二十一羽、番った後に。 


「無理をさせてすまなかった」

「いや。平気だよ」


 まだ余韻は身体に残っているけど、それは決して嫌なものでは無くて喜びさえ感じる。


「身体を休めながらでいい。話を聞いてくれ」

「うん」


 ダリウスの膝枕は少し硬いけど、額にひんやりとした手のひらを乗せられたり、指先で髪の毛を摘まれたりするのは気持ちいい。オレと目が合うと微笑んだ。


「これは代々口伝で伝えられている話だ。天界の王は体内に天錠の珠を、魔界の王は魔錠の珠を”天の知らせ”を受けた時その身に宿す。それぞれのパートナーは天珠と魔珠を持って生まれる。珠を持たない者とも契約は可能だが成功率はかなり低いそうだ」


 膝枕は何だか嬉しいのでそのままにして、体力を使い果たし気怠い身体を、ふかふかの絨毯にゆったり横たえ夢うつつで聞く。


「千年王の契約は番う事で、互いの珠を入れ替え魂を融合させ一心同体になって初めて真の王とパートナーになる。ただしお互いを心から愛していないと成功しない。しかも天と魔の双子の王が同じ月に契約を成功させる必要がある」


 ダリウスはオレを癒すかのように、柔らかなリズムで胸の辺りをポンポンと叩きながら小さな声で話し続ける。


「天と魔の王のどちらか片方でも失敗すると真の王にもパートナーにもなれないし、二度と契約の儀式は出来ない。すぐに死ぬ事は無いが百年ほどで寿命を迎えてしまうらしい」


 子守唄代わりなのか、ゆっくりしたテンポで話す言葉は耳に心地いい。


「だからこそ改めて礼を言わせてくれ。成功したのはティアレイン。お前のおかげだ。ありがとう。そしてこれからの千年、私と共に生きてくれ」


 祈るようにオレの手を両手で包み込む。


「もちろんだよダリウス。オレの方こそよろしく」


 オレが答えると、ふわりと嬉しそうに幸せそうにダリウスは微笑んだ。


「そっか。オレの内に今、ダリウスの珠があるんだね」

「あぁ。私の内にはティアレインの珠がある」

「温かい……」

「珠は命そのものだからな。脈動も感じるだろう?」

「うん。力強いね」

「あぁ。力強い」


 ダリウスに手を握らせたまま目を閉じる。そして胸に手のひらをおく。自分の心臓の鼓動とは別に、熱く脈動する何かがあるのが分かった。ダリウスの命のカケラがオレに寄り添ってくれている気がする。


「これで一心同体になったんだね」

「そうだ。墓に入るまで、いや墓に入るのも一緒だ」

「永遠って感じがいいね! さみしくないからさ!」

「そうだな。そして出来る事ならば来世も共に……」

「うん」


 目を開けると、ダリウスに抱きしめられた。ぬくもりと首筋にかかる吐息にドキドキして身体がジンッと熱を帯びてしまう。


「そう言えば、魔界の王も同じ月に契約が成功しないと駄目って事はカレンさんも?」


 きっとダリウスにも伝わってしまっただろうけど、早くなった鼓動を誤魔化すように話題を変える。


「あぁ。カレンは今月の初め満月の日に契約したそうだ。パートナーはユリスと言う男だ」


 ちょっぴり不満そうに不服そうに眉をしかめるダリウスは、妹が可愛くて仕方がなくて本当は手放したくなかったのかもしれない。


「やっぱりさみしい?」

「生まれる前から、いつでも一緒にいたから少しはな。だが今はお前がいる。だからさみしくはない」


 オレの頸に手を滑らせ、まだ血が滲む噛み跡をダリウスに触れられて身体にゾワゾワと震えが走る。


「強く噛みすぎたか……。痛むか?」

「大丈夫だよ。これもオレの大切なものだからね」


 アルファの本能に抗えないくらいオレに夢中になってくれていた愛の証。未だに焼けるように熱い熱を発していても幸せの痛みだと思うし宝物だ。


 だからもう香水でオメガの匂いを誤魔化したり、首を隠したりする必要は無いだろう。


「あのさ。ダリウスと結婚したら、もう女装はやめようと思うんだ」


 たぶん母さんは残念がるだろうから、実家に帰る時だけはドレスを着ようとは思う。


「ティアレインが決めたなら、それでいいと思う。私としても飾る事の無い、そのままのティアレインと式を挙げたいと考えていたからな」

「ありがと! ダリウス!」

「それとな。天と魔の契約が無事成功した時に、一度だけ天上界と地獄界を繋ぐ事が出来る。楽しみにしておくといい」

「わぁ! 凄く気になっていたから楽しみだよ」

「クックックッ! そんなに喜ぶとはな」

「だって話でしかカレンさんたちの事を知らなかったからさ」

「では明日にでも道を開くとするか」


 ん? 通信手段が無いのに、どうやって明日会うって伝えるんだろ?


「私とカレンも繋がっているから精神感応で少しの会話くらいなら出来る」


 オレが不思議そうに首を傾げていると、なんでもないように答えてくれた。


「そうだったんだ! って言うか、今オレが考えていた事が分かったとか?」

「まぁ。お前とも繋がったから大体分かる。それにティアレインは顔に出るから分かりやすい」

「なんか恥ずかしいんだけど……」


 思わず顔を手で覆ってしまう。


「今ならお前にも、私の考えている事も分かるはずだ」


 オレの頭を撫でながら教えてくれた。試しに身体の内側で脈打つダリウスの珠に意識を集中させてみる。


 すると……。




『愛してるティアレイン』




 ボフン! と音が出そうな程に、身体が熱くなって嬉しいのと照れるのと、ごちゃ混ぜな気持ちになり絨毯の上を転げ回り、ダリウスを睨みつける。


「クックックッ! 伝わったようだな」


 心から楽しそうに笑うダリウスを見てしまうと言葉が出なくなってしまった。


「さて、そろそろ夜が来る。今日はここで休もう」

「うん。おやすみダリウス」

「あぁ。おやすみティアレイン。ゆっくり休め」


 ダリウスは横になると、逞しい腕でオレを引き寄せ目を閉じた。幸せそうな柔らかな表情で寝息を立てはじめたダリウスを見ている内にオレにも睡魔がやってきた。


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