第3章 武器

「ボイドの中には、クリーチャーと呼ばれる生物が生息している。クリーチャーには、この前のセスのような友好的なやつもいるが、敵対的なやつもたくさんいる。そんな奴らをを討伐するのも闇騎士の仕事だ。」


ケトラーはボイドの中のことを何度か語った。が、ボイドに入ったことのない俺にとっては全くわからない世界だった。俺はいつもそんな未知の世界の妄想にふけてしまっていた。


「これからお前にその戦い方を教える。」


俺は心が躍った。ただそれを顔に出る寸前で殺して、いかにも動揺していないよう取り繕った。


「武器は主に2つ。ナイフとこのホールだ」


「ナイフはお前が予想している通り、相手を切り裂くための道具だ。短く平たいのは、機動性と切れ味を重視しているからだ。また、ハンドルの部分に穴が空いている。そこに指を通すと、ナイフを回転させることができる。この動きは使いやすいから覚えておくといい。」


俺は言われた通り、指を通してみた。ナイフはすぐに回った。これなら、どんなに硬いものでも切れそうだ。ケトラーは続けた。


「見覚えがないのはこっちのほうだろう。」


するとケトラーはホールの方に目を向けた。『ホール』はキリのように先の尖った金具だった。持つ部分は細い丸太のようになっている。


「ホールは投げて相手の弱点を突くための物だ。試しに投げてみろ」


するとケトラーは俺にホールを一本渡した。


「あの電柱の穴を狙ってみろ」


「はい」


電柱の穴は驚くほど狭かったが、とりあえず投げてみた。しかしそれは穴どころか電柱にすら当たらなかった。


「投げ方が違う。もっと横から、下投げのような感じで投げてみろ。そして回転をかけるんだ。」


そう言うとケトラーはホールを力いっぱい投げた。すると、一発で穴の真ん中をきれいに突いた。俺は一瞬我を失った。目で追えないスピードで真ん中を突く技術。俺は本能的に言葉を発した。


「詳しく教えてください。」


「仕方ない。」


ケトラーは悲しそうに言ったものの、彼は内心自分の弟子が闇騎士に興味を示しているのが嬉しくてたまらないのだった。



 それから、ホールを投げるという練習の日々が続いた。真ん中を撃ち抜くにはそれだけの技術がいるのだろう。毎日500回投げるというきつい練習の中で、フードの奥から喝が飛んでくる。


そして毎日疲れ果てて帰り、家で寝るのだ。腕の筋肉痛はひどかったが、段々と真ん中を射抜けるようになってきた。1日に百回以上射抜けるようになってきた頃、


「よし、大分射抜けるようになったな。そろそろ次のことに行ってもいい時期かな。」


とケトラーは空を仰いだ。俺はワクワクが止まらなかった。


「次は何を…。」


「心の声が漏れてるぞ。」


ケトラーは笑顔でそういった。俺は一瞬顔を赤らめたが、すぐに平静を取り戻した。


「よし次は動きながらホールを投げるぞ。実際、戦闘時は相手も自分も動いているわけだからな。ただ的が動くのは実際難しい。まずは自分が動くところからだ。最初の200回は止まったまま、その後の300回は動きながらホールを投げろ。明日からな」


「はい…」


俺は自身がなかったが、ホールがきれいに命中すると、実際楽しかった。するとケトラーは今までにない妙なことを口にした。


「お疲れ様」


俺は反応できなかった。ケトラーが今まで一度もそのような言葉を発したことがなかったからだ。俺は嬉しかった。


「はい…お疲れ様です。」


しどろもどろに答えながら家に帰った。その日はよく眠れた。



 その後の練習の日々は、前にもまして厳しくなった。1週間立ったが、全く命中する気配が見えない。投げ方がわからない。するといきなりのアドバイスが耳を通った。


「体は動かしても、ホールの位置は動かすな」


この言葉をひたすら意識し続けると、少しずつ変わっていった。なぜ早く言わなかったのかはわからなかったが。


その後、的も動くものにしたが、それも1週間ほど奮闘したあとに、アドバイスを口にするのだった。闇騎士になってから3ヶ月が過ぎてやっと、


「うん、ホール投げはこのくらいだな」


「よっしゃー」


俺は飛び上がった。


「いや、最低限のレベルにやっとたったくらいだ。騎士たるもの、日々の訓練を怠るべからず。これからも毎日やっていくと良い。じゃあ、これを授ける。」


そう言うとケトラーは俺にきれいなホールを2つくれた。


「今ボイドの方にいる知り合いからもらった新品だ。闇騎士の世界にお金とかの概念はないからな。みんなの信頼で成り立っている。だから、信頼をなくすと居場所を失うことになるぞ。あと、渡すのを忘れていたが、ナイフだ。そしてこの2つをしまうために、腰につける物がある。こいつもやろう。腰につけてみろ。」


「分かりました。」


それはおもった以上に軽かった。そして穴が3つあり、2つのホールと、1本のナイフが入るだけのスペースの穴が空いていた。その穴それぞれを刺すと、綺麗に固定された。


「抜く時のことも考えて、すぐに抜けるように設計してあるんだ。」


たしかにすぐ抜けた。穴が少し斜めっているため、取った瞬間すぐに戦闘態勢に入ることができる。


「この3つが揃って初めて上手い戦い方ができるようになる。これからも練習あるのみだ。」


そうしてホール練習は終わったが、ホール投げ練習はそれからも日課になり続けた。これからもっと強くならなければいけない。そう感じていた。夜の闇の中にて。

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