第19話
空薙のナギィハを相手にすることを決めたゼマは、手を休めることなく攻撃用のスキルを発動した。
「撃墜してやんよっ!
【刺突乱舞】!!」
ゼマがクリスタルロッドを構えると、輝く透明な棒が一瞬で伸び、研ぎ澄まされた【刺突】が次々と放たれる。ロッドが瞬時に伸び縮みし、ゼマの手の動きに合わせて何度も鋭い突きを繰り出す。クリスタルの先端が空間を切り裂き、稲妻のように敵に向かって飛び出していく。
正確な軌道を描いて次々と目標であるナギィハに向かっていく。
「……【薙刀式・
ぼそっとスキル名だけを発音するナギィハ。彼女は薙刀の長い柄の部分を両手でふわりとにぎり、華麗にそれを時計の針にような動きで回転させていく。
素早く回転していく薙刀は、残像をいくつも生み、疑似的な盾のような姿となっていく。
そしてそれらは、「かーん」という甲高い音を鳴らしながら、ゼマの【刺突乱舞】をいくつもはじき返していく。
「っち、やるじゃん。私もたまにやるよ、それ」
ゼマは防がれると分かりつつも、【刺突乱舞】を最後まで放ち続ける。
ナギィハが行った【薙刀式・大宴陣】は、薙刀をその場で回し防御できる範囲を拡大するスキル。これが可能なのは、手で持つことのできる部分が長い薙刀や、ゼマの持つロッドの利点だ。これを刃の長い剣でやろうと思うと、手を掴むスペースが狭く、武器を回転させるのが困難だ。
(ここからでも私の攻撃は届くけど、見てから反応されるな。
っあ、そうだ。
簡単な話じゃん)
突きを放ち終えたゼマは、次の作戦を考えていた。標的である空中にいるナギィハを見ていると、視界に紫雷のテンタクが入ってきた。
何度か【パラライズサンダー】でデスラフターたちを攻撃するも、やはり360度自由に移動することができる翼により、すぐに回避されている。
そんな彼女に、ゼマは力を貸してもらうことにしたのだ。
「そこの紫天使ちゃん! 私にも【空中浮遊】を使って!」
ゼマは彼女の名前が「テンタク」ということは知っていたが、自信がなかったので特徴で呼んだ。そしてそれは、安直ながらスムーズに本人に伝わった。
「っえ、別にいいけど。はい、【空中浮遊】」
二つ返事で答えたテンタクは、すぐにゼマに魔法をかける。するとゼマの体はたちまちふわっと浮き上がり、崖の上から飛び出だしていく。
「サンキュー。これでやってみるしかないか」
ゼマは重心移動を行い空中での移動を試みる。実は彼女がこの【空中浮遊】を使用するのは初めてではない。なぜなら、このスキルは仲間のララクも持っているからだ。道中足が疲れた時などに使って貰ったことがある。
これを用いた戦闘経験は浅いが、付け焼刃以上の力は発揮できる自信があった。
ゼマはかなり高度の高い場所にいるナギィハに向かって、浮かび上がっていく。地上からでも【伸縮自在】を駆使して戦うことができるが、より近づき素早く攻撃を当てる作戦だった。
「……」
急に空を飛び始めたゼマを確認した
ナギィハが風と一体化するように、流れるようにゼマに向かって接近する。空気を滑るように、彼女の身体が一瞬で距離を詰めると、その瞬間、薙刀をしなやかな手さばきで振り下ろす。
優雅に体を旋回させながら、鋭く輝く刃をゼマに向かって攻撃を叩き込む彼女の動きは、嵐の中で舞う一陣の風のように、速く、避けがたかった。
「がはぁ!」
一瞬だった。ナギィハの薙刀がゼマの胸元に届き、鋭い刃が彼女の衣服を裂いていく。風に乗った一撃は容赦なく、ゼマの胸元に深い傷を刻んだ。瞬間、鮮血がほとばしり、ゼマの体が痛みに反応してわずかに揺れる。薙刀は鋭く、精確にその使命を果たし、ゼマの胸を赤く染めた。
斬撃の音が聞こえた天使2人は、すかさず振り返る。同胞である天使ナギィハが、人間を容赦なく斬りつけるその光景は、衝撃的で悲惨な光景だった。
「な、う、嘘だろ!?」
「……そんな、瞬殺じゃん……」
ナギィハが人を襲う姿が衝撃的なのは当然だったが、彼女が操られていることは把握済み。今一番驚いていることは、ゼマが僅かな時間で致命的な傷を負ったことだ。彼女が優れた冒険者であることは、突きを一度でも見れば分かる。分かっているからこそ、血にその姿が恐ろしかったのだ。
「……」
切り裂いた本人であるナギィハはただ黙って事を実行しただけ。次は天使たちだ、と移動を開始しようとした時だった。
胸元にパックリと切り傷を刻まれたゼマはまだ、クリスタルロッドを手から離してなどいなかった。
「……ぐぅ、舐めるなっ!」
ゼマはロッドを握りしめ、力を何とか振り絞ってナギィハの顔面にそれを叩き込む。
不意の一撃。翼で回避することができず、その棒撃はナギィハの頬を捉えた。
「……っつ」
ナギィハの頭と首が衝撃で後ろへと軽く吹き飛ぶ。
「っへ、当たってんじゃん。……【クイックヒーリング】」
ロッドが直撃したことを感じると、ゼマの唇がわずかに持ち上がり、目元には乾いた笑みが浮かんだ。彼女はその後、すぐに回復することのできるスキルを発動した。
すると、胸元の傷が、まるで医者に縫い付けられたかのように滑らかに閉じていく。流れた血は消すことはできないが、これ以上の出血を防ぐことには成功した。
「あんたたち、安心して。
私はアタッカー兼ヒーラー。これぐらい、なんともないっていうのっ!
それよりも、そのハイエナたちをどうにかしなよ~!」
ゼマは軽く振り返って、すぐに治療を終えた胸元を天使たちに見えるようにする。そしてロッドを持ち上げて、まだまだ活力にあふれていることを示した。
「っは、なんだよ、とんでもねぇじゃん! あの女!」
「はー、ビビックリした~」
元気ピンピンのゼマを見て、天使たちは安堵する。死にはしないと思っていたが、あのまま落下してもおかしくない、ぐらいには心配していたはずだ。
「……」
ロッドによる打撃を受けたナギィハは、頭を元の位置まで戻す。すると、彼女の頬に1つの【いざないの手】が触れていた。そしてそこには、クリスタルロッドによるダメージと思われる打撲痕が残っていた。
「へー、そっちも半端ないね。オートで発動するって感じかな。
なんにせよ、勝負はこれからだ!」
ゼマは自分の攻撃がヒットする瞬間に、【いざないの手】が入り込み防御したのだと納得した。大ダメージとはいかなかったが、一撃入れる事はできた。
彼女はクリスタルロッドを再度構えると、改めてナギィハと激突していくのだった。
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