第4話 リアルと現実
いつもの事ですが、今回も捏造や改変が暴走しております。アルベドのファンの方々はご注意を。
─────────────────────────────────────
少女はベッドから起き上がり、つけていたゴーグルを外す。
時計は2時半を指していた。
「うわ~。ヤバい、遅れる!」
「お疲れ様でした。時間があまりないようですので、ご報告はお仕事の後にしてひとまず、身支度をされますか?」
女性は丁寧な口調で、遅刻寸前の少女に対してそう声を掛ける。しかし、琉月には今、そんな余裕はないのだ。女性が喋っている間も、琉月は右に左にせわしなく動き回っているが、女性はご丁寧にも、その琉月が動くたびにそちらの方に体を向けて話す。いや、傍からみたら、これは恐怖でしかないかもしれないが……。
「あっ、ごめんなさい。じゃあ、それで。い、行ってきます!」
完全に女性の事が頭から抜け落ちていた琉月は女性への謝罪と「行ってきます」の挨拶を礼儀正しくし、飛び出していく。
そう言って琉月は起き上がってから1分と経たず、家を出る。ここまで、洗顔と歯磨きに30秒、着替えに10秒、髪をくくるのに5秒、食事を棚から出し、口に放り込み、モグモグすること10秒の計55秒で朝の支度を終える。
残念ながら、少女マンガ、定番のアレが発揮されることはなかった。
────結果から言うと琉月は仕事に間に合った。
まあ、琉月のマンションは富裕層の区画の中でも外れの方にあるので、意外と会社とは距離があると言っても、琉月の技術を用いれば、無理のないものだった。
昨日と同じように、社長と日課の会話をした後、いつもどおり、仕事をする。しかし、今日は昨日よりは少し仕事が多かったため、勤務時間は計7時間だ。まあ、これでも、全然ホワイトの部類だが。
まあ、そんなこんなで、いつもの電車には乗れなかったが、いつもと同じくらいの場所にある席に座る。すると、次の駅で身なりのいい、如何にもできるエリート、みたいな感じを醸し出している30前半の男が琉月の右隣に腰を掛けた。
その瞬間、琉月は心の中で思いっきり顔を顰めた。なぜなら、その男の醸し出す雰囲気、一挙一動、全てが気に入らないのだから。琉月は思わず、頭の中に浮かんできた純銀の鎧を纏った男を全力で抹消する。
しかし、途中で降り、また別の電車に乗るのも面倒なため、ぐっと堪える。その代わり、目を瞑って寝たふりをする。理由はお察しのとおりで、あえて言うのも癪なので省く。
────だが、本来、この選択は正しくなかったのかもしれない。琉月がそう思う日はそんなに遠くないだろう。
結局、その男は私がマンションの近くの駅に着くまで、その電車から降りることはなかった。
□□□□□□□□
少し、時間を遡る。
モモンガは少し前まではいた仲間の座っていた席が空席となっているのを見て深いため息を吐く。
モモンガはこれ以上、仲間が来てくれることもないだろうと思い、せめて最後くらいはと、玉座の間にNPCを連れて煌びやかで、これ以上ないほどに豪華な美しい赤のマットをゆっくりと歩く。
しかし、その内心、モモンガは一人しんみりしていた。それも、当然、そうだろう。この男はもうほとんどもぬけの殻状態のこのギルドに、いや、仲間たちと作ったこの場所に固執し、一人定期的に足を運び、また仲間たちが戻ってくることを夢見てここでずっと、長い長い間、待ち続けたのだ。モモンガの心はもう擦り切れる寸前だった。
モモンガは一人だからか、そんなネガティブな方にばかり、いってしまう頭の中を無理やり切り替えようと、NPCたち1人1人の設定を大まかに見ていく。
「……ビッチって……。せっかくの美人なのにな…。いや、美人はギャップ萌えが大事──だっけ? そういや、そんなことをペロロンチーノさんが言ってて……。それがペロロンチーノさんがたまたま、ぶくぶく茶釜さんから追い回されていた時で、ぶくぶく茶釜さんに黒歴史を暴露されそうになったんだった。」
モモンガはそんなことを一人でブツブツとつぶやく。まあ、あと3分でこのユグドラシルも全て消えてしまうのだから、ちょっとくらいいいかと思い、アルベドの設定をいじり始めた。
アルベドの設定の書き換えも終わり、一通り領域守護者の設定は見たため、次はどのNPCの設定を見ようかとまだ見ていない他のNPCたちを見ていく。そこで、1つの名前に目が留まった。
モモンガの脳内にしばしの沈黙が訪れる。
しかし、モモンガは何もなかったかのように次の瞬間には設定チェックにいそしんでいだ。
───このことが後に大きな変化をもたらすことをモモンガはまだ知らなかった。
ともかく、モモンガはユグドラシルの終わりを静かに玉座に座って待っていた。モモンガはユグドラシルが消えることに耐えきれず、終にはリアルのことを考えてしまった。でも、そうすることで少し気分が紛れた。───いや、気分が紛れたと感じてしまったと言った方がいいだろうか。
それほど、モモンガにとって、ナザリックという仲間と作り上げたもの、仲間は何物にも代えがたいものだったのだ。
「……本当にあの頃は楽しかったんだ。」
モモンガは目の前に広がる。仲間たちに手を伸ばす。胸のどこかでは分かっているのだ。
───そう、そんなものはないのだ。
その手が、その風景を徐々に消し、その手さえも消えていく。そんなふうに錯覚させられる。
────カチコチ、カチコチ、カチコチ
「本当に……楽しかったんだ。」
時計の針は止まることなく、それでも、その針がゆっくりとなることもなく、ただただ進んでいった。
モモンガも分かっているのだ。これはただのゲームでしかない。仮想世界では生きていけない。仮想世界は一時的なものだ。いつまでも、続くものではない。モモンガたちにはリアルがあるのだから。
仮想世界に固執し続け、今なお諦められない自分の方がおかしいのだ。
モモンガは目を閉じる。
「ありがとう。」
「……。」
「……。」
「……あれ?」
しかし、目を開けた瞬間、目に入って来た風景はいつもの少しぼろっちい自室の壁ではなく、それとは正反対の煌びやかな絶対にリアルではないような風景だ。
────ログアウトしてな~~~~い!!!
モモンガは叫ばなかった自分をむちゃくちゃ、褒めたいと思う。そんな、現実逃避をしていなければ、心が保っていられなかった。そう、モモンガはメンタル1以下なのだ。
だが、次の瞬間にはその問題はある程度、解消される。それは、精神抑制だ。
まあ、ともあれ、何とか一難は乗り越えたわけだが……。モモンガはそんなことを考えながら、必死に頭を回す。
────まず、何をすべきだ?
────とりあえず、現状把握として、情報収集が基本だろうが……
「……ガ様。」
────どこからやるべきか……
「……ンガ様」
────そうだな。NPCの忠誠心と、魔法が使えるかどうかあたりだろうか……
「……モモンガ様?」
────あとはそれに加えて……
「お、お父様、大好きです!」
……。
「はっ?」
─────────────────────────────────────
純銀の鎧を纏った男……さぁ、誰でしょう? (棒読み)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます