闇騎士
@17x
第1章 闇に飲まれて
生き物は全て直感で行動を起こす。もちろん人間もだ。そんな考え方を社会はいつも否定する。「理性を持て」とか、「その行動を起こしたあとを考えろ」とか。生き物の直感がその後どうなるのかなんて俺にはわからない。ただ、その直感は時に人生を180度変えてしまうこともある。
俺の名前は、千葉快斗(ちばかいと)。そこらにいるただの男子高校生だ。運動神経は良く、自分が興味を持ったことはひたすら追求し続ける奴だった。だからか、得意科目では常にトップだったが、苦手科目は全くできない。運動神経だけが持ち味だった俺は、とにかく暇を持て余していた。日が昇っている間は、これといって目立った趣味もなく、平凡な毎日を送っていた。しかしそんな俺にも、一つだけ楽しみがあった。夜の街の散歩だ。俺が住むこの街は、特に治安がわるいことで有名だった。夜の散歩をしていると、よく怪しい奴がうろついている。そういう人に絡まれるのがスリリングで楽しかった。今日もそれをやるつもりだ。そんな夜の計画を立てていると、俺の唯一の幼馴染である秋田琉(あきたりゅう)から大声が聞こえてきた。
「お前は何を企んでんだよ。夜、殺されたりしたら責任取れねえからな?」
「人の心配する前に自分の心配したほうが良いんじゃないの?成績落ちてるじゃん。」
「成績は関係ないだろ、命に関わることをするなって言ってんだ。あとお前のほうが成績わるいだろ。」
琉は正義感の塊のような奴で、いつも俺の心配だけをしてくる。時々言い合いになることもあるが、それも俺等の青春であるのだった。
今日もいつもと同じように学校で友達とふざけていると、先生がいきなり俺を呼び出してきた。俺は、何を言われるのかとドキドキしていると、衝撃の連絡を受けた。
「快斗!お前の家が今燃えているらしい。火事だ。一度家に帰って、家族の状態を確認しなさい。」
「嘘だろ…」
それは突然のことに驚きを隠せなかった。家族は無事だろうか。家は大丈夫だろうか。俺は、学校から飛び出して家に向かった。家は燃えていた。家族はまだ見当たらない。
「中に人がいるんだぞ!救助活動に人をあてた方が良いんじゃないのか?」
その言葉を聞き、俺は、家族が全員燃え盛る家の中に残されているということを悟った。ただ、家族の無事を祈った。そして、救助がいち早く行われることを願った。その時だった。
「こんなに火が燃えてるんだ!救助は無理だ。人の命より自分の命を優先しろ。」
その言葉で俺の全ての希望は絶望に変わった。俺は、一か八かで燃え盛る我が家に飛び込んだ。危険な場所ならなれている。周囲は何やら叫んでいるようだったが、俺には聞こえなかった。炎は狙いを定めたかのようにこっちに向かってきた。俺は自慢の運動神経でそれを交わした。息を止めて煙を吸わないようにしながら慎重に、そして早足に、家の奥へと向かった。出火元はキッチンだった。そしてそこは炎に包まれた両親と、煙を吸って倒れた弟がいた。両親を助けようとすると俺も火だるまになる。助け出せるのは唯一弟だけだ。俺は弟を掴むと窓を開けて叫んだ。
「こいつをお願いします!」
するとすぐさま消防隊と担架が駆けつけた。向こうに弟を渡そうとすると、消防隊が俺と弟を同時に持ち上げて、助け出した。
「君は何をやっているんだ。自分がここから生きて帰ってこられたことを奇跡だと思え!」
俺は消防隊に一喝された。俺はそれだけ危険なことをしたのだ。俺は燃える家を呆然と眺めていた。
しばらくすると火は消し止められた。家は黒く焦げていたが、原型は保たれていた。弟は一酸化中毒で死亡した。俺があれだけの努力をしたにも関わらず、容赦なく命を奪っていく炎を憎んだが、何も変わらなかった。俺は、バイトで稼いだ金で、アパートを借りた。
その日の夜、俺はいつも通り散歩をしていた。ただ、今日の俺はいつもよりも刺激求めていた。いつもよりさらに道を外れて暗い道に出向き、闇を堪能していた。すると、奥から物騒な男の影が近づいてきた。
「何してんだ?ガキ。ガキの動く時間じゃねえから早く帰りな?それとも夜の闇となって消えたいか?」
「お前、闇騎士か?」
これは、なんの根拠もないただの勘だった。ただ、この言葉が、俺の人生を大きく変えた。
『闇騎士』。それは夜、度々殺人事件を起こすと言われる謎の騎士団だ。今警察では捜査が難航したものをすべてまとめて、闇騎士捜査班が担当するほどだ。しかし結局出てきたものはたったの4件。それもただの人間がやった凶悪事件に過ぎない。闇騎士は都市伝説にまで入るほどのものとなっていた。何故かわからないが、闇騎士という存在は実在するものとして扱われている。ここには政治が裏で関わっているとか、そんな話が多かった。俺はそんな闇騎士の驚くほどのステルス能力と完全犯罪の素晴らしさ、そして何よりもスリルのある仕事だということに憧れ、夜にバレずに動くということを練習しているほどだ。そのために夜を散歩しているのもある。このチャンスは逃したくなかった。
「俺は、昔から闇騎士っていうミステリアスな存在に憧れてた。あんたが闇騎士なら、俺を闇騎士に入れてくれることってできるよな。お願いだ。俺を闇騎士に入れてくれ。」
奴は、微かに笑みを浮かべた。
「面白い。お前はこれから人としての人生を歩めなくなる。これからは一生闇騎士の人生だ。覚悟は良いな。まあ、覚悟ができていないのであれば殺すだけだが。」
「ああ、覚悟はできてる。できてないとこんな事言わない。」
「そうかもな。ついて来い。」
俺の夢は、こんな出会いからいきなり叶ってしまった。ただ、俺はこれから壮絶な戦いが待っていることをまだ知らない。その日はまだ、何も知らぬまま、奴について行くのだった。
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