第40話
【いざないの手】〈
やはり今の状態であっても、グベラトスは同族である彼女たちをいざなう気は皆無だった。目的がぶれないからこそ、そのこだわりも変わることはなかった。
盾となった【いざないの手】は、用済みといわんばかりに、彼女たちをはじき返す。
無防備となったグベラトスを狙ういい作戦だったのだが、彼には筒抜けのようだった。
そしてもう1人、手の鎧が手薄になったことを狙う者がいた。
「うっす、【刺突】!」
それは戦闘医ゼマである。傷はすっかり癒えて、ほぼ万全の状態といえるところまで回復していた。彼女がクリスタルロッドで放つ一閃は、まだキレのある鋭い一撃だ。
しかも【伸縮自在】の効果を発動しているので、離れた位置からでも即座に、グベラトスの生身の肉体を狙うことができた。
「……たやすい」
短くグベラトスはささやく。体に密着させる腕を減らしているとはいえ、腕と脚、そして首から上には常に黒手魔装を続けている。
これにより、動体視力、それと四肢による身体能力は遥かに向上しており、ゼマの攻撃を見切ることなど簡単だった。
「バシッ」と音がなるほどジャストのタイミングで、ロッドの先端を右手で掴んだ。それだけでは終わらず、グベラトスの腕に重なっていた魔の手が動きだし、ロッドを異空間へと引きずり込もうとしてきた。
彼はまだ、ゼマの吸収は諦めていなかった。ララクは未知数すぎてリスクが高いと、いざなう計画は諦めた。しかし、貴重なヒーラーの確保案は捨てていなかった。
「やっば。解除、解除~!」
ゼマは即座に【伸縮自在】の効果を切る。すると、伸びる時よりも俊敏にロッドがゼマの方へと縮んでいく。先端には【いざないの手】がくっついていたが、それは早々に手を離した。そのままゼマへ攻撃しても良かったが、今は無防備な状態をあまり晒したくないようだ。
「ダメだララク。私、攻撃に参加しない方がいいかも。
ほら、【クイックヒーリング】」
ゼマは攻撃から回復に切り替えると、近くで倒れて起き上がっていたララクにスキルを発動する。鎧に身を包まれているので分かりにくいが、先ほど豪拳乱舞で受けたダメージが徐々に回復している。
「ありがとう、ございます。
回復、本当に助かります」
ララクはゼマには頭が上がらない、と感じていた。自分と同程度、もしくはそれ以上の力を秘めた敵と相まみえる時、サポートが充実していることの安心をより実感できる。
「っま、今の私にはこれぐらいしかできないかな」
「そんなことないです。ゼマさん、もう一度仕掛けます。
だから、フォローを、お願いします」
ララクは完全に立ち上がり、薄汚れてへこんでいる鎧を直立させる。彼は武器や鎧を変更するつもりはなく、このまま攻撃を実行する気だった。
仲間がいれば敵を倒せる。そう確信しているようだった。
「へー、私にできることがあるなら、なんでもやるよ」
武器をしまおうとさえ考えていたゼマだったが、相棒に頼まれたからには戦うしかないと、ロッドを構えなおす。
「頼もしいです!
行きます! 【
ララクの声が響くと同時に、彼の周囲に風が巻き起こり、体が風と一体化するかのように軽やかに加速した。足元から巻き上がる風のうねりが、瞬く間に彼をグベラトスへと押し進める。
彼の双剣が、風に乗ったかのように滑らかに、そして鋭くグベラトスへと迫る。
「その程度の速さなら、意味はないぞ!」
グベラトスはララクが自分に接近する前に、【いざないの手】を飛ばして迎撃しようとした。1つだけは心もとなかったので、4つほど向かわせた。
「っう!!」
ララクはその拳を、双剣の腹で受け止めた。空中で抵抗できない彼の体は、再び後ろへと追いやられる。
だが、これこそがララクの狙いだった。
「ゼマさん、ボクをぶっ飛ばしてください!」
彼は後ろへ放り投げながら、仲間のゼマに合図を送る。事前に細かい作戦は伝えなかったが、彼女ならすぐに理解できると信頼していた。
「っえ? あー、そういうことね!
はじけ飛んで行けよ! 【スイングインパクト】!」
ゼマはロッドを大きく振りかぶり、地面と水平になるように勢いよく振った。
そのに合わせて、ララクは空中で姿勢を制御して、足裏が彼女の方を向くように調整した。
「ベスト、タイミングです!!」
ララクの足裏に、ゼマの攻撃スキルが直撃する。じんわりとした衝撃がララクの脚を襲う。が、痛みはそれほどだ。黄金の鎧で防御力が高められているので、大したダメージにはならない。
しかし、インパクト時の衝撃はそのままにして、それをバネにララクは真っすぐにぶっ飛んでく。
仲間の攻撃を利用とした荒業だ。真似しようと思ってもマネできる冒険者たちは少ないだろう。
「【神速斬撃】!」
ララクはさらに空中でスキルを発動する。これは速度をさらに上げて斬りつけるシンプルなスキルだ。それゆえ、速度に重点を置いているため、そのスピードは凄まじい。
「っな、なに!?」
グベラトスは焦った。吹き飛ばした敵が即座にリターンしてくるとは思わなかったからだ。彼は反撃ではなく防御を固めようとした。再び〈黒手魔装・全纏〉を行い、魔の手で身を固める。
そんな防御を分厚くした彼の右肩に、超双剣の斬撃が深く切り込まれていった。
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