第4話

「いいかー?来月には春季大会がある。それの前準備として、今週末に王凛高校と練習試合を組んだ。

 スタメンは明後日までに決めるから、気ー引き締めていけー?解散!」

「「「「「おう!」」」」」

 


 カキーン!

 カキーン!

 カキーン!

 カン!

 スカァ………

 これは一年の自己紹介順の打撃の音だ。

 最後は毎回無音。そう、俺である。

「ホントに伊那は打撃カスだなぁ。」

「うっ……」

 田辺の呟きが俺を貫く。

「んー、フォームに問題はないし、やっぱ筋力不足かねー。」

 雲井の追い打ちも結構キツイ。

「デスヨネー………」

「そうだ!ちょっと先生に聞いてくるから、練習ストップな!」

 田辺が叫ぶと走り去っていった。





「許可もらって来たぞー!」

「お?何しに行ってたんだ?」

 田上が挑発するように喋る。練習の時間を奪っておおてつまらないことだったら許さない。言外にそう言っている。

「伊那の打撃はダメだ。だから筋トレで鍛えてる間は投げ込みだけにした方が良いと思ってな。」

「た…田辺……!」

「どうせ、伊那が抜けた分自分が練習したいだけだろ。」

「……へへ。」

「田辺!てめぇ!」

「まーまー怒んなって。その怒りは打席でぶつけてくれよ。」

「……?」

「トスじゃ飽きるだろ?だから、俺らのバッティング練習の球をお前が投げんだよ。」

「………なるほど、乗った!」

「そうこなくちゃ!ルールは一打席三球勝負な?お前らは?どうする?」

「ま、トスよりはマシだな。」

「当てんなよー?」

「よ、よろしくお願いします。」

 長谷川以外常識はないのだろうか。



「いつでもこーい!」

 最初は言い出しっぺの田辺。

「スゥー………ハァー……………」

 腕を掲げ深呼吸。

 いつもと同じ感覚で真ん中少し上にストレートを投げ込む。

 田辺は空振りをして驚いたような表情をした。

「マジかよ……」

 遠くで田辺のそんな声が聞こえた。


「次行くぞー!」

「お、おう!」

 動揺しているうちにもう一度同じ場所にストレート!

 狙った通り空振りだ。


「これで決めてやるよー!」

「言ってろ!打ってやる!」

 最後は内角のチェンジアップ。

 よし!空振り三振!

「ぐわぁー!マジかー!」

 天を仰ぐ田辺の元に向かった。

「へへん!どうよ、俺の球は。」

「次は俺だ!」

「いや、俺だね!あんな球なかなか対面できねぇぞ!」

 田上と雲井が競うように身体をぶつけ合う。

「いやいや、順番でやるって言っただろ?」

「そうだ、雲井、てめぇは引っ込んでろ!」

「くそぉ、なら見極めて振り抜いてやる!」

 ちなみに長谷川はノートに何かをメモっていた。俺の球の特徴とかかな?

「三人とも、今日は俺打撃やんねー。」

 田辺がバットを置いて帽子を被り直した。

「お?怖じ気づいたか?」

 田上が挑発するように尋ねる。

「違う。あんなスゲー球。捕手の俺が見極めないと俺が伊那をダメにしちまう。外で見させてもらうぜ。」

 そう言ってもらえると嬉しいな。

「了解、もしキャッチングしたかったらミット持って入ってきてくれ。その時にサインも決めちまおう。」

「あぁ、助かる。」



 続いて田上も三振、雲井は投ゴロ、長谷川は打ち上げて投フライだった。

 三人が素振りをしている間に田辺と一緒にサインを決めた。ストレートがグー、カットがチョキ、チェンジアップがパーだ。



「来い!」

 田上は見た感じなんでも振るクセがあったため、四隅を使えば簡単に三振を取れる。

 ストレート、チェンジアップ、ストレートで簡単に空振り三振を取った。

「次は打つ!」

 そう言って田上は素振りをしにネットの中から出た。


「いいぜ。」

 雲井は目が良い。黙視ではあったが、俺のゾーン外に向かっていくチェンジアップは見送っていた。だからこそ、カットで詰まらせることは簡単だ。

 チェンジアップ、チェンジアップ、カットでまたしても投ゴロに討ち取った。

「ふぅー、俺も外行くわ。」

 そう言って、雲井は佐野先輩にアドバイスをもらいに行った。


「お願いします!」

 長谷川は守備が得意と言っていたが、打撃もすごい。あの名選手ばりの一本足打法でバットに当たっている。今はファールや打ち上げだとしても、来年にもなれば、俺の球を簡単に打ってしまうだろう。そんな予感がする。

 ストレート、チェンジアップ、カット…打たれた!

 追いかけようとしたが、普通にネットに突き刺さったため、俺の敗けだ。

「うわぁー!無双は出来んかったかぁー!」

「すまん、伊那。俺のリードが悪かった。」

「いや、そんなことないよ。あれは長谷川が一枚上手だっただけだ。」

 二人でそう話していると、バットを置いた長谷川が近付いてきた。

「伊那くん、ちょっと良いかい?」

「なんだ?」

「思ったんだけど、スライダーを習得してみたらどうかなって。」

「スライダー?横に曲がるあれ?」

「うん、あんなに綺麗なカットが投げれるんだから、スライダーもいけると思うよ。それに、球種は多いに越したことは無いからね。」

「確かに、伊那がスライダーを投げれたら三振率がぐん、と上がるだろうな。よし、伊那!筑波先輩に教えてもらいに行こうぜ!」

「えぇ?今行って大丈夫かー?」

「聞くだけだ!ダメなら部活終わりでも聞きゃあいい!」

「頑張ってねー。」

「おーう!」

「サンキュー長谷川ー!俺と伊那で最強のバッテリー目指すからよく見とけよー!」

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