光の白球
麝香連理
第1話
中学の時、俺はとある人と出会った。出会ったといっても、同じクラスだったけど特に話さなかっただけだ。
卒業式の後の夕暮れに、制服から着替えて壁に向かって球を投げ込んでいた。野球を知らなかった自分にとって、壁に向かう投げられた球は、とても速く、夕暮れを纏った光となって跳ね返っていった。
そんな球を投げる彼の姿も、とても輝いて見えた。
あの輝きを自分が出せるのなら。もしダメでも、その輝きを出す手伝いが出来るのであれば。
こうして俺は、高校に入学するまでの間、野球について調べることにした。
花里高校。
文武両道を目指す高校で、俺は文の方でこの高校を選んだ。だが、この高校を選んだ過去の俺に花丸満点をあげたい。花里高校はスポーツでもかなり有名で、野球部は県大会にも出場したことがある。
最近は聞かないが、環境的にはバッチリであろう。
絶対に記憶に残らない最初の自己紹介を終えて、俺は野球部の見学に向かった。
キャッチボールをしているのが七組程。
部員は合計で十四人かな。
「お、君は見学かい?」
「はい。」
「なら、ここに名前をお願いできるかな?僕は野球部顧問の小木田だ。」
ペンを受け取ってサッと書いた。
「そうですか。よろしくお願いします。小木田先生。」
「あぁ存分に見てくれ。」
「質問、良いですか?」
「なんだい?」
「花里高校の野球部は県大会に出たことあるんですよね?何か……その……」
「あぁ………まぁ言いたいことは分かるよ。三年前に今まで監督だった方が辞めて、僕が野球部の顧問になったんだ。僕も高校時代に野球部だったとは言っても、地区大会予選落ちだったからね。うちに来たいって言う選手はだんだん減っていってね。
今の子達もしっかりやってはいるんだが、やってやる!って気概はそんなにないかもね。」
「なるほど。………小木田先生、俺野球部に入りたいです。」
「え?良いのかい?今の話し的に入ってくれるか微妙だと思ったんだけど。」
「はい、恥ずかしながら、俺に野球経験はないんです。なので、ここなら厳しくもなく、緩くもなく、丁度良いかと思ったんです。」
「そうか。確かに、それくらいが丁度良いかもね。
分かった、これに名前を書いてくれ。僕が申請しておくよ。」
「ありがとうございます。明日から、来ても良いですか?」
「あぁ、体育着でも構わないからね。」
「はい!」
「いや、その前に自己紹介だけしておこう。
皆!集合!」
走り込みをしていた先輩部員達が小木田先生の声を聞いてこちらに向かってきた。
「十四名、全員揃いました!」
「うん。皆、紹介するよ。彼は新入部員の伊那くんだ。明日から早速練習に入るからよろしく頼むよ。」
「伊那冬次です!よろしくお願いします!」
「よし、皆の自己紹介は新入部員が全員揃ったらにしてもらう。解散。」
「「「「「はい!」」」」」
自転車で二十分。家についてすぐに部屋でグローブをはめた。スマホで録画モードにして、シャドウピッチングを繰り返す。
色々試してみて、スリークォーターが一番投げやすかった。日本人では一番多い投げ方で、シュート回転になりやすいという特徴がある。
俺の投げる球はシンキング回転をしながらの真っ直ぐと、カットボール、チェンジアップのみである。
ピッチングフォームも突出したところはあまりない。強いて言うならテイクバックのためがかなり長く、リリースに持っていく時がとても速い。他の方達のピッチングを見ていくとそう感じる。打者のリズムを崩せるといえば利点であるが、リリースが速いため肩と腕に疲労が貯まると個人的に思っている。
だから、俺は二番手を目指そうと考えている。
先発のような長く抑えるのではなく、一打席一打席を最大出力で抑える中継ぎ、抑え。
それが俺の目指す野球選手である。
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