第16話

 左からは、怒りをその攻撃に乗せたヨツイの【パワーナックル】が、右からは炎系統の力を放熱するパルクーの【フレイムストライク】が、グベラトスに迫りくる。


「2人を傷つけるつもりはない……だけどな」


 そういいながらも、グベラトスは攻撃を防御するために体をぐねっとひねる。彼の手足は、【いざないの手】を装備する技・黒手魔装こくしゅまそうによって、卓越した肉体へと強化されている。

 スキルで対抗しなくとも、2人の攻撃にはなんなく対処できた。


 炎足のパルクーの蹴りには、こちらも左脚を使って蹴り返す。ぶつかり合う豪魔たちの強脚。【フレイムストライク】の猛炎がグベラトスの脚に燃え移ろうとする。が、ここで【いざないの手】が盾のような役割を働く。

 様々な物を取り込んだ【いざないの手】は、非常に硬く破壊することは困難。そのため、鎧のように着用者の防御力も高めてくれる。

 そのため、パルクーの放った炎は有効打とはならなかった。


 そしてヨツイの怒りの鉄拳は、彼女の手首を掴むことで防いで見せた。ララクのように正面から受けると、少なからずダメージを受ける。なので、ダメージ判定のない腕の側面などを掴むことで安全に受け止めることが可能。


「っく! やるじゃん、グべ!」


「お前たちの動きは、よく見ていたから、っな!」


 グベラトスは脚に力を入れて、炎足のパルクーは蹴り飛ばす。スキルを装備した状態での特殊な蹴り。パルクーの蹴りを受けるためのものだったが、逆に彼女の脚のほうがダメージを貰っていた。


「ヨツイ、お前は俺を止めると思っていた。だけどな、今の俺に立ちふさがることなんて、もう無理なんだよ!」


 グベラトスは彼女の手首を掴んだまま、その体ごと大きく振り払った。ヨツイとパルクーは、一瞬で同じ方向へと吹っ飛ばされてしまった。


「っぐ! くっそ、あのバカ野郎、前より遥かに強いな。それに、私たちの動きが完全に読まれている」


 投げ飛ばされたヨツイは、うまく着地することはできた。が、容易く裁かれたことが悔しくて仕方がなかった。地面を強く叩き、辛辣な目をグベラトスに向ける。


「いったぁ~。骨、折れてないよね?」


 パルクーは、転げ落ちるように受け身を取っていた。真っ白な衣服は、今ので薄汚れてしまった。【フレイムストライク】を放った利き脚が、ずきずきと痛む。折れている、ことはなく歩行も可能だ。しかし、グベラトスと自分との攻撃威力の差を痛感していた。


「ヨツイさん! パルクーさん! 少し離れていてください。 

 大技を放ちます。

 【ホーリーレーザー】!!」


 空間が一瞬、静寂に包まれると、眩い光が一点に集まり始める。次の瞬間、その光が強烈な輝きを放ち、一直線に放たれる。魔力の光線は、純粋なエネルギーの塊のように周囲を焼き付けながら進み、軌跡に残るのは、光の余韻とともに揺らめく空気だけ。時間さえも裂くかのように、まっすぐに発射されたその光は、威力と神秘を兼ね備えた魔法の一撃だった。


 威力、速度ともに申し分ない光系統の魔法スキル。【ホーリーレーザー】は豪魔グベラトスを裁くかのように、彼に直行していく。


「! っは、凄まじく眩いな。

 誘掌防壁ゆうしょうぼうへき


 照りつける猛烈な光を感じたグベラトスは、少し心を躍らせた。そんな中でも、冷静に【いざないの手】を利用して攻撃を防御する方法を選択した。


 異空間の中から無数の腕が現れ、うごめくように彼の前を満たし始めた。それらの腕は一つ一つが独立して動きながら、互いに絡み合い、重なり合っていく。やがて、無数の腕が連鎖し、巨大な壁を形作った。黒く輝くその壁は、【いざないの手】が織り成す不気味な盾となり、脈を打すように揺らぎながら、敵の攻撃を待ち受ける。


 【ホーリーレーザー】が闇の壁に衝突した瞬間、鋭い高音が空気を裂くように響いた。金属が軋むような不可解な音だ。

 激しい閃光が【いざないの手】に直撃するが、その攻撃を一切通さず、闇の壁は微動だにしない。

その後、役目を終えた魔の手たちは異空間とともに消えていった。


 神聖な光は、冥界の闇に吸い込まれるようにして消え去り、グベラトスは一歩も引くことなくその場に立ち続けた。


「……失敗でしたね。正直、どうすればいいか分からなくなりましたよ。

 あなたのその手が……、スキルまで吸収するなんて」


 ララクのスキルは防がれた、のではなく正確には吸い込まれた、のだ。【いざないの手】が折り重なった後ろに異空間が展開されており、【ホーリーレーザー】はそこに引き寄せられてしまったのだ。


【いざないの手】はあらゆる物を掴み、亜空間へと導いていくのだ。

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