第23話
紫色の稲妻で模られた槍が、空中に不気味な輝きを放ちながら静止していた。その刹那、フリラスとテンタクの意思が一つに合わさり、その槍は猛スピードで放たれた。稲妻が裂けるような音とともに、槍はデスラフターたちへとまっすぐに突き進む。
「ギギィィィイギィイイ!??」
群れを成していたデスラフターたちは一瞬のうちに気づき、慌てて逃げようとしたが、もはや遅かった。紫雷の槍は彼らを正確に捉え、一匹、また一匹と貫いていった。
「ギイギャアアアア!」
ハイエナたちの体は【いざないの手】を纏ったことにより防御力が強化されている。だが、それを無視するかのように、雷の槍は容赦なく突き刺さっていく。
電流が彼らの体内を駆け巡り、その激しいエネルギーが内側から肉体を焼いていく。
彼女たちが放った紫雷槍の効果は、まだ終わらない。
槍が体を貫いた後も、紫の電気が体に残り続けて、彼らの体を痺れさせる。デスラフターたちの引きつった笑顔が、痺れで揺れることで、さらに不気味さを際立てている。
「ナギィハ、悪いけど喰らってくれぇ!」
「あとで甘いもの、いっぱい食べさせてあげるから!」
天使の二人は、槍の矛先をナギィハに向ける。彼女は現在、ゼマの【ホーリースイング】を受け止めている真っ最中だった。
つまり、無防備な状態である。
「っぐ、ぐぐぐぐ!!」
ナギィハの翼に纏わりついていた【いざないの手】は、再度彼女の体を守るために胴体に移動した。腕を重なり合わせて分厚い盾のようにするが、紫雷槍はそれすらも貫いてしまう。
「っが、がががっ!」
激しい痛みを感じて叫び声をあげるが、その声すら痺れていてうまく発声することができていなかった。
天使たちが放った紫雷槍・貫は、速度・威力・麻痺性、など雷系統の力を余すことなく利用した完璧に近いスキル攻撃だ。
だから、このダメージだけで【いざなわれし者たち】で召喚したナギィハたちが破壊されていてもおかしくはなかった。
「……が、が」
ほとんど白目をむいた状態のナギィハだったが、まだ意識があり体も保たれている。普通は、召喚された者はダメージ限界を超えると、魔力となって消えていく。
「くっそ、しぶといな! はやく、元のナギィハに戻れっての!」
怒りを再熱させるフリラスだが、心身ともに疲弊していた。大量の魔力を消費し、その槍をコントロールするために意識を集中させたので、脳も疲弊している。
紫雷テンタクも同じ状態だったのだが、1人だけ何故かまだ活力が漲っているものがいた。
「私に! 任せなさい!」
そう叫んだのは、回転地獄から解放されたゼマだった。彼女はナギィハの薙刀と衝突していたクリスタルロッドをいつの間にか、自分の方へと戻していた。長さはそのままで、姿勢も元に戻している。
現在は、釣竿を投げる寸前の釣り人のような状態で、ロッドを振り上げていた。
「あんたたち、でっかいの行くから避けなさいよっ!」
ゼマは、両脇を引き締めて体をぐねり、ロッドをスイングできるように構えなおす。
そしてその後、クリスタルロッドに大量の魔力を流し込んでいく。
彼女はまだ、魔力に余裕があった。【ホーリースイング】を乱発したが、あれは紫雷槍よりも魔力消費は少ない。魔力を放出してそれを雷の性質に変化させるのとは違い、ゼマの発動したのはロッドに光系統の力を付与したり、スイングの威力を高める事。副次的効果は多いが、無から全てを生み出すスキルよりも圧倒的にコスパはいい。
クリスタルロッドに過剰な魔力が流し込まれると、今度は縦にではなく横幅を拡げていった。【伸縮自在】は、縦にも横にも対象物の大きさを変化させることができる。
こん棒のように巨大化したクリスタルロッドを、腰を軸にして力いっぱい振り回す。風を乗せ、空気をかき混ぜるようにロッドは動き、まずは天使2人がいる場所へ到達する。
「わー、逃げるよフリ!」
側面から襲い掛かる大型水晶を確認したテンタクは、【空中浮遊】を巧みに使って上空へと移動する。
しかし、フリラスはほんの数秒だが、飛び上がろうとするのに時間がかかった。
けれど、そこまで心配はいらなかった。
何故なら、ゼマが振り回すクリスタルロッドは、思った以上にのろかったからだ。
それでも離脱しなければ、確実に直撃してしまう。
「っげ、【ライトニングライド】!」
フリラスは巨大なロッドに驚き焦り、瞬時に移動できるスキルを発動。彼女の足裏から雷が放出され、その勢いを推進力にして、天高く舞い上がった。
「いっけえええええええ!!」
ゼマは体が壊れんばかりに力んで、ロッドを動かし続ける。天使2人が先ほどまでいた場所は通り過ぎて、デスラフター、そしてナギィハのいる地点を目指していく。
迫りくる大規模な攻撃。鈍重なその攻撃を本来なら避けることはたやすい。フリラスたちのように上に逃げるか、下に避難するだけでもいい。
だが、痺れたナギィハとデスラフターたちは、空中で動きを封じられていた。紫色の雷が彼らの体を焼き、筋肉を硬直させ、翼さえも動かせない状態だった。
巨岩のごとき一撃が、空中に浮かぶ彼らの体に直撃する。ロッドが彼らに直撃した瞬間、鈍く重い音が空中に響き渡った。クリスタルロッドの硬質な表面が彼らの体に食い込み、その衝撃でナギィハの薙刀は手から飛び、デスラフターたちは翼を折られるようにして弾き飛ばされた。空気そのものが割れるような衝撃波が周囲に広がり、ゼマの一撃の強さを物語るかのようだった。
衝突の力で、ナギィハとデスラフターたちの体は一瞬で崩壊するように曲がり、空中で回転しながら吹き飛ばされていく。デスラフターたちは不規則に跳ね上がり、力なく遠くの空へと放り出されていった。
彼らの体を縛るように纏わりついていた【いざないの手】はダメージ限界量を超えてしまい剥がれ落ちていく。
それと共に、【いざなわれし者たち】の効果が切れてデスラフターたちの体は、魔力の泡となっていく。
これはナギィハも同じだった。
翼をもがれた彼女だったが、その表情はどこか安らいで見えた。
薙刀と共に彼女の体も消え、魔力だけが残った。
「ふぅー、空中大回転スイング、いやー成功しちゃったね。さすが私」
魔力も体力も消費して疲れているはずなのだが、ゼマは腰に手を当てて自慢げに笑っていた。
「……ありがとう! あいつを、倒してくれて!」
感極まった表情で、雷槍のフリラスがゼマに近づき、その手を握った。
「はは、あんたたちも頑張ってたじゃん。
でもさ、まだ終わってないよ。ほら、戻っていくだけ」
クリスタルロッドを背負いなおしたゼマは、魔力となったいざなわれ召喚された者たちを指さす。その高密度な魔力は、風に吹かれたわけでもないのに、ある方向を目指して流れていく。
その方角にあるのは、自分たちをいざなった豪魔グベラトスが戦闘を繰り広げている。
「なるね。だいぶ魔力使っちゃったけど、手伝いにいこう」
紫雷のテンタクは、自分の体から大量の魔力が放出されたことを実感していた。それは他の2人も一緒だった。
「ララクならきっとうまくやってる。っと、思う。
でも、まだおこちゃまだし、心配だね。
はぁー、できる女は大変だー」
一仕事を終えたのでパーっとビールでも飲みたいところだったが、仲間の加勢を選ぶゼマ。
3人は戦いの疲れを癒す間もなく、崖上へと戻っていくのだった。
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