第21話
薙刀を片手で構えるナギィハは、太陽の光をその翼で受けながら様子を見ていた。
彼女は華奢な体をしているが、片腕で薙刀を振り回せるぐらいには筋力がある。
下唇を噛みしめ、空いた手で耳を触りながら、少し下で滞空している3人の冒険者を観察している。
すると、そこにいる人間・ゼマが動き出したことに気がつく。
「……っ!」
ナギィハは天輪の生えた頭を下に向けて、そのまま翼を羽ばたかせて急降下しはじめる。川から飛び出た魚を狙う鳥類のように、素早く洗練された動きだった。
「きたな! いくぞぉお! 【ホーリースイング】!!」
ゼマは敵を確認すると、その場でふわっと空を蹴る。少しだけ飛び上がるとその勢いを利用し、彼女は体を横向きにする。足裏は地上ではなく、雲を向くぐらいの勢いだった。
普通はこんなことをすれば、そのまま落下して終わりだ。しかし、今は空中を浮いている状態。体を真横に倒した状態でも、ゼマはクリスタルロッドを構えたまま浮遊している。
彼女は両手でバットを持つようにロッドを振りかぶり、大きくスイングする。するとゼマの体が一回転すると同時に、ロッドが遠心力を乗せながらぐんぐんと伸びていく。水晶という硬いものを使っているとはとても思えないぐらい、ぐわんぐわんに曲がっている。鞭のようなしなやかせで、ゼマと共に空中を周っていく。
そして一回転を終えるタイミングになると、その長さは敵に到達できるほどの長さになっていた。さらには今のクリスタルロッドは、高熱の光を帯びている。これは光系統の力を宿して攻撃する【ホーリースイング】の効果だ。
伸縮、熱、打撃、様々な強化を得た太陽光を乱反射するクリスタルロッド。それは、飛来してくるナギィハの頭上に勢いよく振り下ろされた。
「っ! ……」
ナギィハはすぐにそれに気がつくと、翼を使って体をコントロールし、少し右に移動して攻撃を回避する。この行動によって、ナギィハの効果スピードは著しく低下した。
しかしまたスピードを上げればいい、と翼を羽ばたかせた時だった。
再び彼女の頭の上から、クリスタルロッドを使用した【ホーリースイング】が襲ってきたのだ。今度は位置が少しずれて、ナギィハの右翼に当たりそうになった。
「……!」
これもナギィハは、持ち前のセンスと強化された体で避けきって見せる。だが、このせいで彼女の体は完全にその場にとどまっていく。
「まだまだぁ!」
ゼマはまだ【ホーリースイング】を発動し続けていた。
スキルで一回転し終えた瞬間に、もう一度同じスキルを使用しているのだ。
これにより、発動するたびに直前の勢いを受け継いだまま、強力なスイングが繰り出されることになる。
3度、4度と、空間を削り取るかのように、大きな円を描いてゼマとロッドは激しく回り続ける。
真下には、ピンクと緑が混じった草原「天国草原」が広がっている。が、今の彼女は崖上と同じぐらいの高度にいるので、伸びたロッドを振り回しても、草木にぶつかる危険性はほとんどなかった。
彼女が体を横にしてこの技を行った理由は、地面にぶつかる心配がない状態であることと、もう1つは味方側に当たる心配を排除するためだった。
回転した攻撃は、ナギィハをしっかりと捉えている。だがその度にナギィハは的確に攻撃を避けている。それに合わせて次の攻撃をヒットさせる位置を調整したりするので、かなりコントロールが難しく軸にブレがでる。
なので、地面に足を向けた状態で放つと、ゼマの隣にいた天使2人にぶつかる危険性があったのだ。
ゼマが激しく回転攻撃を繰り出している隣で、テンタクとフリラスも作戦の準備に取り掛かってた。
雷槍フリラスの体からは黄金のように発光する稲妻の魔力が、紫雷テンタクからは独特な紫色をした魔力がバチバチと音を鳴らしていた。
「やばやば。ウチらも気張んないとだね。【パラライズサンダー】」
紫雷を発動するテンタクは、それを敵に向かって射出するのではなく、その場にてとどめるようにコントロールする。それは静かに唸りを上げ、空間を震わせる。
これを見たハイエナ・デスラフターたちは、翼を広げて警戒する。自分たちに放たれるものだと思い込んでいたようなので、少し首をかしげているようにも見える。
「当たり前だ!!
息を、魔力を、雷を! 合わせるぞっ! テンタク!!
【ライトニングランス】増えろ!!」
フリラスが手をかざし、空中に稲妻が集まり始めた。雷のエネルギーが凝縮され、青白い光を放つ【ライトニングランス】がまばゆい光を放ちながら形成される。
その瞬間、二人の雷が交錯した。閃光が弾け、激しい音が響く中、二つの力が絡み合い、混ざり合っていく。まるで生き物のように雷が蠢きながら、フリラスの槍とテンタクの電流が渦を巻き始めた。
その渦から、紫色の光がじわりと浮かび上がり、やがて一本の槍の形をとり始める。紫雷が槍の柄から鋭く伸び、力強く輝きを放った。周囲の風景をも歪めるかのような威圧感を漂わせていた。
その槍は、二人の力が完全に融合した証として、空中に静かに浮かび上がっていた。
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