天使に転生したオレは、王様に前世の頃から目をつけられていたようで、いきなり「お前の魂そのものを愛してる」と強引に婚約を決められ溺愛されることになりました
(番外編)ダリウス、天の知らせは恋の始まり。そして光ある世界へ。
(番外編)ダリウス、天の知らせは恋の始まり。そして光ある世界へ。
結婚式から半年が過ぎていた。
早朝から、ジタバタと動く人の気配で目が覚める。
「うわぁ……。やっぱり正気に戻ると恥ずかしい」
私の腕の中で、ティアレインは両手で顔をおおって布団に潜り込む。耳まで真っ赤だ。
「それは、まぁ、私もだから気にするな」
お互いの本性、剥き出しの姿を晒したのだから。
昨日の昼間、ティアレインに初めてのオメガの衝動であるヒートが起きたのだ。王の務めを果たし自室のドアを開けた瞬間、濃厚な花の香りが廊下にまであふれ出した。
「ッ!? ティアレイン……」
「……身体が……熱い……」
蜜のように甘いオメガのフェロモンにあてられれば、当然アルファの本能が呼び起こされてしまう。ティアレインに乱暴な事はしたくない。千切れ飛びそうになる理性をどうにか抑えながらベッドに近づく。
「ダリウス」
布団をめくると、私の着ていた服やら物をかき集め、それらを抱きしめるようにしながらティアレインは戸惑いの表情を浮かべる。
「ダリウス、助けて……」
目は潤み顔だけじゃなく体も真っ赤に染まり、頸の噛み跡は薔薇のようにくっきり浮かび上がっている。
荒い息づかいだけが聞こえる。
ティアレインが、私の方に手を伸ばす。その手を取った瞬間、アルファの本能が衝動が抑えられなくなった事だけは覚えている。
たしかに思い出すと、穴を掘って地中深くに自分を埋めたくなるな。
「ダリウスもオレと同じ気持ちなんだね」
「あぁ。一緒だ」
まだ気怠さの残る身体を横たえまどろむ。
「いつもの眼鏡ダリウスもいいけど、かけてないのも新鮮で良いね」
私の髪をもてあそびながら、ティアレインは微笑む。
「そうか? 私は幼い頃から眼鏡をかけていたから分からないが、そんなに違うか?」
「うん! かっこいい。あっ! そうだ、ダリウスが王様になった時の事を知りたい」
寝転がっていたティアレインが起き上がり目を輝かせ聞いてきた。
「そんな大した話ではないがいいか?」
「ダリウスの事は何でも知りたい」
「分かった」
枕元をポンポンと叩くと再びティアレインは寝転がる。私はティアレインの体を抱き寄せ腕枕をする。
「どこから話そうか……」
少し悩んでから、やはり忘れられない二十才の誕生日の日の話からする事にした。
—— 約99年前 ——
「明日は貴方たちの二十歳の誕生日ね。何か欲しいものや食べたい物のリクエストはある?」
リビングで、あとはもう寝るだけのくつろいだ雰囲気の中、母が私と妹カレンに聞いてきた。
「そうだな。新しい本が欲しいな」
「わたくしは母様の煮込みハンバーグが食べたいわ」
「分かったわ。じゃあ明日、皆んなでお買い物に行きましょう」
「魔天回廊に大きな本屋が出来たんだ。行ってもいいかな?」
「本当、兄様は本が好きね。わたくしは絶対ハンバーグの方が良いわ」
「本も面白いんだぞ!」
「ハンバーグの方が幸せになれるわ」
言い合いを始めた私たちを見ながら「もう仕方ない子達ね。本屋も行くしハンバーグの材料も買うんだから喧嘩しないの!」と溜息をつきながらも母は微笑んだ。
「でも母様、明日のお仕事は?」
「明日は学校の創立記念日なの。だから母さんも父さんも休みよ」
「じゃあ。じゃあ。ピクニックもしたいわ!」
休みと聞いた途端に、カレンはソファから勢いよく立ち上がり母に飛びつく。
「はい。はい。お弁当を作って行きましょうね」
「ありがとう母様! 兄様、明日はピクニックよ!」
「私は、本が読めたら何処でもいい」
「もう! ノリ悪いなぁ」
私の一族ファレイスターの者たちは、魔天回廊で代々学校の教師をしている。そのせいか両親は教育や礼儀にも厳しいが、こう言った祝い事は必ず忘れずにやるし、ある程度の我儘も聞いてくれる。
「では今日は早めに休みましょう」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
自室でベッドに転がったが明日が、というよりあと数時間で誕生日が来るからなのか分からないけど、何故だか全く眠気がこない。
「少し外の空気を吸うか……」
静かに起き上がり、ベッドサイドテーブルを手で探り眼鏡を手に取ってかける。音を立てないようにドアを開けて廊下へ出る。
「まさか兄様も眠れないの?」
同時に隣の部屋のドアからもカレンが出てきて、小さな声で驚いている。双子だからかもしれないが度々こういった事は起きる。
「あぁ。15で成人はしていても、何となく二十才となると落ち着かないな」
「分かるなぁ。きっと三十才になった時も同じ事を言ってしまいそう」
「そうだな」
「ふふふ!」
書斎で研究を続ける父に気づかれないように、寝室で寝ている母を起こさないように、二人で忍び足で小声でしゃべりながら玄関ドアを開けて外に出る。魔天回廊の夜は真っ暗だ。はっきり言って何も見えない。
「夜風が気持ちいい」
「あぁ。気持ちも落ち着くな」
「あと数分で二十才ね!」
「二十になれば仕事も見習いなんかじゃなく正式に働ける。カレンはどんな先生になりたい?」
「ん〜。そうね。わたくしは、やっぱり母様みたいな先生かな! 兄様は?」
「私は父さんのような研究も出来る先生になりたいと思っている」
「ふふふ! 本ばかり読んでる兄様らしいわね」
父は人間界と、この死後の世界の関係性に興味を持っていて研究に没頭している。世界の謎に迫る感じの本まで出すくらいだから、どちらかと言えば先生じゃなくて研究者に近いかもしれない。
「兄様、もうすぐよ」
腕時計の光る文字盤を見てカレンは楽しそうに微笑む。
0時を知らせる時計のアラームが鳴り、二十才になった瞬間、異変は起きはじめた。
私とカレンは眩しいほどの光に包まれ脳内に直接、透き通る声が響きこの死後の世界の理といった様々な情報が流れ込んできた。
「「天の知らせ!?」」
予想外の事に思わず、私とカレンは同時に叫んでしまった。
異変はそれだけでは終わらない。更に身体も変化しはじめる。両親譲りの黒い髪の毛は真っ白に、瞳の色も黒から金色に変わる。そして私の頭上には虹色に輝きを放つ天使の輪と、背には6対12枚の純白の翼が現れた。カレンの目は紅く染まり頭にはスラリとした銀の角が生え、背には6対12枚の漆黒の翼が現れていた。
ガタンッ!!
「あなたたち……その姿は……!?」
物音と叫びに近い声に振り返ると、家のドアの前で母が目を見開き地面に膝をつき震えているのが分かった。
「母様……」
「母さん」
カレンと私が声をかけると、母は再びビクリと震える。そして顔を両手で覆ってうずくまり泣きはじめた。
「あなたたちが……十五の時……天の知らせが……なかったから……ずっと……家族で……一緒に……暮らせるって……思ってたの……」
ヒクヒクと嗚咽混じりに、母の口からポロポロ本音が転がって出る。ファレイスターの家系は、今まで一度も天の知らせを受けた事は無かった。だから灰の者しか生まれないと、私だけじゃ無く家族全員が思っていた。
「お迎えにあがりました。ダリウス様」
「迎えに来たわ。カレン様」
これから一体どうしたらいいのか分からず呆然と立ちすくんでいると、目の前に二つの門が現れ、それぞれの入り口の奥には人影が見えた。
「迎えって、どういう事だ?」
「あなた方は、天の知らせを受けたのでしょう。であれば、王としてお勤めを果たさなくてはなりません」
「そういう事。悪いけど拒否権は無いよ」
それぞれの人影が、私たちに向かって手を差し出している。早くこちら側に来いと言いたいのだろう。
「そんないきなり!?」
それまで黙っていたカレンが、悲鳴のような声を上げる。
「いきなり……ではありますが、天の知らせから逃れる事は出来ません」
「もし拒否するなら、罰がくだるでしょうね」
拒否権はない。天の知らせからは何人たりとも逃げられはしないと言う訳だ。まぁ、この姿では逃げも隠れも出来そうにないが……。
「分かった。王になってやる。だから家族に手を出すな」
「兄様!? 王になったら、もう会えないかもしれないんだよ?」
「だが、もしも拒否したなら何が起こるか分からない」
噂程度にしか知らないが、天の知らせに歯向かえば貴族だろうが灰の者だろうが、一族全て消されてしまうと聞いた事があるのだ。
「……そう……ね。母様や父様に何かあったらと思うと、わたくしには耐えられないわ! ……分かりました。あなたの言う王になります」
拳を震わせ涙をにじませながらカレンは、門の向こう側にいる人物を睨んで覚悟を口にした。
「ダリウス様は、ぼくの方の門にお入りください」
「あぁ」
「カレン様は、あたしの門の中に入って来て!」
「……」
啜り泣く母の姿を見ていられなくなって振り返る事なく、一気に走るようにして門の中へ入った。
「どこだ? ここは」
「天上界の王のお屋敷です」
門をくぐった途端に景色は一変した。もうすぐ夜明けなのだろうか? 澄んだ空気の中、光の粒子がふわふわ舞う。屋敷の中は白を基調としてるから非常に明るく見える。はっきり言って眩しいくらいだ。そして静か過ぎる。魔天回廊のような賑やかな雰囲気も、風の音も人の声も食べ物の匂いも無い。ここは無味無臭と言ってもいい。
「落ち着かないな」
「そのうち慣れてしまうと思います。まずはこちらで身を清めて頂きます」
男性の後ろをついていく。屋敷から中庭に出て目の前にそびえる白い塔の前に到着すると、男性は壁に手をかざす。するとアーチ型に入り口が開き、奥の方に上に登る階段が現れた。
「着替えは用意してありますので、ごゆっくり入浴なさってください」
お辞儀をして一歩下がる。この塔に風呂があるから入って来いと言う事なんだろう。
「分かった」
「行ってらっしゃいませ」
送り出され入った風呂は、とんでもないモノだった。もう二度とあのような風呂には入りたくはない。無駄に疲れてしまった体で、用意された服を手に取り思わず頭を抱えてしまった。それは今までのシャツにズボンといった感じでは無く、白い布を巻いただけのようなヒラヒラしたものでスカートのような裾はスースーして、なんとも頼りない。
「だがコレしか無いなら着るしかないか……」
まさか素っ裸で歩き回る訳にもいかないので、仕方なくワンピースのようにも見える服に着替え、再び屋敷に戻る。
「お疲れ様でした。それでは今から前王様に会って頂きます」
「生きてるのか?」
新たな天の王と魔の王が現れるのは、前王が亡くなってからだいたい一週間前後だと聞いている。その事は両親が勤める学校の、図書室に置いてあった絵本にすら載っている。とはいえ庶民だった私にとっては縁遠い世界の話だったし、現実味が薄くただの夢物語にしか思えなかった。
「驚かれるのも無理はないでしょう。前王様が生きているうちに、後継者が現れるようになったのは五代前の王からなので知る人はいないと思われます」
「原因とかキッカケはなかったのか?」
男性は腕を組み、少し考えるそぶりを見せてから私を見る。
「特には無かったと思います。天の知らせもありませんでしたし」
「なるほどな。分かった。ではまず前王に会いに行こう」
「はい。こちらです」
まず玄関ロビーに行き、それから左側に伸びる白く長い廊下を突き当たりまで進む。男性はドアの前で立ち止まって「どうぞ、お入りください」と言ってお辞儀をした。
ドアを4回ノックをすると、部屋の中から低い男性の声で「開いてる」と聞こえてきた。ゆっくりドアを開けて入る。
「待っていたよ。新しき王よ」
ベッドの上、長い白髪を横で束ねガウンを羽織り、柔らかな光の下で本を読んでいたらしい。私を見ると金の瞳を細め微笑む。
「そちらの椅子に座ってくれてかまわない。俺はもう立つ事も出来ないから、このままで話をさせてくれると嬉しい」
壁際のテーブルセットから椅子を一脚、手に持ってベッドサイドに置いて座る。
「名前を聞いてもいいか? 俺はデリス、けどまぁ、死にゆく者の名など忘れてくれてかまわないよ」
「ダリウスだ」
「いきなり連れてこられて苛立っていると言ったところかな?」
「……」
私が無言になると、デリスは手に持っていた本をサイドテーブルに置き「気持ちは痛いほど分かる」と、小さくつぶやいてから窓の外を見る。
「今までの生活を強制的に捨てさせられた上に、こんな人も少ない静かでさみしい場所に来る事になったのだからな」
その一言で理解した。このデリスにも大切な家族や友人がいたはずだし、もしかしたら恋人もいたのかもしれないと。
「千年、どうやって耐えてきたんだ?」
「うむ。それは間違いなくパートナーが、いつも俺の傍にいてくれたからだよ」
「王の番、天珠を持った女性ですよね?」
視線を窓の外から、俺に向ける。
「あぁ。あの子……ミリアがいなければ、俺は千年の孤独に耐えられなかったと思う」
デリスは目を瞑りながらポツポツと話始めた。
「ミリアは魔天回廊に住んでいた優しい性格の女性だった。出会ってすぐの頃は身分を隠して恋人として付き合ってたんだけど、半年が過ぎた時に勇気を振り絞って「番になってくれ」と花束を持って迎えに行った。そしたらミリアの父親にホウキで殴られ追い払われてしまったよ。けど何度もミリアの家に行き両親と話し合いを繰り返して、三年後に結婚して番になる事を許されたんだよ」
フゥと息を吐き、デリスは「俺は勝手に王にされただけだから、今でも普通の人とあまり変わらないと思ってるよ。でも恋は人を強くしてくれる。だからダリウス、お前も運命の番を早く見つけて大切にしなさいね」と言って笑った。
その後も色々な話をデリスは聞かせてくれた。最初は不貞腐れたような態度をとってしまったけど、次第に興味が湧いて最後は私の方から質問までしてしまった。
天上界に来て三日後の朝、いつものように話をしようと部屋へ行くと、穏やかで優しい先代天上王デリスは一冊の本を抱きしめながらベッドの上で眠るように亡くなっていた。
「この本は初めてミリア様からデリス様に贈られたモノなのです」
「そうだったのか……。では棺に一緒に入れるといいかもな」
「はい。きっとお喜びになります」
中庭の片隅に墓碑が並んでいる。その一角にミリアが眠る墓を見つけ、デリスの墓はミリアのすぐ隣にたてた。屋敷の方を振り返って見ると、デリスが過ごしていた部屋が見えた。デリスが読書や私と話す以外の時間、外ばかり見ていたのは愛するミリアを見ていたのかもしれない。
「私にも恋は出来るのだろうか?」
「主様なら必ず素敵なパートナーを見つける事が出来ると思います」
「ならいいのだが……」
「きっと大丈夫です」
この男性は、食事を用意したり着替えを手伝ってくれたりと、いつもさりげなく私をサポートしてくれていた。なのに一番大切なことをしてなかった。
「すまない。お前が悪い訳では無かったのに、私は名前すら聞いてなかった。私の名前はダリウス・ファレイスターだ。貴方の名前を教えてくれ」
私が頭を下げると、男性は一瞬、驚いた表情で固まってから、焦ったように手をバタバタさせてる。
「頭を上げてください。むしろ強引に天上界に連れて来られたのですから主様がお怒りになるのは当然なのです。ダリウス様、ぼくは代々王に仕える従者でリトリントと申します。これからの千年よろしくお願いします」
「今は怒りはない。と言うよりデリスと話しているうちにそんなものは霧散した。まだ千年の覚悟までは出来て無いが、リトリントよろしく頼む」
この天上界に来て初めて、リトリントは私の前で微笑んだ。打ち解けてからは色々な話をした。そしてリトリントの料理の腕前がプロ級だと言う事を知った後は、食事と午後のお茶の時間が楽しみになった。私が本が好きだと分かると地下の図書室も教えてくれて、その膨大な蔵書に感動して部屋に数冊ずつ持ち帰っては読みふけった。
けれど年月が経つにつれ、魔天回廊に住む灰の者である両親と友人たちが次々と寿命で亡くなって逝ってしまった。心が乾いていきどうしようも無い孤独感が私を襲ってきた。
そんなある時、私の異変を感じたリトリントが心配そうにしながら「主様、ぼくについて来ていただけますか?」と、手を差し伸べた。
「分かった」
日々同じ事の繰り返しで、ぼんやりする頭を振ってから立ち上がってリトリントの手を取る。部屋を出て、長い廊下を歩き階段を登って屋敷の最上階までいき、さらに廊下を歩き最南端にあるドアを開けて入る。
「凄く大きいな」
部屋の壁一面を使った巨大な鏡が現れた。
「この大鏡は条件付きではありますが人間界、天界、魔界、地獄界、そして主様が生まれ育った魔天回廊まで、全ての世界を見る事が出来るものです」
「何の為にと聞いてもいいか?」
「はい。運命の番を探す為の道具と言えば分かりやすいかもしれません」
「条件付きと言うのは?」
「王の番、天珠の光だけを追う事しか出来ないのです」
何故、今になってこんな鏡をと思ったのだ。知っていたら家族や友人がいた時に使えたのにと……。けど条件を聞いて無理だったのだと理解してしまった。
「なるほどな。一応聞くがリトリントには、この鏡はどう見えているんだ?」
「ぼくにはただの大鏡にしか見えません」
リトリントの目には普通の鏡だと言う。しかし私の目の前の大鏡には、どこかの街が映し出されその中央には太陽よりも眩しく輝く魂が見えていた。
直感で分かってしまった。
この魂を持つ者が私の”運命の番”だと言う事に……。
とは言え、さすがに人間界から強引に連れて来る事は出来ない。しかもユキオにツラい出来事が起きても手を貸す事も出来ない。鏡ごしに見守るしかなかった。けれど同時に、どんな困難にも輝きを失わない強く美しい魂に、どうしようもなく惹かれてしまうのを感じた。
天界にティアレインとして転生を果たした魂を見つけた時は、歓喜に私の魂も震え頬を涙がつたった。
——————
話終えるとティアレインが甘えたように、私に腕を絡めて擦り寄ってきた。
「ダリウスの過去を知ることが出来て良かった。それに話してくれて凄く嬉しい」
「そんなに嬉しいか?」
「うん。それにさ。ダリウスはオレを前世の時から知ってるのに、オレはダリウスの事を知ったのはこの屋敷に来てからだから、まだ一年半くらいなんだよね」
「なるほどな。気持ちは凄く分かる。ならばこれからは沢山、私の過去や思った事を話そう」
「楽しみにしてる」
「あぁ」
話す時間なら、ありすぎるほどある。
「あとさ。あのスライム風呂は入りたくないんだけど……」
いつも夜を共にした後は、リトリントに強制的に風呂に連れて行かれるから嫌なんだろう。
「たしかに疲労感が半端では無いな」
「うん。だからさ! オレにも浄化魔法を教えて欲しいんだ」
「分かった。あとで教えてやろう」
「ありがと!」
私が清めてやりたい所だが、浄化を自分以外にかけると浄魂になってしまうと、リトリントから聞かされているので危険過ぎて出来ない。ティアレインの一族は闇魔力が得意だから、浄化を覚えるのは苦労するだろうが、千年もあるのだからゆっくりと覚えていけばいい。
「あのさ。もう一回、いいかな? なんだかまだ身体が疼くんだよ」
身体をすり寄せたまま、顔を真っ赤にして上目遣いで指まで絡めて、おねだりされたら抑えが効くわけがない。
ティアレインを抱きしめながら思う。
長すぎる千年の時、本音は片時も離れたくは無い。けどティアレインの家族は天使とはいえ300年前後しか生きることは出来ない。だからこそ大切にして欲しい気持ちも大きい。私と同じ悲しみが訪れると知ってるから……。
だからティアレインが、屋敷にいる時はずっとそばにいたい。
魂が溶け合うくらいに愛したい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます