第2章 裏路地にて
奴の行く先は全くわからなかったが、とにかくついて行った。奴は時々どこにいるかわからなくなる。奴もそれを察したのかわかりやすく手を動かして俺を誘導した。奴が考えていることは知る由もなかったが、なにか嫌な予感はあった。奴はいきなり止まり、ゆっくりと口を開いた。
「ここだ。」
そこはとある裏路地だった。暗かったが、生ゴミやヘドロなどは全く無かった。奴が管理しているのだろう。
「なぜここに?」
「ここは、警察の捜査が届かない。その上、防犯カメラが設置されていないから、拠点として最適なんだ。そして、今はまだ闇騎士と子供だ。これから、闇騎士の世界に踏み込むのならば、お前は闇騎士として俺の弟子となる。お前は闇騎士になるか?」
「もちろん。」
「闇騎士になれば、人には常に嘘をついている状態になる。誰も信じられないし、闇騎士としてお前を知っている人しか信じてくれなくなる。覚悟はできてるな。」
「それはいままでも一緒だから」
「よし!決まりだ。俺は闇騎士の1人、ケトラーだ。お前は確か快斗とかだったよな。」
「はい…これからお世話になります」
なぜケトラーが俺の名前を知っているんだろうと疑問に思ったが、それもおいおいわかると思い、今は聞かなかった。
「さて、今日は夜が明けてきた。そろそろタイムオーバーだ。明日ここで夜の11時頃来てくれ。以上だ。」
「はい」
俺は快く返事を交わして新しく借りたアパートのベッドに就寝した。
朝に弱いおれにとって、暗い雨の日の朝は気分が最悪なものになっていた。雨の中傘を片手に学校に行こうとしたが、学校は行かないことにすると決めたのだった。前の火事の事件から、心が病み、学校に行けないという設定だ。事件の後に知ったが、親は大企業の副社長だったらしい。今の俺には、財産だけはたくさんある。ケトラーの感じを見ていると金はあまり必要そうには見えなかったが、俺の今の生活には不可欠だった。俺は親に感謝をした。昼まで寝ていればよかったと、心の中で後悔する。これからは、昼夜逆転の生活になっていくだろう。俺は買い物に行き、食べ物を買ったあと、新しい家に帰った。暇を持て余すために、しょうがなく家で自作ゲームのプログラミングをしていた。なんとか一日を乗り越えて、少し寝た後11時に裏路地へ来た。ビルとビルの間には、月の光すら届かない。ただ、この暗闇にもいずれは安心を感じるようになるのだと思うと、時間の流れの速さを問うのだった。ケトラーはもうそこにいた。黒いフードを相変わらず身に纏い、不気味なオーラを漂わせながらも、その声は非常に落ち着いていた。
「やっと来たか…まあいい。今日が初めてだな。お前は、闇騎士がどんな奴だかわかるか?」
いきなりの質問に戸惑う俺だったが、自分がわかるだけのことを答えた。
「…闇の中で人を殺す」
「…それだけか?」
俺は答えることができなかった。
「分かりません。」
「まあいい。最初なんてそんなもんだ。むしろ今まで全くわかっていないことについて、いきなり聞かれて答えられるはずがないからな」
ケトラーは小さく笑った。
「まず前提として、闇騎士の最終目標は、人間という生き物を滅ぼすことだ。」
俺は面食らった。ケトラーは話を続けた。
「歴史が色々とあって、人間とは敵関係にある。だから人を夜の闇で少しずつ抹消していくんだ。ただ、そんなちまちまやっていても人間は増えるばかりだ。時が来たら、人間を仕掛けるつもりだ。闇騎士は基本この現実世界とボイド空間と呼ばれる世界を移動する。ボイドとは、暗い、というより黒い世界だ。俺等は基本そこで生きている。お前がもう少し闇騎士の世界に慣れたら、ボイドに連れて行こう。ボイドに行くと年齢の進みが逆になる『逆転効果』というものがある。ただ、この逆転効果は十五歳で止まる。だから、ずっと生きることも可能だ。他のことは時が来たら話していく。今お前に一番覚えてほしいことは、普通を演じることだ。それは普段だけでなく、殺人を行うときの技術としても使うことができる」
「何故そこまで殺人にこだわるのですか?」
「それは歴史が関係しているのだ。言っただろう。人を滅ぼすために在るのだと。話を戻すが、普通を演じることは人間どもの言う、人間性ってやつを高めることだ。周りの人の話を聞く、自分の話を話す、それだけだ。それを嘘を隠し持った状態でできるかは、お前の技術の問題だ。」
「人と話すタイミングはあまりないのですが。」
「闇騎士は基本そんなもんだ。しかし、毎日緊張感がなければ、ポロッと口にしてしまう可能性もある。」
そう言うとケトラーはポケットから何かを取り出した。カメラを持った小さな生き物だ。小さいが笑顔で可愛いやつだ。
「こいつはとセスと呼ばれるクリーチャーの一種だ。俺達によく懐いて来る友好的なやつだ。また、タイミングに合わせて透明化できるという特性を持つ。いい忘れてたが、クリーチャーはボイドに生息する生き物の総称だ。まあ、現実世界につれていくのには条件があって、結局ここに連れてこれるのはこいつくらいだけどな。こいつにお前をしばらく監視させる」
そう言うとケトラーは、
「セス、頼んだぞ」
と一言口にした。相変わらず笑顔のセスはそのまま俺の方に来た。思わず撫でようと手を伸ばしたが、それをセスは嫌がったのか逃げた。
「セスは初めて見るものを警戒する習性があるんだ。」
と笑いながらケトラーは言った。僕がむっとしいてると、
「そろそろ時間だ。」
と話をそらした。俺は笑いながら別れを告げ、また、いつもの家に戻っていった。
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