第10話
豪魔グベラトスの発動した【いざないの手】が、3人の天使族を捕らえようとその腕をぐんぐんと伸ばしていく。【伸縮自在】ほど自由自在に長さは変えられないが、人間の腕の数倍くらいまでならばその距離を伸ばせる。
「っつっても、スピードはこっちの勝ちだっ!」
雷槍のフリラスは、即座にバックステップをして、青白いオーラを纏った漆黒の腕の射程距離から離れる。
彼女の言った通り、【いざないの手】は驚異的な速度というわけではない。目で追える程度。それでも、一般人が攻撃されれば回避は困難。
だが、天使たちは冒険者。これぐらいならば自衛可能だ。
「これ、触れたらアウトだよね。アブなすぎ」
紫雷のテンタクも、嫌悪感を顔に出しながらもスイスイと手の猛攻をくぐり抜けていく。天使族は、華奢で軟体な個体が多い。
なので、簡単に捕まることはない。
もう1人の天使、ナギィハもそのはずだった。
「……っふ! ……!?」
自分の前の異空間から現れた
フリラス、テンタクの2人に襲い掛かっていた他の腕たちが、一瞬で方向転換した。まるで生きているかのうようだが、この表現はあながち間違いではない。
グベラトスが創り出した疑似的な腕であり、爪の先まで意識を飛ばして操ることも可能。
数十本は超える魔の手が、一気にナギィハへと襲い掛かったのだ。
「……っう!!」
彼女は背中の薙刀を抜こうと動いたが、その腕を【いざないの手】が掴んで阻んだ。そしてそれを合図に、他の腕も彼女を捕縛しようとしていく。
それらはナギィハの純白の腕、足を無慈悲に掴み取った。ナギィハは一瞬、驚愕の表情を浮かべて、すぐに抵抗しようとした。しかし、その手はあまりにも強力で、まるで鎖で縛り上げられるように、天使の動きを封じ込めた。
無数の手が天使の体に絡みつき、次第に天使を持ち上げていく。太陽の光に包まれた天使の姿が、闇の中へと引きずり込まれていく様は、希望が絶望に飲み込まれるかのようだった。天使ナギィハは体をくねらせて払いのけようとするが、そうすればするほど腕の締め付けが厳しくなっていく。
「ナギィハ! 手、出せ!」
すぐに動きだしのは雷槍のフリラスだ。後ろに下がって避けてしまったため、前にいたナギィハとも距離があった。
そのため、フリラスがナギィハに近づいたころには、腕でがんじがらめになっていた。
「……。……っは」
体中を腕に取り込まれてしまった空薙のナギィハ。彼女は自分を助けに来た雷槍のフリラスに顔を向ける。そして、心配させまいと「っ二」っと笑顔を見せた。
そしてその瞬間、彼女の顔と髪を【いざないの手】が張り付いていき、彼女は異空間へと飲み込まれていった。
「ナギィハ! おい、うそだろっ!」
「……マジ。ナギが……」
空薙のナギィハを取り込んだことにより、異空間と魔の手は全て消え去った。そう、彼女の体を連れて消えてしまったのだ。
人が飲み込まれていく様を目の当たりにして、他の者たちは唖然としていた。
天使たちは2人は現実か信じ切れず、ララクとゼマはその異様さに絶句していた。
そして、この能力を知っているはずの豪魔2人も、グベラトスの【いざないの手】に驚愕していた。
「……グべ、強くなりすぎだよ。それに、本当に人を取り込むなんて」
陽気な炎足のパルクーも、さすがに声のトーンを落としていた。彼女の知っているグベラトスという男は、人を襲うような人物ではなかった。
「グベラトス……本当に、お前がやったんだな。天使の里を、その手で取り込んだんだ。
そんなはずはない、と思っていたんだけど」
魔拳ヨツイの表情は暗く、そして重たかった。幼馴染が罪のない天使を襲う瞬間を、この目で確かめてしまった。
その光景を疑いたくとも、現実が否定してくる。
「……ああ。ギリギリだった、腕が足りないかと思ったさ。
けど、俺はやり切った。
この手に、掴んだんだよ」
グベラトスは右手を前に出し、まじまじと見つめていた。
彼は思い出していた。
時はほんの数時間前。ララクたちが豪魔の砦に訪れたぐらいだろうか。
豪魔グベラトスは、天使の里へと足を運んでいたのだった。
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