第3話 リク・アガネイア


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「うーん。おかあさんも、おとうさんも遅いね。」


 その幼女は今日、「おたんじょうび」のお父さんとお母さんをジッと待っていた。


「早く、帰ってこないかな?」


 その幼女は両親に渡すために必死に練習し、やっとできた折り紙で作った2つのお花を前に、両親が帰って来た時の驚く反応を想像し、無邪気に笑っていた。



 その日、おかあさんとおとうさんは帰ってこなかった。


 その次の日も、おかあさんとおとうさんは帰ってこなかった。


 その次の次の日も、おかあさんとおとうさんは帰ってこなかった。


 幼女は家の中にある水や食料をちょっとずつ食べては寝てを繰り返し、両親の帰りを待っていた。


「ただいまー」

「ただいまー」


 がばっ。


 幼女は両親の声を聞き、飛び起きる。


 しかし、目の前には2人の姿はなく、あるのは2つのお花だけだった。



 ────「るなはいい子だね。」

 ────「ふふふ、そうね。」

 ────「えへへ、るな、いい子?」

 ────「ええ、そうよ。」

 ────「ああ、僕たちの自慢の娘だよ」



「……いい子でいなくちゃ。」


 その次の次の次の日は誰か知らない人が来た。そして、おかねを少しくれるとそのおじさんは言った。


「君のお父さんとお母さんは死んじゃったんだ。もし、行くところがないなら、おじさんのところに来る?」


「いやー。最近ね、おじさんたちの会社の資金に余裕ができたらしくて、君みたいな従順で小さい子を募集中らしいんだよ。」


 そのおじさんの目を見て、幼女はゾクッとした。幼女の顔が青ざめていく。


「……で、でも、おとうさんとおかあさんは帰ってくるって!」


「お嬢ちゃん、お父さんとお母さんは死んじゃったんだ。もう帰ってこれないんだよ。」


「……そ、そんな、そんなわけないの! それに、るなはいい子!勝手に知らない人についていったらダメなの!」


 幼女は目にいっぱいの涙をため、おじさんを睨み付ける。


「……はあっ。」


 おじさんは深いため息を吐くと、幼女を持ち上げる。


「うわっ」


「はいはい。お嬢ちゃん、暴れない。暴れない。」


 幼女はそれでも、ジタバタする。


「あー。もう、面倒くさいな。誰だよ、従順なんて言ったの」


 幼女はおじさんの鋭い目を見て怯む。


「……ガキは黙って、俺の言うこと聞いてりゃ、いいんだよ。」


「あ、あー。……おとう…さん、お…かあ…さ……ん……」





 ウルベルトは急に現実に引き戻される。と言っても、リアルの方にではない。


 

 ばっ。



 ウルベルトは椅子代わりに座っていた岩から離れ、そこから10mほど後ろに高速で移動する。これはもちろん、現実の技術だけではできないため、ユグドラシルには本来存在しないはずの魔力の使い方をしている。

 それは後に武技に近いものと判明するのだが、それはまた別の話だ。


 その瞬間、岩の傍に白金鎧の兵士が現れる。


 その白金鎧の兵士は突然、殴りかかってくるようなことはせずに、ウルベルトに向かって話しかける。


「初めまして。驚かせてしまい、すまない。ところで、こんなところで、君は何をしているんだ?」


 しかし、こんな会話の間にも、両者ともにお互いの動きを牽制し合っていて、一触即発の空気感だ。





「初めまして。私はルーナと申します。旅をしていまして、少し訳あってここで野宿をしていました。」


 ウルベルトは即座に考えた設定を喋る。地頭は悪くないと周りから評価されているが、小卒のため本人は内心びくびくしていて、それに加え、こちらの世界の文字はさっき観察していたら、読めなさそうだったこともあり、意思疎通が可能なのか事態も不安の種だった。

 しかも、前にたつ者の強さは自分かそれ以上というおまけつきで警戒心がMaxだった。そのため、ウルベルトは心の中で舌打ちをする。


「あなたのお名前をお聞かせ願えますか?」


「……リク・アガネイアだ。」


「そうですか。あなたこそ、何をされていたのですか?」


「私も君と同じようなところだ。」


 このままでは埒が明かないと思ったのか、白金鎧の兵士は鎌をかける。


「話は変わるが、“プレイヤー”というのは知っているか?」


「……はいと言ったら、どうしますか?」


 ウルベルトは白金鎧の兵士と相対した時に、大体相手の性格は掴めた。この兵士はおそらく、無意味なことはしないタイプだろう。それは裏を返せば、話が分かる人ということだ。そういう同格もしくはそれ以上の存在に嘘をつくのは危険だ。

 何より、自分の短いながらも、長年の経験の感がそう言っている。


「いや、私はこの世界にとって害になる者は逃せないとは思ってはいるが、君はそうではないような気がする。」


「良ければ、君がここにいる経緯や目的を聞かせてもらえれば、ものによるが、君の目的の手伝いをできるかもしれない。もちろん、君のことを聞かせてもらえれば、私のことについても話そう。それに、君はあまりこの世界について知らないんだろう。この世界についてもいろいろと知っていることを教えられると思うんだよ。」


「なるほど。」


 ウルベルトは少し考える。今のところ、リアルの会社から詳しい指示は受けておらず、ウルベルトの目標はあくまで、モモンガさんと再会し、モモンガさんの様子を見ることだ。それに、この白金鎧の兵士は戦闘面でも頭脳面でも強く、この世界でも身なりや強さから結構な立場にいると予測できる。

 そんな人物と敵対するのは正直言って、御免被りたい。


 ウルベルトはその提案を受けさせてもらった。


「えっと、アガネイアさんでいいですか?」


「いや、リクと呼んでくれて構わない。」


「じゃあ、リクさん。すみません、椅子がないのですが、いいですか?」


「それは別に問題ない。」


「分かりました。では、契約内容を詰めて行きましょうか。私が先ほど、リクさんが言ったものを情報として提供する代わりに約束していただきたいことが3つあるのですが……」


「聞こう。」


「それは……」


 ルーナがリク・アガネイアにお願いした3つの事は以下の通りだ。


 1つ目は、私とここに来ているだろう仲間に対する仲間をこの世界の住人としてこの世界の害にならない限り、敵対しないこと。まあ、これは当たり前だろう。ルーナがこの世界に存在する理由はモモンガさんと自分や仲間たちが作ったNPCたちの様子を見るため、ただ1つなのだから。これを無くしてはこの契約は絶対に成立し得ないのだ。

 2つ目は、この世界の情報を教えてもらうことだ。今日一日で分かったことは少なくないが、ここで長々と情報収集ばかりをしているわけにもいかない。それに、その情報にはもちろん、モモンガさんやNPCたちに関しての情報もそうだ。手がかりをメッセージで連絡してもらうように言った。まあ、それに伴っての最低限のモモンガさんやギルドの情報は渡した。

 3つ目は、リク・アガネイアの正体だ。これは当然、前の2つと比べてもことが事なので、一切教えてもらえない可能性さえもある。しかし、今の自分では目の前にいる──いや、正確にいうと本体は別のところにいるだろう──存在の正体については大した情報は得られないと考えられる。そのため、本人から少しでも情報を引き出せたら……くらいに思っている。



「……分かった。1つ目と2つ目についてはそれでいいが、3つ目は君が提供してくれた情報とこれからの君の行動によるとだけ言っておこう。」


 その後は夜通し2人は互いに会話をし、あっという間に時間は過ぎていった。


「すまないね。もう朝になりそうだ。」


「いえ、本当にありがとうございます。参考になりました。」


「いや、こちらも君の情報には感謝している。」


「では、これからもよろしくお願いしますね。」


「ああ、よろしく」



 ルーナとリク・アガネイアは握手をし、別れた。







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 いきなり、ツアーが出てきました。個人的にはツアーは結構好きなんですよね。

 なぜかって?

 まさかの私自身も分かりません! でも、なんか好きなんですね。


 そして、次回はアインズ様サイドを書こうと思っています。早く、再会してほしいですね。(書いているの私)

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