第31話 ドサ回り


「フンッ・・・こんな小童こわっぱに何が出来ると言うのだ・・・ダークプールのヤツ、見る目が無くなったのではないか・・・?」



な、なんか印象が悪いっぽいな・・・


この方は力の神、ダラム様というらしい。

力の神だけあって筋骨隆々きんこつりゅうりゅう。上背のあるドワーフのような見た目の神だ。その逞しい身体を見せつけるかのように、上半身はもちろん上裸。チャンピオンベルトのようなイカツい装飾品を身に纏い、燃えるような赤髪と髭を貯えていらっしゃる。



「ダラム様、初めまして。私は・・・」



「人間の名前なぞ、憶える価値は無い。それより貴様はそんな身体で地上へ降りようと言うのか?」



「あ、いえ。キャラクリ・・・いや転生の儀式はまだ完了していないのです。内容は既に決まっているのですが」



「ああ、そうであったか・・・それで、内容は!貴様は地上で、どう生きる?」



「種族はゴレムスを予定しておりまして、武術のほうは喧嘩術を・・・」



「ム?」



「え?いや、喧嘩術はその、徒手空拳の技術というかその・・・」


「ええい、そのようなこと儂にも分かる!それで?続きは?」




「はい、石の肌にステゴロの技術ということで・・・〈筋力増強〉も一緒に。そして・・・」



「ムム~~~???ん待てぇい!!!!!!」


「ひっ!」



ダラム様の目の色が変わり、ずずいっと距離を詰められる。



「貴様あ・・・もしや・・・」



「筋肉崇拝者・・・か・・・?」



「え?」



抱きっ!

圧し潰されるような抱擁ほうよう・・・!もじゃもじゃの髭・・・!

そして溢れるオスの匂い・・・!な、何を・・・?



「ヌワッハッハァ!!先に言えい、先に!!!」


「筋肉を崇めること、すなわち我が信徒という事ではないか!何を水臭い態度を取っておるのか、貴様は~~~~!!」



グリグリ・・・頭をゲンコツでこねくり回される俺。



「ダ、ダラム様・・・ちょっと苦しいのと・・・痛いっす・・・」



「ホホ!すまんすまん!」



そう言いつつ拘束は解かれない模様。え、離してくれないんや・・・?笑



「いやしかしなんだ!ダークプールと手を組むような輩ならばと・・・もっと小賢しいわらしを想像しておったが・・・存外良さそうな男ではないか!」



「・・・あざっす。〈筋力増強〉取っておいて、よかったっす」



「そうだろう、そうだろうとも!」


「思えばこの場で儂の信徒と顔を合わせることなど久方ぶりだ!よぉし、お前には転生の前に筋肉の鍛え方というものを教え込んでやろう・・・!これはサービスというやつだ!」



そこから力の神様は俺に、筋トレの方法を実践的にレクチャーし始めた・・・俺は何をやっているんだ・・・そう思いながらも、段々と楽しくなってくる俺。やっぱチョロいんだよな、俺ってやつは・・・



流石は力の神、と思ったのが食事についても熱心にアドバイスがあったことである。

栄養のなんたるかなど科学的に解明されていないような時代背景の中で、やれ鶏肉を食えだのパンではなくイモを食えだの・・・現代のトレーニー顔負けの知識を披露するダラム様に思わず笑ってしまう。




「筋が良いな!これを継続することだぞ、男は筋肉!女も筋肉だ!」


「ハイ!筋肉、最高!」


「ウム、筋肉最高!」



何か頼みたいことがあれば天啓を下すぞ!ガハハ!そう言い残してダラム様は帰っていった・・・。うん、中々気持ちのいい神様だったな。ぶっちゃけ信者になれたのかどうかは良く分からないが、俺としても好感の持てるタイプの神様だったと言える。



悪神様が言うにはそれで十分ということだったので・・・まあこの顔見せは成功だったと言えるのではないだろうか。



おっし!次の神様、出てこんかい!!





・・・





「ハートルプールよぉ。愛の神をしているわぁ」



バカエロい神様、来たでござる。

まさに天女のような、羽衣はごろもに身を包んだ乙女。キラキラと光沢のあるピンクの髪に、やべ~スタイル。これは・・・目のやり場に困るぜよ・・・



「しょうがない事だけど、あんまり神様をそんな目で見たらダメよぉ?」


「だはっ!も、申し訳ございません!!」



「いいのよぉ、本当~にしょうがない事なんだものぉ」


「みんなそうなっちゃうんだものぉ、気にしないでね」


バチン☆

エグいウインクが炸裂した。


オッホ・・・若干演技めいているが、ウインクってリアルにやられると結構ヤバいんだな。オイラ・・・女の人にウインクされたことなんてねえから・・・緊張するだよ・・・



「・・・ンフ、ダークプールと仲良くしてくれてるみたいねぇ」


「あの子、あたしの弟なのよぉ?似てないでしょ~?」



「うおっ、そうだったんですか。マジで似てないっすね!」


「そう、神はね・・・生まれた順番で姉弟が決まるものなのよぉ」


「だからあんまり気にしない神もいるのだけれど、あたしは別」


「あたしはね、あの子が可愛くてしょうがないの・・・」





「だからねぇ、あなたには頑張って欲しいのよぉ」


「絶対やり切りなさぁい。あの子に恥をかかせちゃダメ。わかったぁ?」


そう言うと愛の神は至近距離で俺の頬に手を触れた。

あれ、でもなんか・・・目が笑ってねえっすよ。アネさん・・・



意外。急激な圧。外見とは裏腹に、この激励には有無を言わせぬものがあった。

命令と言ってもいいレベルだ。顔は美しい、でもこれ・・・こえ~かも。うん。怖い。



「しゃす!!自分、全身全霊やり切りまっす!!ザス!!」



「素直で良い子ね~!上手くやったらあなたにも優しくしてあげるわぁ」


「ただ・・・募金はしてあげません!そんなことしたら、あの子のためにならないって思うのぉ。それに、慈悲はいらね~よ!って言うだろうからね、あの子は~」



「あ~、お姉さんにはそういうこと言いそうっすね。悪神様・・・」



「そ~~なのよお!・・・ンフフ、あなた結構あの子の事が好きみたいねえ」


「共通点が見つかったわねぇ、あたしたち!これで縁が結ばれた気がするわぁ」


「それじゃあ、何か思いついたら連絡するわねぇ。バイバ~イ!」


「・・・あ、あとね。あんまり失礼なこと考えてると神罰食らわせちゃうぞ☆」


「じゃあね~!」



怒涛の勢いで去ってしまった。

なんか、今まで出会った神様の中で一番怖かったかもしれん・・・神罰食らわせるって言われたしな・・・


なんだろう。なんか最も神様っぽかったと言うか。最も、俺に興味が無かったように感じた。俺との会話はあくまで悪神様のため。人間なんぞに関心は無く、やわらかく話はするものの立場の違いを感じさせるような振る舞い・・・


おっかねえお方だった・・・確かにダークプール様を好きなところは共通した部分だと思うけども・・・。まあ、ブラコンの愛の神様って考えれば可愛らしいか・・・?俺、ちゃんと好意を持てただろうか?


はあ、あまりに周りの神様がフランクに接してくれるものだから、忘れかけていたが・・・俺は上位の存在と会話をしているのだ。俺が着ているのは丸首のTシャツだが、えりを正す気持ちになった。


そうだよ。今のところ協力的な神様ばかりだが、めちゃくちゃイジワルな神様だってこれから登場するかもしれん。そんな神様と相対した時、俺は大丈夫か?失礼無く、そして好意を持ってして接することができるだろうか?


急に心配になってきたが・・・ああ。次の神様がまた、いらしたようだぜ・・・






























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