第29話
すると、グベラトスの瞳がはっきりと、前方のターゲットを視認する。
天使フリラスとテンタク、そして人間のゼマ。
3人とも、【いざなわれし者】で召喚された空薙のナギィハたちの戦闘を終えた段階であり、地上に降り立ったばかりであった。
このままララクたちの応援に駆けつけようとしたタイミングだったのだが、敵の方が自分たちの方へと急行してきたのだ。
この状況にいち早く気がついたのは、戦闘医ゼマだった。
「……2人とも、前から奴がくるよ!」
後ろにいた天使たちに警戒を促す。
このままではすぐにでも接近されると判断したゼマは、応戦を選択した。視力のいいゼマには、グベラトスの後ろからララクが追いかけてくるのも見えていた。
「ふぅ……、っ【刺突】!!」
魔晶石と呼ばれる高純度の魔力を内蔵した水晶で加工されたクリスタルロッド。彼女は自身の魔力を流し込むと、ロッドに付与された【伸縮自在】の効果を引き出す。
自分たちに近づくグベラトスに向かって、真正面から伸びる突きを放つ。
「お前は……、今は後だ」
グベラトスは速度に乗ったまま左脚を軸にして体をねじる。すると自然と右足が前に押し出され、突き放たれたクリスタルロッドとぶつかり合う。
ロッドと腕を纏った脚が衝突し、甲高い音を鳴らす。威力は圧倒的に、グベラトスの蹴りのほうが上だった。ロッドは勢いに負けてはじき返されるはずだったが、グベラトスはさらに加える。
通常なら、片足で棒を掴むのは至難の業。足指でも使うか、関節の間で掴むか。どちらにせよ、今の蹴りの体勢では不可能。
だが、彼の脚には手の力が宿っている。
グベラトスの脚を掴んでいた手を裏返しにして、手のひらをロッドに向ける。そして、凄まじい握力でクリスタルロッドを握りしめた。
「っげ!? 器用すぎ!」
ロッドが掴まれ、武器を固定されてしまうゼマ。【伸縮自在】を解除したいところだが、そうすれば縮む時にグベラトスもついて来てしまう。
グベラトスは蹴りの勢いを利用しながら、さらに腰をぐっと回して、脚を横に振り払う。するとロッドも合わせて引っ張られ、ゼマの脚は地面を離れて、体が宙に浮く。
次に【いざないの手】からクリスタルロッドを手放すと、ロッドと一緒にゼマは大きく吹き飛ばされていった。
「うわぁ──────!」
思考を巡らせる暇もなく、ゼマは一方的に遥か彼方へと追いやられる。それだけ【いざないの手】で強化された脚による蹴りが、卓越した攻撃だったということだ。
「……今度は、お前たちだ」
グベラトスは、蹴りの動きを利用してそのまま一回転して見せる。これで、加速していたスピードが落ちるのを最小限に抑え、標的を天使2人に定める。
「まじやば。逃げよう、速攻」
紫雷のテンタクはすぐに【空中浮遊】を使用して、再び地面から足を離す。彼女はこの効果を、隣にいた雷槍のフリラスにも適用した。
「っけ、やられっかよ。【ライトニング……」
フリラスは、早期撤退には賛成だったが、なにも抵抗せずに逃げるつもりはなかった。彼女たちはまだ、【いざないの手】が魔法さえも取り込んでしまうという情報を、共有されていなかった。
豪魔グベラトスが、天使2人に向かって【いざないの手】を発動しようとする一連の場面を、後方にいたララクはしっかりとその目で確認していた。
「……駆けつけなきゃっ!」
なんとか、壁として立ちふさがる三本の手を搔い潜り、ララクは走り出していた。が、すでにグベラトスに大きく距離を離されていたということもあり、天使たちの前に割って入るのは困難だった。
ララクは考えた。【いざないの手】が完全に発動される前に、一瞬で天使たちの元にたどり着ける方法を。
1つだけ。その方法はあった。
元からその選択肢は彼の中に存在したが、できれることなら使わずに温存したかったスキル。
「……やるしかないっ。【テレポート】!」
スキル名を宣言した瞬間、ララクの体が魔力の粒へと変換されていった。
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