第2話 野望のごとき恋
あなたはカッコいい男性…とは、お世辞にも言えない。卒業した大学も…まあ、二流かな?車は持っているけど…荷物も友人も沢山乗せられる(笑)バンだし。身長だって…平均的だし。だけど、あたたかな優しさを持っている男性だと思うし、そこにひかれたのも事実だ。
「甘いものって食べちゃうよね~」と自虐的に笑いながら私と同じパフェを食べたりするのも好きだ。
車の後部座席で爆睡する友人たちをミラー越しににらみつけ、睡魔と戦う私に
「無理しないで寝なよ」と笑って言えるとこも好きだ。
私が好きなアーティストが自分と同じだと知ると
「これ、良くない?」と
音源をくれたりもする。そんな単純で、誰にでもできることで、私にだけくれる優しさでないことはわかっているけれど…やっぱり、好きだ。
友人たちとプレオープンした水族館に行こうと盛り上がったけど、当日集合したのは、あなたと私だけだった。私の気持ちを知っている友人たちからのプレゼントだった。
「なんだよ、あんなに盛り上がっててドタキャンの嵐かよ」
「ね~ひどいよね」
私は、心臓が飛び出すんじゃないかと思う位ドキドキしていた。
「どうする?ふたりだけじゃつまらないから解散する?」とかまをかけるように言ってみた。
「せっかくだから行こうぜ」と笑ってくれた。
水族館で、あなたはとても紳士にエスコートしてくれた。冴えない私にはもったいないくらいだった。イルカのショーやペンギンの散歩。
「クラゲに生まれたい」とか、まるで高校生のデートのようにふたりではしゃいだ。 いや、今の高校生はもっと大人なデートかもしれない。きっと、あなかたが精神年齢が子どもな私にあわせてくれたんだ。
水族館を出て
「楽しかったぁ、ありがとう」と言うと
「飯食って解散しよう」
と言ってくれた。
体が熱くなるのがわかった。『まるで…デートじゃん』
「何が食べたい?」
「何がいいかなぁ」
「まかせてくれる?」
「もちろん、よろしくです」
ここで迷わないのが、あなたの良いところでもある。
あなたが選んだお店は、小さなたたずまいの天ぷら専門店だった。
「しぶいお店だね」
「美味いよ、保証する」と笑う。
店内に入ると「いらっしゃいませ」と穏やかな店主の声。
度肝をぬかれた。カウンター席しかない。しかも、ひと目で高級かもとわかる、きれいな一枚板のカウンターだ。
「おや、今夜はデートですかな」と店主が話しかけてくる。急に恥ずかしさが倍増する。
「そんな感じかな」と言いながら、椅子を引き、私をエスコートしてくれる。
『ヤバい…こういう店は初めてだ』
恥ずかしさと心配が交互に襲う。私は正直に
「フォークやナイフが並ぶお店も緊張するけど、こういう専門店も緊張しちゃうな」と言うと
「大丈夫、大丈夫、気楽に美味いものを食べようよ」と優しく言ってくれた。
「オレのじいさんがこの店を気に入っていて、小さい頃からじいさんや親父と来てたんだよ」
「大将も二代目、客も二代目ってこと」と言うと、店主も笑いながら軽く頭をさげた。
「今も先代が店に出る時はじいさんも来るんだよ」と話してくれた。
「今夜はどんな感じでお出ししましょうか」
「おまかせでお願いします」
『ヤバすぎます…せめて料理の予備知識をください』
「私…正直、こういうお店初めてだから、失礼なことをしてしまったらおしえてね」
「そんなに緊張してたら味がわからなくなるよ」と笑ってくれた。
あなたと普段はしない話しもできた。なぜ、卒業した大学を選んだのか、仕事との向き合い方、友人たちは一生ものの宝物だと。
夢のような一日だった。私を一人の女性としてエスコートしてくれ、デート?と聞かれても私に恥をかかすようなことは言わずにサラッと受け流してもくれた。いつもとは違う、大人な面を見せてくれた。
「今日は楽しかったな、
「水族館なんて遠足みたいなことに付きあわせてごめんね」
「楽しかったって言ってるでしょ、素直に受けとりなさいな」
そして、
「素直で真っ直ぐなところが、おまえさんの良いところなんだから」と言ってくれた。
「…ありがとう」
「こちらこ楽しい一日をありがとう」
涙が出そうになった。なんて素敵な人なんだろう。人を好きになるって条件じゃない。無条件にひかれてしまうんだ。
店を出ると、当たり前のように
「送っていくよ」と言ってくれる。
「電車で帰るから大丈夫」
「なんで?送るよ」
「う~ん、電車で帰りたい気分かなぁ」
「そっか、わかった」
「気をつけて帰れよ」
「うん、ありがとう」
「また、楽しいことしような」
「うん」
少し歩いて振り返ると、あなたはまだ、そこにいてくれてた。私が小さく手をふると、あなたはおおげさに大きく腕を振ってくれた。少しカッコ悪いけど、少しカッコいいと思った。
「また楽しいことしような」って言ってくれたけど、きっと「また、みんなで」なんだと解っている。だって、ふたりだけの約束はなかったから。少し泣こう…少し泣いたら、野望にも似た想いを胸に秘め、あなたに見つけてもらえるように頑張ろうと思った。
いつか必ず
「あなたが好きです」と伝えたい。
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