手は右のサイドスローのようだ。


 一死で向かえた佐々木先輩の足になんとデッドボール。試合は無理そうとのことで、代わりに雲井が一塁ベースを踏んだ。

 馬田先輩がヒットでランナー一二塁になるも、小々本先輩がショートゴロでゲッツー。

 追加点とはならなかった。


 八回表は投手が菅野先輩に代わり、満塁まで追い詰められたものの、なんとか切り抜けた。


 八回裏。

「伊那、次お前を使う。準備しとけ。」

「えっ……は、はい!」

 相手の新しいピッチャーから新木先輩が四球佐野先輩と代打の斎藤先輩の猛攻で追加点を入手。

0ー2でランナー一二塁。

 ここで安達先輩がゴロでゲッツー。八木ケ谷先輩が四球を選び、田上も良い当たりをしたがレフト正面でチェンジとなった。


九回表

「フゥー……やばー………」

「落ち着け。最初に俺に投げ込んだイメージで良いんだよ。」

 八木ケ谷先輩が俺の緊張を解そうと話しかけてくれた。

「ありがとうございます。」


 対戦相手はクリーンナップ。意地でも打たせない。

 一球目

 外角一杯のストレート。

 見逃しでストライク。

 二球目

 さっきと同じコースにカット。

 今度は空振りで追い詰めた。

 三球目

 高めのストレート。

 これはボールとなった。

 四球目

 真ん中下ビタビタのストレート。

 見逃し三振だ。


 相手の四番、かなり打ちそうだが、こちらも負けていられない。

 一球目

 内角高めのストレート。

 見逃しでストライク。

 二球目

 真ん中やや左にカット。

 これは相手が引っかけてサードゴロ。


 相手の五番。ここで抑えれば勝ちだ。

 一球目

 ここでストレートを投げるも、危うく足下デッドボールとなる球を投げてしまった。しかし当てたわけではないので、相手の睨みを無視する。

 二球目

 高めにストレート。

 空振りでストライク。

 三球目

 ここでこの試合初めてのチェンジアップ。

 相手は一回転をするレベルの空振りをした。顔もとても驚いていて少し嬉しくなった。

 四球目

 ………?見たことないサインだ。

 ベンチをチラリと見ても先生はなんのアクションもしてこない。

 もう一度サインを見ると、八木ケ谷先輩がしっかりと頷いた。

 なるほど、そういうことか。


 いつもより深呼吸の時間を長くし、自信の無さを隠すようにリリースが早くなった。

 相手はバットを付き出して球を追うも、球はストライクゾーンからかなり離れたボールゾーンへと向かいキャッチャーミットに吸い込まれた。

 空振り三振ゲームセット。


 緊張感から解放され、人生で初めて雄叫びを上げた。

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