第22話

 【ライトニングランス】と【パラライズサンダー】が組み合わさり、紫電で創成された槍が、デスラフターたちの前に突然と姿を現す。


 自分たちの体よりも遥かに巨大な雷槍を見て、デスラフターたちは恐怖を感じながら翼を羽ばたかせる。今までは【パラライズサンダー】を警戒して回避に徹底していたが、目の前の槍が解き放たれる前に本体を狙おうと動きだしたのだ。


「まぁ、そうなーるよね。

 そこの回転おねぇさん! そろそろお願い!!」


 テンタクは今だ【ホーリースイング】を放ち続けているゼマに合図を送る。ゼマの攻撃は絶え間なくナギィハにぶつけられているが、まだ高速飛行できる彼女には当たってはいない。

 けれど、着実にナギィハの動きが鈍くなり、ロッドを避けるタイミングがギリギリになっていた。天使ナギィハの顔には、じんわりと汗がうかんでいる。【ホーリースイング】による高温により、少しだけ周囲の温度が上がっているのだ。


「まぁぁあああ、かぁああああせぇ、なぁあああ──!」


 激しく狂ったように回る台風のようになっているゼマは、しっかりと受け答えをする。口火つなどが揺れてしまっているせいで、発音はしにくそうだったが。


 ゼマは自分の目が頭が回ることを気にせずスピードアップさせていく。【ホーリースイング】には、回転時に視界がボヤつくことを制御したり、三半規管を鍛える力もある。

 さっきから多重発動しているので、こちらの効果も重複しているのだ。


「……っく!」


 天使ナギィハの片翼に、赤く変色するほど熱を帯びたクリスタルロッドがかすった。僅かに触れただけだが、熱がじんわりと翼全体に広がっていく。


 ナギィハはこのままでは翼がダメになると、一度【ウィングフォース】を解いた。そしてすかさず、もう一度発動して、翼を再会得する。今度は【いざないの手】が体から翼に移動していき、飛行能力を強化していく。


 が、その判断が命取りだった。


 翼を生えかわせる一秒にも満たないほんの一瞬。

 その瞬間に、トップスピードに近い速度に到達した【ホーリースイング】が、ナギィハの頭上に振り下ろされた。


「っぐ……!」


 ナギィハは咄嗟に薙刀の柄の部分を両手で構えて、頭上よりも高く持ち上げる。すると、彼女の手と手の間に【ホーリースイング】は激突した。薙刀の柄と、クリスタルロッドの先端がぶつかりあったのだ。


 車輪のように超回転して威力を増しに増した【ホーリースイング】を受けたナギィハの体は、一度ずしんと大きく落下する。彼女は他の天使やハイエナたちよりも少し上の高度を飛んでいたが、今は同じか逆にそれを下回っている。


 このままでは叩き落されると思ったナギィハ、いやグベラトスの指示を受けた【いざないの手】が、魔法で得た翼を無理やり動かす。ちぎれんばかりに翼を激動させて、ゼマの攻撃に抵抗する。


「はぁ、さすがに目が回ったー。

 けどこれで、ようやく足止め、いや翼を止められたね!」


 ゼマは敵であるナギィハに言うよりは、魔力を重ね合わせている2人の天使に向かって言っていた。

 彼女は言われた通りにした。次はそっちが仕事をする番だと。


「できる女だなぁ、ゼマ!」


 フリラスはゼマと会って数時間も経っていなく、そこまで会話もしていない。なので名前もうろ覚えだったが、今確かにその名前を脳に刻み込んだ。


「フリラス! 私たちも行くよ!

 せーの!」


 2人の天使は同じタイミングで、振り上げた腕を勢いよく振り下ろした。これは俗にいう、合体スキル。それぞれのスキルを合わせることで、より高出力な効果を得る荒業である。

 お互いの事をよく理解していなければ出せない技だ。


 天使フリラスとテンタクは叫んだ。その技の名を。


『『紫雷槍しらいそうつらぬき!!」』』

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