第41話

 ララクの放った斬撃が、グベラトスの右肩に切り刻まれると、そこを守る【いざないの手】に切り込みが入る。血は出ないが、代わりに淡い魔力の粒が流れ出していく。


「っぐ、鋭いな。だが、この程度……」


 グベラトスはまだ余裕だ。それは、生身の体には傷がついていないからだ。【いざないの手】がどれだけ傷ついても、中にまで衝撃が流れなければ大したダメージにはならない。


 それはララクも重々承知だった。彼はグベラトスを斬ったあと、そのままの勢いで後ろへと飛んでいく。彼の攻撃はまだ始まったばかりだ。


「パルクーさん! ボクを蹴り飛ばしてください!!」


 そう言いながらララクは、投球のような速度で彼女へと飛んでいく。空中でくるっと回転し、脚側をパルクーの方に向ける。


「いいね! それ、最高だよ!!」


 炎足のパルクーは、先ほどのゼマとララクの連携をその場で見ていた。だから、ララクがやろうとしていることが、映像として理解できた。


 パルクーは、ララクをじっと見つめて、その黒い肌を包む炎が脚元に集中し始めた。彼女の「炎足」が再び燃え上がり、熱風が周囲に広がる。


「行くよ、ララクん! 【フレイムストライク】!!」


 短い言葉とともに、パルクーは炎の力を全開にし、瞬く間に脚を振り上げた。 燃え盛る足が、巨大な火焔の槌のようにララクを捉え、勢いよく蹴り飛ばす。 宙を舞いながら飛翔するが、彼は身を任せて飛行の感覚を楽しむように微笑んだ。


「ありがたいです、パルクーさん!」


 彼の言葉は風に消えていくが、その姿は蹴りの推進力を得て、目標地点へ真っ直ぐ飛んでいった。


「そういうことかっ!!」


 グベラトスは理解した。彼がやろうとしていることを。切り刻まれた肩の補強は後回しにして、急いで彼は振り返る。

 飛び込んでくるララクを迎撃しようとしたが、それよりも速く、リーチのある長双剣がグベラトスを斬りつける。


 今度は首元だ。グベラトスの首を絞めるように巻き付いた野太い魔の手に、超双剣の連撃を入れ込んだ。


「こいつ!! (首元を容赦なく……。殺意あり、じゃないか)」


 首元からも、魔力が流出する。この部分にも大量の【いざないの手】がまとわりついている。だが、両手足と比べると戦闘での重要性は下がるので、いくらか手薄だ。そこを正確に、ララクは狙ってきたのだ。

 首を斬れば、下手をすれば死に至る。もちろん、そうならないように考慮しているはずだが、ララクの攻撃性が垣間見えて、グベラトスはぞっとする。


 再度、ララクは飛行を続ける。実はすでに、【空中浮遊】も軽くかけていた。浮かぶため、というよりは落ちないため、だろう。これにより、彼の体は重力によって落ちることはなく、純粋に真っすぐ進行できる。


「……ヨツイさ……。っは」


 ララクは次に、魔拳ヨツイがいる位置へと移動していた。声をかけようとした。だが、その前から彼女は動きだしていた。


 彼女の右腕が、水晶よりも水色が強い氷で覆われていた。彼女の腕を膨れ上がらすように創られ、手の長さが少しだけ伸びているようだった。

 その冷たい手で、ララクの脚を鎧の上から握りしめる。


 このスキルは【アイシクルナックル】。基本的には相手を殴りつけるためのものだが、必ずしも標的が必要なわけだはない。空振りの状態でも、同じモーションを繰り出すことは可能だ。


「容赦なく斬ってよ、ララク!」


 ヨツイは、人を殴るような動きで、握りしめたララクの体を振り下ろす。そのまま地面に叩きつける事もできるが、その前に手を離すことで、ララクはさらに加速できる。


「【神速双斬撃】!!」


 ララクは瞬速で敵を切り払う【神速斬撃】、これの派生であり双剣専用で放つスキルを放つ。下から斜め上に向かって、2つの刃で同時に斬りつける。今回狙った箇所は、グベラトスの脇腹。

 長双剣はその名の通り刃が長い。それは相手に対して距離を保ちながら、叩けるという他にも利点がある。その1つが、切れる範囲の長さだ。


 グベラトスの脇腹から胸元までの大きな範囲に、長双剣の斬撃が通る。肉体に斬り込むのではないかというぐらいの威力が出ており、水しぶきのように魔力が湧き出ていく。


「っが! (……こいつら、即席でこんな連携を……)」


 人間と豪魔たちが、力を合わせて叩けている光景が信じられなかった。今日会ったばかりだというのに、しっかりとタイミングが合っている。全員が手練れの冒険者、ということもあるが、一番は信頼しているからだ。きっとやってくれる、そんなアバウトな考えが、華麗な連携を生むのだ。

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