第17話

 ララクの【ホーリーレーザー】がグベラトスによって阻害され、さらには力の糧にされると、この場にいる者すべてに衝撃が走った。


「ちょ、ちょっとララクんっ! なんだよ、今のスキルっ! もしかして、レベル凄い高いの??」


 すでに起き上がっていた炎足のパルクーは、驚きながらララクに駆け寄る。こんな状況にもかかわらず、胸の高ぶりが抑えきれずに、少しスキップのような足取りになっていた。


「えっと、レベルは50ちょっとなんですけど。パッシブとか色々重なって、これぐらいの火力は出せます。

 けど、これすらも取り込まれるとは思わなかったですけど」


 いちから説明している暇はなかったので、端的に説明した。そして自分の事よりも、グベラトスの力についての情報が一つでも欲しかった。


 そこに、パルクーが説明が下手な事を知っているヨツイがフォローに入る。彼女もララクのスキル規模に驚愕していたが、彼が必要そうな情報を伝えることを優先した。


「……どぎもぬかれたよ。

 それで、【いざないの手】だけど、物以外にも魔力を吸収する効果があるんだ。腕で捉えて、異空間へ引きずり込む。

 あの手が耐えられる攻撃じゃなきゃダメなはずなんだけど、今はかなり頑丈になっているから、ララクのスキルも捉えられたんだと思うよ。

 ほら、本人もビックリしてるよ」


 ヨツイは説明しながら、グベラトスの動向をちらちらと警戒していた。そうしていると途中から、グベラトスの動きが止まっていることに気がついた。

 吸い取った強力な魔力を噛みしめるかのように、少しニヤリと笑みをこぼしていた。


「たまげたよ。格闘寄りの冒険者かと思っていたが、魔力も凄まじいんだな。

 俺は自分の能力を異質だと思っていたけれど、お前のその強さも規格外だ。

 っが、そのおかげで、力がより漲ってくるのを感じる」


 グベラトスは自分の心臓に手を当てて、その鼓動が高まる音に浸っていた。感覚的に分かるのだ、どれくらいの魔力を吸収し、それが【いざないの手】をどれくらい強化してくれるのかが。


「ありゃま、まーた強くなったね、グべの奴」


「……確かに。けど、今のあいつに勝てるとするならば、ララク、キミしかいないと思う。

 改めてお願いだ。あいつを倒すのに力を貸してくれ」


 真剣なまなざしでヨツイはララクに語り掛けた。今日会ったばかりだが、ヨツイはララクの事を信用に値できる人物だと直感していた。


「もちろん、です。けれど、近接も遠距離も対応されるとなると、どうすればいいのか。

 それにボクは……あっちの戦いが気になって仕方がありません。

 【いざないの手】がこれほど驚異的ならば、それと連動したスキルで召喚された者たちも、相当な戦闘力を持っているはずです」


 ララクが見た咆哮は、落ちたら天国草原が広がっている崖の一番端っこだった。全体的に開けた場所なので、そこに無理やり移動させられた天使たちの姿が、ぼんやりと確認できた。

 けれど、ここからでは援護は難しいし、なによりそんな余裕はない。


 現在、崖の上にはララクの仲間、戦闘医ゼマしか立っていなかった。

 しかし、この場には天使族フリラス、テンタクが共にいる。

 そして、残念ながら相対するのは薙刀を振り払う天使ナギィハ。さらには、ナギィハと同じく【いざないの手】に体を縛られ強制的に力が強化されているハイエナ軍・デスラフターたち。


 彼らは全員、崖を飛び出し、さらにその上で空を飛んでいた。


「ふぅ、フリラス、風にちゃんと乗れてる??」


 紫雷のテンタクは【空中浮遊】というスキルを使用していた。文字通り、地から足を離し天を移動することが可能なる効果がある。

 これは自分以外にも使用することが可能で、仲間の雷槍のフリラスにも使用していた。


「当たり前だっ!!」


 彼女は戦う気満タンでありながら、怒りが常に体中に迸っている。やはり、友である同族ナギィハを傀儡とされているのが許せないのだ。


「天使ってさぁ、もしかして全員空を飛べんの?

 いやそれはいいんだけどさ。

 あいつらまで空を飛んでるのは、反則でしょ!」


 崖にただ一人立ち尽くすゼマは、空を飛ぶハイエナたちを指さして怒鳴った。

 デスラフターたちも、天使族と同じ高度で飛行しているのだが、【空中浮遊】のスキルで空に浮いているわけではない。


 ハイエナたちの体から、バサバサと本来はあるはずのない部分を動かす音が聴こえてくる。

 ひどい猫背のような凹凸おうとつのある背中から、立派な純白の翼が生えているのだ。まるで鳥類のように、自然な羽ばたきで空に停滞している。


 そしてそれは、空薙のナギィハも同様だった。すらっとした背中から翼が生え、彼女を支えるように緩やかに揺れている。


 大昔、地上を歩いていた人は彼女たちの姿を見てこう呼んだ。


 天から舞い降りし神秘の使者と。

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