六羽、一緒にいる為に。
一通りの内緒話が終わると、手招きをしてアディルは歩きだす。
「ついてこい」
その後を、毛玉悪魔を抱っこして後を追う。門の脇にある小道を進んでいくと、突き当たりにレンガ作りの小屋が見えてきた。
「ここだ。入ってくれ」
ギィィィッと、蝶番を響かせ小屋の中に入る。部屋には蝋燭の光がゆらゆら灯り、ベッドとテーブルと椅子と戸棚があるだけだ。けどしっかり掃除もされてるし、仮眠をとるだけなら十分そうに思える。
「朝まで誰も来ない。作業するには丁度良いだろ」
「ありがと!」
「じゃ。二時間後に戻るからな!」
「分かった。それまでに終わらせるよ」
「あとしゅーくりーむだっけ? あれ甘くて凄く美味しかった! 弟や妹も大喜びしてた。サンキューな!」
「喜んで貰えてオレも嬉しいよ!」
アディルはニカッと笑うと、再びギィィィッと音を立てて部屋から出ていった。
「始めよう」
まずは毛玉悪魔を、テーブルの上に下ろす。
「やっぱり素っ裸のままじゃいけないよね」
「くぅん?」
オレを見上げ、コテンと首を傾げる姿が何だか妙に可愛く思える。今はハンカチしか持って無いので、とりあえずそれを毛玉悪魔の腰にクルリと巻いて後ろで結んだ。
「よし!」
気合いを入れて腕まくりをする。
まず最初に翼を広げ、羽の一枚一枚観察して白くて一番形のいい風切り羽を一本抜き取る。次に両手に魔力を巡らせ天使の輪を呼び出し、最後に自分の首にかかっている銀のネックレスを外す。
毛玉悪魔が不思議そうに、オレの行動を見守っている。
羽と輪と銀のそれらを、両手でギュッと握りしめて目を閉じ。
この子と一生共にいたい! 大切にしたい想いと、祈る気持ちを込めて力を注ぐイメージをする。
オレの身体から、昼間のような明るく優しい光と暖かさ広がって部屋中を照らし、次第に手の中に吸い込まれ収束していくのを感じた。
上手くいったかな? 一応、アディルから聞いた通りに作ってみたんだけど……。
ドキドキしながら目をあけて、手のひらをゆっくり開き確認する。銀の指輪が仄かな光と熱を放ちながら完成していた。
「良かった〜! 成功した! これが”契約の指輪”かぁ!」
見た目は、細かな羽の細工が施された美しいけど普通の銀の指輪。それを尻ポケットに入っていたスペアの銀のネックレスに指輪を通す。銀は魔除けになると言う理由で、殆どの天使たちが持ち歩いている。
あとはこの子の名前決めないといけない。
金色にキラキラ輝く瞳と、しばらく無言で見つめ合う。
「決めた! お前の名前はシャル! どうかな? 気に入ってくれたらいいんだけど……」
テーブルに座る、毛玉悪魔の小さな頭を撫でながら問いかけてみる。
「くるるぅ〜!」
すると、オレの手に頭を擦り付け甘えたように喉を鳴らした。気に入ってくれたみたいだ。
「今日からよろしくね! シャル」
「がぅ!」
シャルの首に、銀のネックレスをかける。これで、もう消えてしまう事はない。
アディルから聞かされた”契約の指輪”は、本来はバース性を持つ者たちの秘密の魔道具の事だ。離れては生きてはいけないアルファとオメガは、お互いが作った指輪を交換し身に着けることで、悪魔が天界で生きていく事も出来るし、逆に天使が魔界で生きていく事も出来る。そんな夢のようなものだったりする。
シャルは恋人でも番でもないけど、それ以上の何かがあると感じる。だから放っておけなかったし消えてほしくなかった。
不可能を可能にする分、代償も大きいと言っていた。力の源である天使の輪や悪魔の角を使う必要があるから力の消耗が激しすぎるのだ。だから一か月は半分ほどの力しか使えなくなる。とはいえ半月もあれば輪っかは復活するし角も生えてくるらしい。
まずいかも……ありったけの力を指輪に込めたから……立って……いられな……い……。
人間界に行くのに力を使い、指輪にも力を注いだのだ。完全な魔力切れを起こして当然かもしれない。
そう……だった……。リスクが……あった……んだっ……た。
なんとか意識を保とうとテーブルに手を置き身体を支える。
けれど景色がグルンと回転するような感じがしたかと思うと、力が抜け足がガクンと崩れていく。
ガタン!!
「がぅ〜! がぅ! がぅ!」
オレが床に倒れ込むと、シャルがテーブルから飛び降り部屋中を暴れ始める。そんな必死なシャルの姿を見ながら意識は遠のいていった……。
◇◇◇◇◇
山奥の人気の無い何だか寒々しさを感じる、管理人すら居ないお寺の中で、沢山の骨壷に囲まれて兄さんはそこにいた。
「兄さん! やっと見つける事ができた!」
(骨壷に”冬野ユキオ”と書かれているのが見えた)
目印が無くても”兄さん”だと感じ分かる骨壷を手に取ると抱きしめた。目から溢れる涙が骨壷に落ち伝う。
「もしも漫画や小説みたいに”輪廻転生”があるなら、次こそは兄さんと一緒に幸せなるんだ!」
泣きはらした真っ赤な目には強い意志が表れて、その熱く強烈な想いは”オレ”の中に染み込むように入ってきた。
(そっか……。ようやく分かった。兄さんは”オレ”なんだ。じゃあ”僕”は、もしかして……)
◇◇◇◇◇
激しい頭痛と共に目が覚める。頭を抱えながら起きあがろうとするが、逞しい手が伸びてきてオレをベッドへ再び戻した。
「まだ寝てろ」
「アディル……?」
魔力の消耗が激しすぎたのか、上手く声も出ない。
「門番には私から事情は話した。今はゆっくり休め」
まるで子供にするように、胸の辺りをリズムよくポンポンと優しい手つきで叩かれ続ける。次第に眠気が押し寄せてくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます