第50話 夢の使者
「あ、ネイサン!ひどいよ~置いて帰るんだもの!!」
ブルースの宿に戻ると、既に食卓に着いていたモリスに
「すまんすまん、モリス・・・実はハングドボアの死体を門外に置いてきぼりにしていてだな・・・さっきようやくギルドに納品してきたところなんだ」
「ええ~!それって、すごいよネイサン!」
先ほどまでの怒りはどこへやら。目を輝かせて身を乗り出してくるモリス。
ちょ、チョロい・・・それでいいのかい?モリス君・・・。
「中級者向けのモンスターを、こんなに早く討伐するなんて・・・すごいって!じゃあさ、レベルも上がったんじゃない?5に到達できてるかもよ?5に!」
レベル!確かに確認していなかった。モリスがやけにレベル5を強調するのは何故だか分からんが・・・確かめてみるか。一体・・・どれ程上がっているのだろうか・・・。
「”オープン・ツリー”」
ピカッ!
うおっまぶし!!本が・・・光って・・・!!
ん?・・・なんだ・・・この感覚は・・・!体に、力がみなぎるような・・・熱い!体が熱い!!
ドクドクと、血液がマグマみてえにボコついて・・・うおおおおお!?
「モリス!!!なんだこれ!?なんか、体が変だ!!」
「大丈夫!!超えたんだよ!レベル5に、なったんだよ!」
へ?どういう・・・?
身体のボコつきが、止んでくる。本の光も消えて・・・確かに本の1ページ目には、「レベル5」の文字があった。
パチパチ・・・パチパチパチ・・・!!
宿の皆が、拍手をし始めた。え、何このカンジ?誕生日みたいなコレ・・・何すか?
「おめでとう、ニーチャン」
「脱、初心者おめでとう!」
「脱、童貞おめでとう!ガハハ!!」
「早いじゃねーか!すげーぞ!」
皆が笑う。このノリ・・・さては前と一緒だな?
これ・・・皆が経験したことがある現象・・・ってことだろ?
「モリス君・・・説明を頼む」
「任されたよ!」
モリスが言うには・・・この世界のレベルアップは実質、5
そして、その成長のタイミングは”オープン・ツリー”での確認時に訪れるらしい。俺が先ほど体験したように、その時が訪れると本は強く光を放つのだとか。
また、スキルの習得に関しては必ずしもレベルアップとは関係無く行われるものだが・・・5の倍数のレベルアップ時には高確率でスキル習得をしているものらしい。モリスがしきりに、スキル一覧を見ろと言うので確認してみると・・・。
「キタ・・・これは・・・土石術か?あと、ツリーが一本生えてやがる・・・!!」
「”
「やったね!土石術には詳しくないし、ツリーの方もわかんないけど、とにかくナイスだよ!!」
「ん?ニーチャン、”守り人”のツリーが生えたって?・・・アンタ、最近誰かを守るような経験しなかったか?」
横で飲んでたおじさんが教えてくれる。
”守り人”のツリーは
したわ。今日、そういう経験・・・。守ったわ・・・同郷のカップルを・・・。
地上で生えた初めてのスキルツリー。こうやって、生えていくんやね・・・。俺は基本、ソロだけど・・・成長させていければいいな・・・。
「おう、今日はチビ共を使ってくれてありがとな。お前はキノコ・・・大盛りだ!」
ブルースが晩メシを運んでくれる。これは・・・ウマそうだ!半分に割って、カリっと焼いた黒パンの上にギラつくタレと炒めたキノコがふんだんに乗せられている。ここにチーズなんかが乗ってれば、ピザみたいな見た目になってただろうな。
「しかも、今日はおかわりも可能だ!昨日キノコをくれたのは、お前だからな!」
ニッ!と笑うブルース。俺はその言葉にあやかり、おかわりをして満腹で寝床に着いたのであった・・・。明日は森で、新しい術のテストでもしたいな・・・。
・・・
夢だ。また、夢を見ている実感がある。
なんだここは・・・デカい
旅館?旅館だわ、これ。なんでまた。
あ・・・これ、悪夢じゃねえよな?またギルに食われるのは・・・嫌だ。
ぺた・・・ぺた・・・
足音!まさか。やめてくれ!やめて・・・
「やっほ~、僕だよ」
「え・・・あなたは、夢の神・・・ベッドフォード様・・・?」
「そうさ、憶えていてくれたようだね」
「僕はね、夢を使って”交信”ができるんだ。君は今、眠ってる。知識神・・・ルートンみたいに、現実の時間で長く時間は取らせないよ。よかったね」
あ、ああ・・・確かにルートン様は長く喋られる方だけど・・・笑
「でしょ?眠くなっちゃうよね~、彼。まあ、気持ちよく寝れて・・・逆に好きなんだけどね・・・」
「要件はね、夢魔が近くにいるから伝えに来たんだ。ホラ、約束したでしょ?食べさせてくれるって」
「この町の、裕福そうな家の人間・・・多分、町長なんじゃないかな?その家の娘が、夢魔に憑りつかれてるんだ」
「殺し方を教えるから・・・お供えしてよ~、僕に」
・・・夢神様の話によると、夢魔とは・・・漆黒の馬の形をしたモンスターであるらしい。だから
そして何かの拍子に宿主がその姿を見てしまった場合、宿主は昏睡状態に陥ってしまい・・・二度と夢から覚めない身体となってしまうとか。怖いやんけ。
しかし、もし万が一そうなってしまったとしても・・・対象の夢魔を殺せれば宿主は目覚める事ができるとか。ただ、そこで夢魔を逃がしてしまうとジ・エンド。二度と目を覚ますチャンスは訪れないと思ったほうがいい・・・とのこと。
そのため、夢魔を退治する時は静かに事を運ぶ必要がある。宿主の睡眠中に夢魔はその姿を現し、宿主の耳から黒い霧状の姿で出てくる。そして完全に姿を現すと実体化し、宿主の生気を奪うのだとか。その時、初めて攻撃が可能になるのだが・・・物理攻撃は通りにくく・・・魔法の力の籠った攻撃でしか致命傷になり得ないとのこと。
「以上、だね。大丈夫?眠くなってない?」
「あ、もう寝てるか・・・あはは」
「分かりました・・・。お供えというのは、どうすれば?」
「別に、夢魔の死体の前で祈ってくれればいいよ。夢神様、めしあがれ?ってね」
「じゃあ、僕はこの君の夢を楽しんでくるから・・・先に起きちゃって。じゃあね~」
「あ!夢神様!ここは俺のいた世界の宿です、温泉・・・と言う名の風呂があるハズなので、良かったら楽しんでください!布団も、気持ち良いと思います!」
「ホントに~?ありがと、楽しんじゃおっかな~」
・・・
・・・気が付くと、朝。
夢で、神様に会っちまった。
ホントに・・・喋ったよな・・・俺・・・?全く現実感が湧かないが、夢の内容は
そうすると・・・準備、だな。何よりも優先してこれに挑む必要がある。ちょうど借金も無く、何日か生活するだけの持ち金もあるしな。
何から始めるか・・・まず気になるのは、アポが取れるか・・・だな。町長の娘とか、アポ取りだけで結構難しそうじゃね?そもそも、夢神さまは「多分、町長かも」みたいなノリで喋っていたし・・・事実確認をする必要すらある。
後は、やっぱり殺し方だよな。魔法の力しか通らないとかなんとか・・・俺ができる魔法攻撃なんて、”落石”くらいだぞ。あんなもん家の中でぶっ放したら、宿主が起きちまう。もっと静かに、かつ確実に殺す方法を考えねば。
そこで気になるのが、新呪文である。そうだな、まずはこれがどんな術なのか。町の外に行って確かめてみるか・・・
決定!今日の予定はとりあえず、新呪文のテストということに決めた。
・・・
森に行くついでに、一応薬草の採取依頼を受けにギルドへ。昨日の今日のことなので、ハングドボアの素材費はまだ入ってこないようだった。全然オッケー。カネにはまだ、余裕あるもんね。
そのまま、森へ直行。
森の入り口付近で、”
ズモモモ!
おお!なんじゃこれ!
バキバキバキ!
こ、これは・・・使えるぞ・・・!
いける・・・夢魔戦、いけるだろ!これは~~~!!!
俺はそのまま、森に入っていく・・・実戦だ・・・実戦がしたい。ゴブリンだ。アイツらでまた、実験させてくれ・・・!
・・・
俺は、ゴブリンの耳を4個。ナイフを二本。シズク草を一本得て、ギルドで換金していた。最高だった・・・今の俺に足りないモノを、新呪文は解決してくれる・・・。レベルアップの恩恵もスゴかった!体は軽く、一撃は重くなった!うひょ~、だぜ!
「いや~、なんですかネイサンさん。ご機嫌なご様子ですねえ?良いことありました?」
「はい、エドワードさん。昨日、新呪文を会得したもので・・・今日はその試運転と言いますか・・・」
「あ、そうだ!町長の家って、どこにあるかご存知ですか?緊急の用事があるんです!」
へ?驚きながらも、エドワードさんは町長の家の住所を教えてくれた。なにぶん忙しい方なので、会ってくれるかは分かりませんよ?とも言っていたが・・・
今日は早めに町へ帰ってきている。まだ時刻は昼過ぎ。ワンチャン、このままアポ取りに行って・・・後日の約束をこぎつけられれば嬉しい。おし!行っちゃお!ノリが大事だ!こういう時は!
そんなわけで、俺は町の北方面に足を進めた。
・・・
ここら辺には、まだ全然来たことが無かったな。
町の北側。普通の家屋が立ち並ぶ町民の居住区。少しの傾斜と、街路樹が立ち並ぶ道を抜ければ・・・チラホラと豪華な家が見えてくる、静かな住宅地。
北側の道は、結構長いんだな。移民局で見た地図は、縮尺が少しおかしかったのかもしれない。正三角だと思っていた町は、北側の頂点が長めの・・・魔術師の帽子のような形の町だったようだ。
きっと、この辺りだ。町長の家、苗字を名乗ることを許された・・・一級国民の家だ。
おお!横長で、二階建ての大きな家が眼前に広がる。門番の男もいるし、ここじゃねえの?早速俺は、門番の男に話かける。
「あの~、すいやせん。町長のジョン・ビーゲル様のお屋敷は、こちらで?」
「ん・・・だから何だ。お前、転生者だな。何の用事か?」
「あ、ハイ。えっと、ご息女様がご病気と聞いて立ち寄った次第でして・・・病気というか、夢魔の仕業だと思うんですが・・・そういった話、聞いてませんか?」
「・・・はあ?そんな話は聞いていない!・・・その、私が聞かされていないだけかも知らんが・・・。そ、それで!その夢魔とやらを退治しに来たというのか!お前は?」
「その通りでございやす・・・。一応この話、ビーゲル様にお聞かせ願えればと・・・」
「・・・はあ、怪しすぎるだろ、お前・・・。まあ一応、お耳には入れてやる。ここで待っていろ!」
はい、待ちます・・・。
うわ~、どうだろ。普通に間違いの可能性あるな、コレ。門番さん、聞いてないとか言ってたし・・・。裕福そうな家って・・・ここまでの道のりで何個かあったもんな。夢神様・・・頼むぜ・・・このままじゃ俺、完全に不審者だと思われちまうぞ・・・?
しばらく待つ・・・。結構、待つと・・・突然、門の向こうでバタン!と音がした。様子を伺っていると、先ほどの門番の男が急ぎ足で戻ってきた。
「し、失礼!ビーゲル様がお会いになると言っている!お前の話は本当だったようだ!・・・こちらへどうぞ、お客人・・・!」
あ、はい・・・。おざす・・・。そう言いながら、お屋敷の門をくぐる俺。アレ・・・?なんか、とんとん拍子に事が進んじまったぞ・・・?
時刻は夕暮れに差し掛かっている。こんな時間に面会をOKしてくれるってことは・・・ビンゴ、だろうな。俺は小さくガッツポーズしながら、門番の男に着いて行った・・・。
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