第30話
【テレポート】
効果……訪れたことのある場所へと瞬間転移する。
このスキルは、かつての仲間・瞬影忍者カケルという冒険者が所持している希少スキル。かなり有能な効果を持っているのだが、忍者カケルとララクはあまり使いたがらなかった。
それは、燃費の悪さ。
例え、目の前に移動したとしても、かなり魔力を消費してしまう。移動だけが目的ならばそれでもかまわないが、戦闘に転用する場合は注意が必要だ。炎や雷系統などのほうが圧倒的に魔力消費が低く、強力故に使い勝手は悪いスキルだ。
ララクの体がシャボン玉のような淡い泡粒へと変化していく。
すると、彼の周辺で暴れていた【いざないの手】がその魔力の泡を掴もうと、腕を伸ばしてきた。本来は、この状態になったララクを捕まえることは人には不可能。しかし、魔法さえ手に取れるこの腕ならば、魔力さえ掴むことができる。
しかし、その粒となった魔力は、魔の手に捕らえられることなく、瞬時に姿を消していった。
そして、目的の場所へと瞬間的に移動していく。
その場所は、天使フリラスとテンタクの前方である。いざないし者 グベラトスとの間に割り込み、盾になろうと考えたのだ。
(待っててください! 今、助けに……)
一時的に魔力となったララクは、瞬時に目的地へと移動し、再び人の形へ戻るために形成を始める。
僅かな時間でたどり着けるというのも利点だが、障害物を乗り越えて移動できるという点が、今回は役に立った。【いざないの手】に邪魔されることなく、天使たちの元へとたどり着いた。
だが、【テレポート】に成功したララクの目の前を取り込んでいたのは、絶望そのものだった。
「っな!? こ、この数は……!」
彼は天使2人のすぐ側に転移したが、すでに【いざないの手】が発動されていた。
ララクの予想では、天使を捉えるために多くても10数本だと仮定していたが、それを遥かに凌駕していた。
青空を埋め尽くすように上空にまで異空間が張り巡らされ、そこから大量の不気味な色をした【いざないの手】が飛び出している。
前方と後方にも逃げ場がないように腕が動き回っており、さらには地面からも魔の手が彼らを捉えようと腕を伸ばしてくる。
「っぐ、まさか読まれていた!?」
豪魔グベラトスは、何かしらの手段で一気にララクが距離を詰めてくると、予め感づいていた。そのため、天使たちだけを取り込むのには過剰すぎるほどの手数を展開したのだ。
手の量だけで言えば、天使の里を飲み込んだ時と同程度である。
それぐらいの労力をつぎ込まなくては、ララクを捕獲できないと感じていたのだ。
「もう一度、【テレポート】!」
焦ったララクは、すぐに瞬間移動を行おうとスキルを発動する。その対象は、自分だけではなく天使フリラスとテンタクもだ。
彼女たちもまた逃げ出す前に、この大量の【いざないの手】に包囲されてしまっている。
「っな、何が起こってるんだよっ!!」
衝撃のあまり怒り散らす雷槍のフリラス。恐るべき魔手の軍団が現れたと思ったら、そこに突然とララクがやってきた。その矢先に、ララクが再びスキルを発動し、自分たちも転移するために、体が魔力へと変換され始めたのだ。
「マジ意味不明……」
紫雷のテンタクは、襲い掛かってくる魔の手から逃げようと、空中を移動するが逃げ場などどこにもない。1つ避けたと思いきや、別の角度から彼女を掴もうと腕が伸びてくる。
そんな彼女も、【テレポート】の効果により衣服を含めた全身が魔力の泡へと変わっていく。
このまま別の場所に移動するのが【テレポート】の効果なのだが、魔力へと変換されてから、瞬間移動するまで僅かだがタイムラグが発生させる。明確な隙を生み出すが、魔力となった者に干渉できるものなど、普通なら存在しない。
が、【いざないの手】は違う。
魔力で作った光や毒でさえ掴めるこの手は、魔力そのものにも触れることが可能だ。
敵を逃せまいと、四方八方から、無数の【いざない手】が近づいてくる。腕は闇の中から湧き出すように出現し、魔力の粒となっていく3人の体を、確かに捉えていく。
「っな、これにも反応できるのか!?」
万能にも思える【テレポート】にすら対応してくる【いざないの手】に、ララクは圧倒されていた。手が魔力に触れると、瞬間移動の効果が阻害されて、徐々に本来の体へと戻っていく。
そこからはあっという間だった。
天使2人とララクの手足を握りしめて【いざないの手】は、決してそこから指を離すことはない。特にララクが強く体を動かして抵抗するが、あちら側は前もって増軍をしている。
無数の魔手が、小柄な少年の口や頭、胴体など体全てを覆いつくように張り付く。
「っうぅ! (……っぐ、ど、どうすれば……)」
鼻と口まで抑えつけられ、息をすることすら困難になるララク。隣にいる天使たちも、彼ほどではないが手厚く魔の手にもてなされ、身動きが取れなくされていた。
完全に3人の動きを停止させた恐るべき魔の手は、彼らを異空間へといざなっていくのだった。
紫色の混じった黒き渦の中に飲み込まれていくと、何事もなかったかのように、空間から【いざないの手】は消えていく。
そこには、空虚な断崖絶壁が残るだけだった。
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