第4章 いざ、ボイドへ

 8月も終わりに近づいているというのに、相変わらずの熱帯夜にうんざりしていた頃。


いつも通りホール投げ練習をしていると、ケトラーが見慣れたフード姿で、どこからともなくやってきた。


「話がある。」


そう言うと裏路地の片隅に座った。俺も地面に座った。いきなりの言葉に俺は困惑を隠せなかった。


「ボイドに行くぞ。」


「よし!」


思わず心の声が漏れてしまった。急いで隠そうとしたが、喜びはとどまるところを知らなかった。


「本当だったらこんなタイミングでは行かせない。基本的にボイドに行くのは、闇騎士の弟子となってから1年以上経過してからだ。ただ、これから1週間後に闇騎士総会議がある。その話があまりに大きい話でな、お前が関係するところでもあるんだ。それに行くにあたり、サベルト総長がお前を連れてきていいと言ってくれた。そんな事があって、お前をボイドに連れて行くに至った。お前はこれから少しの間、現実世界から離れる事になる。すると現実世界しか知らない人間たちは、お前を行方不明として扱う。するともう人間は、誰も信じてくれないぞ。覚悟はできてるな。」


学校をやめた俺にとって、いま現実世界で関わりを持つべき人はいない。今唯一関わりがあるのは琉だけだった。それも、携帯の連絡機能によるちょっとした関わりのみ。


ちなみに琉は、闇騎士捜査班になるための勉強をしているそうだ。どちらにしろ、もう人間の目を気にする必要はない。


「できてます。」


 するとケトラーは静かに話を続けた。


「ボイドへの行き方は簡単だ。目をつぶって『黒い世界の白き掟に忠誠を誓う』といい、行きたいボイドの位置を頭に浮かべる。するとその場所に行くことができる。お前の場合はまだボイドに行ったことがないから、取り敢えず黒い世界を想像しろ。その後に俺がお前を想像すると、お前とおんなじところに行くわけだ。いいな。」


「はい。ちなみに、クリーチャーに襲われたらどうするんですか?」


「やるかやられるか、それは運次第だ。弱いやつだったら試しにお前にやらせてみる。」


「あのなんか…命の保証とか…」


「無い。」


「…まじかよ」


少し動揺しつつも行くという決意は変わらない。行こう。そう思い目をつぶった。


「一つ言い忘れてたことがある。ボイドには、逆転効果と言うものがあると昔言ったな。覚えているか?」


「いや、覚えてないです。」


「ボイドに行くと、年齢がどんどん若くなっていくという効果だ。ボイドと現実世界をうまく移動して長生きするのが闇騎士だ。」


「ちなみにケトラーは何年生きていると?」


「さあ…後々わかることだ。さて、そろそろ行ってみろ。」


 俺はケトラーの含みのある言い方に困惑しつつも、心を安定させ、目をつぶり唱えた。


『黒い世界の白き掟に忠誠を誓う』


何も感じなかった。しかし、目を開けた時には、もうすでにボイドという世界に飲み込まれていた。

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