第28話 俺の目標


「クソバカが。お前今テキトーに答えたろ・・・笑」


「分かるっつってんだろ!!テメーの表層ひょうそう意識がよ」




「させん・・・あの、ノリで言っちゃいました・・・」




「だよなあ。失礼ポイント稼いじまったよなあ」


「まあいい。ぶっちゃけ俺も今は手駒てごまが少ねえ」




「まずは考えさせてやる。オメーを買ってやってるからだあ・・・大事に大事に、扱ってやんよお・・・」


「あっす。嬉しいっす」




「オウ。じゃあ次は褒美だな。プリマスのコトを教えてやんよ」




来た・・・!クエストのご褒美・・・!


何故プリマス様が幽閉されているのか。罰ゲームとは何なのか?これが知りたくて俺は悪神様のクエストを受けたのだ・・・途中からチクることに夢中になってた感は否めないが・・・本題はこっちなのだ。






「あいつは神のゲームに負けて、今はその罰として神界の独房に幽閉されてんだ」


「幽閉中は世界を見下ろして楽しむこともできねえし、いくら信心の強い信者に祈祷されても現界げんかいすることもできねえ」




現界する・・・?それはいわゆる、降臨こうりんする的なことか?そんなことが普通にまかり通っている世界なのかよ。後で詳しく聞きたいな・・・




「オウ、後にしろ。そんでまあ、オメーみてえなヤツは気になるだろう・・・神のゲームってなんなんだよ?って」




コクコク。高速でうなづく俺。




「こいつを喋るのはまあ違反なんだがよ、サーロックの馬鹿がやってることに比べりゃガキの悪戯よ」


「簡単に言やあ、このイグラシアの生物全部を対象にした賭けだあ・・・」



そこから悪神様は、その神のゲームの内容と歴史を語り始めた。








・・・神々は、暇だった。


昔は、戯れに地上に舞い降りて好き勝手やれたそうだ。しかしその「遊び」が世界にもたらす変化は毎回強烈なものだった。


地殻は変動し、気候は安定せず、生物も文化も育たない。

これでは「世界」が成長しない。そこで第一のルールが制定された。


その神の信者が一定数集まり、中でも信心の強い者からの祈祷が無い限りは地上に顕現けんげんすることは叶わず。これを「現界令げんかいれい」と呼んだ。



そこから神々はより多く自身の信者を増やすべく奔走ほんそうするようになった。


現界令に背かぬよう注意を配りながら、聖職者の夢に出てみたり・・・教会の聖堂内にある朝、急に銅像を増やしてみたり・・・。


その生活が楽しかったのも束の間で、神々はまた飽いてしまった。


そこで「賭け」を行うことになった。その内容と言うのは地上の「未来」を予想するというものだった。


例えば100年後、この国は現存しているか?だとか。悪の心と善の心、どちらが地上に多く溢れるか?だとか。


中でも神々を楽しませたのは「種族」の繁栄レースだった。


一定期間の後、最も個体数を伸ばしたのはどの種族か?最も武力を備えたのは?最も世界から愛されたのはどの種族だったか?


いくつかのジャンルでレースを行い、その結果を予想する。ベットするのはその神の「自由」だった。


賭けを行う自由、現界する自由、恩寵を与える自由、地上を眺める自由、地上に干渉する自由、神務しんむを行う自由・・・


(ちなみに神務しんむというのは神がする仕事、だそうだ)



これをコインに替えてベットし、負けた場合は一定期間その自由を奪われる。逆にこれに勝った場合、新しく「自由」をひとつ勝ち取ることができるのだと言う。


この賭けに纏わるルールはこうして決定し、「神界賭博令しんかいとばくれい」と名付けられた。



しかし、この賭けも長続きはしなかった。世界の均衡が安定してしまったせいである。賭けの結果が大して変わらぬようになってしまったのだ。



そこで一つの案が採用された。「転生者」を利用したテコ入れである。


世界に溢れる魂の量というのは、その世界によって許容量というか限界量があるらしく・・・俺たちの地球はギリギリのところまで来ているそうで。


なので地球の神から転生という形で魂を引っ越しさせて欲しいと頼まれていたのだとか。これを賭けに利用しようという事になったのだ。




これにより地上に新しい風が吹いた。送り込まれた転生者により今まで弱小だった種族が爆発的に成長したり、その逆が起こったりした。新たな争いや、同盟関係が生まれたのである。



賭けはまた白熱の展開を見せた。これに味を占めた神々は、賭けに勝利した褒美として「石板を改定する自由」を求め始めた。この賭けにおける、転生者の重要性に気付いたのである。



石板を初めに書いた担当者は人神プリマスだった。賭けに勝利した神は、こういったアピールポイントを書けだの・・・種族に新たな恩寵を与えたので追記しろだの・・・彼女に様々な要求をした。


こうして長い期間、皆がこの賭けを楽しんだそうなのだが・・・50年前に事件が起こった。プリマスが竜神サーロックとの無謀な賭けに負け、多くの自由を奪われた結果・・・幽閉されてしまったのである。


その賭けの内容と言うのが、「人は優れた生物か?」というなんともざっくりとした賭けだった。竜神は人神を大いに挑発したという。


人なんぞ弱く、卑怯で、文化的にも道徳的にも他種族に劣るゴミみたいな種族だと吐き捨てたそうな。これに対して人神は珍しく激高してしまった。


人は素晴らしい種族だと、自らの多くの自由をベットした人神。


しかし実際に人は単体では他種族より弱く、その弱さを補うために卑怯な罠も使い・・・文化的にもドワーフの意匠に劣り、マーフォークのように博愛的な種族でも無かったのである。



人間の弱い部分を上手く突かれてしまった人神は幽閉され、次の石板の担当者が決められた。


そこで勝者である竜神は配下の蛇神じゃしん、ミドルズブラにこれを任せるよう己の「勝ち分」を使ったのである。



そこからであった。また、賭けの結果が変わらず・・・世界が停滞するようになってしまったのは・・・。


悪神ダークプールはこの賭け事を楽しんでいただけに、この現状を憂いだ。とともに、憤りを感じていた・・・。


なにか「臭い」・・・蛇神が担当者になってからというものの・・・悪神様はやはり、石板に何かしらの変化が起こったのだと怪しんでいたのだと言う。







「・・・とまあ、以上だな」




「プリマス様・・・お人よしっすね・・・」


「だな。クソバカよお・・・」


「ただ、アイツが仕切ってる時の賭けが一番面白かったんだな、コレがよ」




懐かしがっているのか、悪神様は少しだけ憐れんでいるような素振りを見せた。



「憐れんでね~~~~よ、クソバカがあ!!!」



やっぱ心見透かされてるの、ウケる。



「てか、この賭け自体結構シュミ悪くねっすか?プリマス様とか優しそうだし、反対とかしなかったんです?」



「ハァ?あんなもんクソノリノリだったわ」


「次こそは人間が勝ちます~ぅ!とか言ってよお、アイツもニンゲンもバカよえ~のに・・・クホホ笑」



「そんでまあ、コレを踏まえた状態で何がルール違反かってことも教えといてやるよ」





「まず精神汚染だな。これは会議で(小)までと決まったんだが・・・(中)だの(極大)だのイカレ調整を勝手に入れやがったみたいだなあ、蛇神のカスがあ・・・」




「・・・ん?でもおかしいっすよ、悪神様。プリマス様は担当者を退任させられて・・・そこからドラゴンベインの精神汚染が強化されたってことですよね」


「それなのにプリマス様はドラゴンベインの2ページ目に(極大)についての注意喚起をしてるっす。時系列がおかしくないっすか?」





「あ~、そりゃ多分アレだ。引継ぎのタイミングでプリマスが気づいたんだろ。土壇場でオメーらニンゲンに残したんじゃねえのか、あいつなりの最後っ屁をよお・・・」






・・・ちょっとジ~ンときてしまった。プリマス様、自分が幽閉されるっていうのに最後まで俺たち人間のことを考えて・・・。


でもそのプリマス様の最後の抵抗も、2ページ目を隠すという小細工によって見えなくされてしまったのだ。俺は、多分俺だけはこれに気付けたのだが・・・







「そんで割引きな、これはまあセーフだ。他の神も賭けに勝った次の勝負でやったことがある。ただ、この露骨な商売文句は気持ち悪りいけどよ・・・」



「で、何よりヤツがやってんのは石板の改造だな」


「転生の拒否権の削除、操作方法の秘匿。アウトもアウトだ。多分オメーの言う仮決めって仕組みも本来なら説明書きがあったんじゃねえか?そこまでは知らねえけどよ」



「拒否権があれば転生者の母数が減る。操作が分かればそのぶん転生者が他のスキルだの種族だのに目移りするようになる」


「できるだけ自分の眷属が増えるように、目立つように仕組みやがったってことだ」





・・・なるほどな。概ね俺の思った通りではある。


は~~~~~許せん。せっかくプリマス様が管理してたナイスなサービスを改悪してくれやがって。こんな罠だらけの粗悪品にしてくれやがって。



何より許せねえのが、これを全部「賭け」のためにやったってことだ。


くだらねえ、暇つぶしのために。人の精神を破壊して・・・


俺、やっぱり・・・許せねえ。こんなのって、非道すぎるだろ・・・





「クホホ・・・怒ってるなあ。ニンゲン・・・」





「伝わってくるぜえ。同じホシの同胞の心がブッ壊されて、キレてんだろ・・・?」




「もう、心を決めちまえよお・・・」












「仲間になれ・・・!」




「一緒にツブそうぜえ・・・!竜も、蛇も・・・!」




目をニンマリと歪曲させながら、悪神様は俺に囁く。

その見た目は邪悪そのものにも、何故か頼もしくも見えた。








「悪神様・・・、俺」





「俺は・・・」










「俺は、何をすれば・・・いいですか?」







俺の、転生後の目標が決まってしまった。

クソな神を潰して、できればプリマス様を解放したい。


そしてもう、同胞の心が殺されないような。そんなキャラクリに戻したい・・・





そのために俺は、何ができる・・・?




















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