第31話 記憶

***フェリア視点


「ギルドの女神さま?何それ」


わたくしはロイドに訊ねる。

夜の冒険者ギルドで、お酒を飲みながら話をしていた。


「最近、入ったギルドの新人みてえで、すっげえ美人なんだとか。ほら回復魔法の職員が入ったっていう…」


「あー。そんな事あったわね」


最近回復魔法を使える人を雇ったとかで、怪我してもギルドで治してもらえる事になったらしい。

毒や状態異常も対応可能だとか。

随分優秀な人が入ったものね。


それで最近、男たちが騒いでいるみたい。

全く大げさなんだから。

キレイな女性に怪我を治してもらって、ニッコリ微笑みかけられたらコロッといっちゃうのね。

男の人ってチョロくない?


「オレも一度見てみてえもんだ。何でもお姫様のようだって言っている奴もいてさ」

「ふうん?そんなに美人なのかしら。よく荒くれ者が手を出さないわね」

「ベテランのセシアがいつも一緒に居るらしい。手が出せねえって」


なるほど。

セシアは、冒険者ギルドの職員の中で一目置かれているベテランで恐れられているからね。

睨まれただけで男どもは恐がるし。

彼女に目をつけられたら、仕事にも影響が出かねないものね。


「まぁ、でも怪我しなければ関わり合いになれないでしょ」

「オレも怪我して相手してもらいてえ」

「何バカ言ってんの」


周りの男達が、何か妙にソワソワしているのはそのせいね。

男って意外と単純なのかも。

わたくしには関係ないけどね。




***




「着ていく服がないわね」


私は屋敷の自室で、クローゼットの服を見渡していた。

もっとラフな感じの服ないかしら。

ドレスとか、ワンピースとかはあるんだけどズボンとかは持っていないみたい。

ギルドへ行くまでの間だから楽な服がいいんだけどな。

ハンガーを移動させると、ひらりと紙が床に落ちた。


「何かしら?」


拾って広げて見る。

憶えのない便箋。


「えーと…」



--------------------------------------------------------------------


拝啓レイン様


今更、何を言ってると貴方は呆れてしまうでしょうね。

私は貴方に冷たくしていたけどそれは私が姉だからなのです。

こんな感情はあってはならないと思うけど、私は貴方か好き…


----------------------------------------------------------------------



文章は途中までで、終わっていた。

どうやら私からレインに宛てた手紙みたい。

気持ちを伝えたかったけど止めようとしたのかしら。

これは以前の私(転生の記憶が戻る前)が書いた手紙なのかもしれない。


前の私かぁ。

どんな子だったんだろう。

転生した日本人のよりもちゃんと貴族令嬢っぽかったんだろうな。

レインは元々そっちの私が好きみたいだったし。


私はその便箋を机に置いた。




   *




「ローレライ、朝だよ。起きて」


弟のレインが起こしに来た。

いつもの日常。

でも…何か違うような?


私は目を覚ます。

目を開けると、金髪で灰色の瞳の美青年が微笑みかけていた。

お父さんに似ているわ。

ぼーっとしながら思う。


あれ?お父さんって…。

ようやくここにきて違和感を感じる。

お父さんは亡くなっていてこの世から居ない。

お母さんも。

急に悲しくなってきた。

私が泣きそうな顔をしていると。


「ローレライ?」


美青年が心配そうな顔を私に向けている。


「貴方はだあれ?」


私は彼に話しかけた。




「記憶喪失ですかな」


そう言ったのはこの屋敷の執事ラルス。

彼は知っている。

私がこの屋敷に来たときからいたベテランの執事だ。


「ラルス、この青年は一体誰なの?」


ラルスは困惑している様子だ。


「僕は、レインだよ。君の弟の…」

「えっ?」


記憶にある弟とは違う。

まさか…。

私はベッドから降りて、慌てて鏡台へ向かった。

鑑を覗き込むと、そこに映ったのは美しい大人の女性だった。

髪は見慣れた、プラチナブロンド、瞳は水色だ。


「これが私なの?」


手で顔を触る。

どうやら本当らしい。


「困ったな…ローレライは冒険者ギルドで働き始めたばかりで、今日も出勤の予定だと思うのだけど」

「私、働いているの?」

「こんな状態じゃ、行けないよね。どうしたら…」

「今日は急病という事にして休んだらいかがでしょう」

「そうだね。じゃあ、僕がギルドへ行ってくるよ」


レインと名乗る青年は、多分レインなのだろうけど…冒険者ギルドへ行ってから屋敷へ戻ってきた。

彼も働いているらしく今日は休むらしい。


「以前もね、あったんだよ。そういう事が…でも今回は…」


眉間にしわを寄せて俯くレイン。

何やら深刻な感じだわ。


「君はどっちの姉さんかな」

「私は16歳のローレライよ。レインはお父様に似ているわね」


「そっか。父さんを憶えているという事は、元々の姉さんのほうか…城での事は憶えている?」

「お城?そういえばうっすらと憶えているような。魔法を練習したりとか」


「学校の事は?」

「お友達が居たような気がするわ。女の子のえーとお名前は…」


「ジョディー」

「そう、ジョディー。いつも教室でお話をしていた」


「僕たちの関係の事とかは憶えている?」

「関係?えっと…」


脳裏に浮かぶ記憶は…。

えっ?私、レインと抱き合ったりキスしたりしているの?

恥ずかしすぎるんだけど。

私は顔を真っ赤にしていた。


「憶えてるみたいだね。僕たちは恋人同士だったんだ。こんな事なら早く結婚しておけば良かったよ」


「「け、結婚??」」


私はのぼせて、その場に倒れてしまった。



   *



目が覚めると、私はベッドに横たわっておりレインは私の隣で椅子に腰掛けていた。


「ああ、起きたね。驚いたでしょ。色々言って、びっくりさせちゃったかな」


16歳から突然?年後にタイムスリップしてしまったよう。

タイムスリップって?

この世界には無い知識が、どうやら私の中にあるみたい。

私は異世界から転生してきた日本人らしい。


「私、忘れていないわ。ちゃんと憶えている。私は王女様で、王子に会ったり色々あったのよね。記憶が無くなったんじゃなくてみたいだわ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る