第2話
「お願いします!」
遂に野球部入部初日。
「えーと、伊那だっけ?」
「はい!」
でか、身長190はありそうだ。
「俺は主将の佐野だ、キャッチボールは俺とやってもらう。」
「はい!よろしくお願いします!」
「お、良い球投げるねー。未経験って聞いてたけどー。」
「はい!入学までの間、ずっと野球に費やしました。」
「おぉー、目指すは投手?」
「はい、でも先発はスタミナ的に厳しいので、中継ぎを目指そうかと。」
「珍しいねー。」
「そうですね。」
それからしばらく、無言のキャッチボールが続いた。
「うん、温まってきた?」
「はい、肩の調子も悪くないです。」
「そっか、なら………おぉーい!八木ヶ谷ぁ!」
「なんだー?」
ガタイのいい先輩が小走りでやってきた。
「ちょっと伊那の球受けてみてくれよ。なかなか良いと思ってな。」
「おぉー新人くんかー。二年の八木ケ谷だ。正キャッチャーだよ。」
「良いんですか!?」
「人がいないだけの正キャッチャーでいいならね。」
「ちょっと佐野先輩。」
なかなか和やかな雰囲気だ。個人的には居心地が良い。
「よし、いつでもこい!」
俺が投げるとあって、他の先輩達もキャッチボールを止めて俺を観察している。
やや緊張するが、慣れないとな。
「いきます!」
ためて………投げる!
バーン!
キャッチャーミット目掛けて投げたのはこれが初めてだったが、上手くゾーン内に入ったと思う。
そうして、合計五球を投げた。なるべく真っ直ぐを投げたが、やはり少々シンキング回転をしていた。シンキングファストと言うほど変化しないが、ストレートとも言いづらい。そんな微妙な変化をしてしまう。
「面白い球を投げるな!あとは何がいける?」
「カットとチェンジアップです!」
「よし!じゃあ二球ずつ頼む!」
「分かりました!」
二球目のカットはキャッチャーの前に落ちてしまったが、チェンジアップは完璧に決まった。
「よし!新人が頑張ったんだ!俺らも気合い入れて走り込むぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
俺も先輩達の最後尾についてペースが落ちないように走る。
「集合!」
「「「「「はい!」」」」」
小木田先生の号令に全員が従う。和やかなのに練習は厳しい。メリハリがあって好ましい。
「今日も新入生が見学している。サボるなよ?」
先輩達がクスクスと笑い出す。
「今日は全員でバッティングだ。お互いがお互いを高められるように励んでくれ!解散!」
「「「「「おう!」」」」」
「伊那、バッティングはいけるか?」
「佐野先輩、すみません。ピッチングばかりでバットは持ったこともありません。」
「そうか。なら、持ち方から俺が教えよう。」
「良いんですか?」
「あぁ、まずは手のひらを開いて。」
「はい。」
「次に両手の小指と薬指でバットを握れ。」
「はい。」
「そして、親指と人差し指は力を抜きつつ持て。」
「は、はい。」
「中指は好きにしろ。さ、持ち上げて。」
「お、これでいいんですか?」
「少しふらついてるな。あと、脇を閉めろ。」
「はい。」
「もう少し肘を前に、手を肩まで上げて。」
「はい。」
結構きつい…………
「にしても、伊那は右打者なんだな?」
「へ?そうですね。おかしいですか?」
「いや、伊那がいいなら良いや。」
「はい。」
「それじゃ、今から俺が近くでトスするから、思いっきりバットを振り抜け。」
「了解です。……それより、俺がここ一つ占領して良いんですか?皆さん並んでますが………」
「いいのいいの。ここは一年生が使うようのネットだから。」
「決まってるんですか?」
「うん、だから二三年はこっちに来ないよ。」
「分かりました、思いっきり振り抜きます!」
「その意気やよし!」
やはり、初めてだっだからだろう。合計十球で手が痺れてしまい、中断となった。当たりもほとんどゴロばかり。打ち上がっても、佐野先輩が小声でピッチャー正面、と呟いていて心が折れそうになった。
ー佐野和郎ー
「佐野先輩、今良いっすか?」
「八木ケ谷?どうした?」
「伊那の件で。」
「ん、分かった。」
伊那は今二回目の走り込み中だ。
グラウンドにあるベンチに俺と八木ケ谷が腰かけて汗を拭く。
「それで?伊那がどうした?」
「あいつのストレート、斜め下回転でした。」
「普通じゃないか?」
「いや、回転数が異常ですね。俺から見て、予想よりも上に球が来ました。回転数なら筑波先輩よりかかってます。」
「マジか。筑波はここら辺じゃ一番ノビのあるストレートを投げるって有名なのに。」
「はい、筋トレしまくって、その回転数がなくならなければが前提ですが、110後半出れば確実にレギュラー取れますよ。」
「他のカットとチェンジアップは?」
「カットは変化は少ないですけど、芯をズラすって意味では一級ですね。最初にカットって聞いてなかったら、普通の真っ直ぐだと思いました。」
「マジか………」
「チェンジアップもそれなりに物にしてますね。セオリー通りの変化でしたけど、あいつの真っ直ぐ見た後だとフォークと勘違いしますよ、打者は。」
「へぇー、有望だな。」
「えぇ、あとは伊那が投げた時に違和感があったんですよ。」
「違和感?身体がねじれてるとかか?」
「いいえ、考えて分かったんですがあいつ、テイクバックは長いクセにリリースがメチャクチャ速いんです。だから待ち構えてる打者によってはリズムを崩されるかもしれません。」
「はぁーそいつは良いな。端からだとそこまで長いとは思わなかったな。」
「まぁ、こんくらいですかね。お時間とらせてすみません。」
「いやいや、助かった。練習に戻って良いぞ。」
「はい!」
これなら、地区の三回戦くらいはいけるかな?
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