第39話
豪腕装のグベラトスと、黄金と白銀に輝く鎧を身に纏うララク。二人は、重圧と力強さが同時に放たれる瞬間を迎える。互いに目を鋭く合わせたその刹那、ほぼ同じタイミングで地面を強く蹴り、走り出した。
「この刃なら、掴めないでしょう!!」
ララクは、煌めく黄金と白銀の鎧を纏い、手にした長双剣が光を反射して眩く輝いていた。その双剣は彼の両手で流れるように操られ、まるで自身の一部であるかのように軽快に動いている。鋭く、力強い斬撃が空を裂き、刃先が次々と閃光のように閃く。
「掴む必要はない!」
対するグベラトスは、全身に纏った【いざないの手】がまるで鎧のように彼の巨体を覆い、徒手空拳で応戦していた。彼の腕は、無数の拳を繰り出すかのように重く鋭く、力強く打ち出される。その一撃一撃は大地を揺るがすほどの衝撃力を持ち、彼の豪腕が風を巻き起こすたび、空気さえも圧倒される。
ララクは素早い動きでグベラトスの拳を避け、双剣を一気に振り下ろす。しかし、グベラトスの体に纏われた【いざないの手】が、鋭い斬撃を防ぎ、まるで鎧のように彼を守っている。超双剣が打ち込まれるたびに、火花が散り、ララクの攻撃のたびにその剣筋が重く響き渡る。
一方、グベラトスは巨腕で力強く打ち込むたびに、ララクの反応を試すように隙を狙っている。単純な打撃攻撃でありながら、その攻撃の精度と威力は圧倒的。両者の戦いは、一瞬の油断も許されない激闘となり、力と技が交錯する場面が続く。
目にもとまらぬ攻防が繰り広げられる中、先に変わり種を仕掛けたのはグベラトスのほうだった。今は全身に【いざないの手】を装着しているが、この状態でもスキルの多彩さは健在だ。
「その剣、俺に対して距離をとって戦うためのものだろう?
だが、それを超えることはたやすい」
グベラトスは、超双剣の刃に向かって打撃を繰り出す。このままではぶつかり、斬撃をもろに喰らう。だが、グベラトスはその前に、【いざないの手】を先行させた。自分の殴りのモーションに合わせて、腕に纏った【いざないの手】を射出したのだ。
この【いざないの手】は、拳を握っており、長双剣を超えてララクの顔面に激しく殴打する。
「っが! (拳を飛ばした!?)」
戦闘に特化したグベラトスの全纏モード。その恐ろしさの一端が、垣間見える攻撃だった。彼は、自由自在に操れる腕を、鎧として装着しているだけ。つまり、戦闘の際に切り離すことも簡単に行える。
黄金と白銀で覆われた仮面に拳が直撃し、ララクの頭はぐらついた。ちょうど、視界を確保できる部分に当たったので、一瞬だけ目の前が真っ黒にもなった。
たったの一撃だが、脳を揺らしてくる重たい豪速の拳だ。
そのせいで体が一時的に停止し、グベラトスの前で完全に隙をさらすことになる。
「早急に殺ししてあげるよ。
〈豪拳乱舞〉!」
グベラトスの顔が不敵に歪み、冷たい声が響いた瞬間、彼の全身に纏われた【いざないの手】が、指令を受けて動きだす。
彼が技を叫ぶや否や、無数の腕が一斉に動き出し、ララクに襲い掛かった。拳が空を切る音が立て続けに響き、ララクは激しい連打の中に巻き込まれる。次々と放たれる豪拳は、ララクの鎧に撃ちつけられ、火花が散る。
頑丈な黄金鎧に、拳の跡があざのようにいくつも刻まれた。鎧が壊れることはなかったが、それでも致命的なダメージが中にいるララクに伝わっていく。
「っぐ、っあ……。 (……ほ、本当に死ぬぞ、これは……)」
少年の体はこれに耐えられず、ゼマのいる背後まで大きく殴り飛ばされてしまう。防御力も大幅に上昇しているので、これほどまでのダメージを受けることが、今のララクにはあまりない。
衝撃的な激痛が、体中に駆け巡る。
グベラトスはこのまま畳みかけようと、駆け出そうとした。
すると、その背後から2人の冒険者が飛び出してきた。
雷の力を拳に宿した魔拳ヨツイと、炎を爆発させながら蹴りを披露しているパルクーだった。
彼女たちは、このタイミングを見計らっていた。
大技を出すときには、グベラトスの身を固める【いざないの手】が減少する。今の彼は、全ての手を呼び出している。つまり、追加での防壁はない。
だが、その事をこの力を一番理解しているグベラトスが危惧しないわけはなかった。
「……そうだよな。お前たちの攻撃が俺に通じるとしたら、ここしかないよな」
彼は完全に読み切っていた。ララクを殴るために展開した【いざないの手】を、流れるように背後へと回していく。
そして、腕同士が複雑に絡み合い巨大な壁のような盾を作り出す。〈
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