第27話 護衛
「おはようジョディー」
「おはようローレライ。一緒に来た、後ろの方はどなたですの?」
私は学校へ登校した。
ジョディーが言ったのは今日から護衛に付いたエルトン。
彼は長い銀髪を後ろで縛っていて、瞳は深い青、細目の中年の男性。
「私の護衛のエルトン。学校にいる間一緒みたいよ」
「そうなんですの」
授業中は一番後ろに居て椅子に座っている。
後ろで立たれると、先生が威圧感を感じるらしく特別に椅子を用意してもらっていた。
「年上ですけど、イケメンですわね」
「でしょー」
他の女子たちも、エルトンを気にかけているみたいだ。
まあ眺めるだけなんだろうけど。
***レイン視点
何だかアイツ、嫌な感じなんだよな。
ローレライを護衛するというのはまあ分かるんだけど。
街で襲われたとき僕が飛び出していかなかったら――と想像すると、今でも心臓が凍ってしまいそうな恐怖に襲われる。
あの時の暴漢は捕まったらしいから、もうあんなことは無いとは思うんだけど。
僕にはまだ守ってあげるだけの力が無い。
エルトンって人はベテランの騎士らしく信頼されているらしい。
まだ、同年代じゃなかっただけでも良かったのか?
男の僕から見てもキレイな顔立ちをしているし。
「はぁ~」
彼はクラスの女子たちの視線を集めていた。
ローレライの事を、特別に気にかけている気がしてならないのだ。
「レイン、何ため息ついてんの」
最近よく絡むようになった、友達のアレクに声をかけられた。
学校内だけの付き合いだけど。
「女子たちも好きだなって思ってさ」
「何?実は他の女子たちとも仲良くなりたいのか?あれだけお姉さんの事、好き好き言っていて」
「違うよ、ほら後ろの美形青年。女子がキャーキャー言ってるだろ」
「あーそういうの好きだもんな。女子って。クラスの男子に目がいかないのかね……お前にしろ、その奴にしろ世の中不公平だよな。いまだにレインの事紹介してほしいって女子がおれの所へ来るしさ」
「え?なにそれ、初めて聞いた」
「おれもモテたい…」
アレクの最後の言葉は独り言のようだった。
知らないけど、気苦労をかけさせているみたいだな。
*
「レイン機嫌悪くない?何か嫌な事でもあった?」
「え?」
知らないうちに顔に出てしまっていたのか。
護衛のエルトンの事が、気になってイライラしていた。
「そんな事ないよ~」
今でも僕たちの傍にいる彼。
あくまでも仕事として護衛をしているんだからと、心の中で自分に言い聞かせていた。
***
私とレインは、お昼休みに学校の食堂で昼食を食べていた。
「お二人は恋人同士らしいですね。水を差すようで申し訳ございません。わたしの事は置物とでも思っていただいていいので」
エルトンが急にそんなことを言いだす。
「今日はジョディーがいないんだね」
「用があるとか言ってたわ」
いつも私とレイン、ジョディーの三人で食事をしている。
二人きりは久しぶりだ。
後ろに護衛の人がいるけど…。
彼は仕事中と言って食べない。
別に一緒に食べても構わないと思うのだけど。
仕事熱心なんだなと…何の気なしにエルトンを見ていたら。
「ローレライ」
レインに声をかけられた。
低い声で怒っているみたい。
「私、レインに何かした?」
「「もう我慢できない!王様に言って、護衛の人を変えてもらう!」」
「レイン?急にどうしたの?」
「……」
「わたしが何かしてしまったようですね。申し訳ありません。しばらく離れておりますので」
そう言うと、エルトンは本当に距離を置いた。
私たちが遠くから見れる場所に移動したらしい。
「はぁ。僕って思っていたより我慢できないタイプみたい。護衛が女性だったら良かったのに」
「それってどういう意味…」
レインは私を抱きしめてきた。
「嫉妬しちゃうんだよ。お仕事だって解っているんだけどさ。ローレライを僕の力で守ってあげられれば良かったのに」
「そっか。分かったわ。私からも王様にお願いしてみるわね」
*
「もう、いっその事「婚約」しちゃえば?」
教室に戻り、食堂での事をジョディーに話すと言われた。
「え?婚約って…」
早くない?
「べつに婚約なんて珍しくないわよ、特に貴族同士ならね。そうすれば少しはレイン君も安心するんじゃないの?結婚はまだ早いけど、婚約なら出来るでしょ」
親が決めた相手と、婚約をしている人は学校内でも結構多いらしい。
貴族が多いからね。
「婚約って…どちらかが言うものなのよね。それって男性から?」
「一般的にはそうなのでしょうけど、別にどちらでもいいんじゃありませんの?」
「婚約ねえ…」
***エルトン視点
「まさか一日で解任とは…」
特にわたしの方から、ローレライ様へ話しかけたわけでも無い。
思い当たる節が一切なかった。
城に戻ってしばらくすると、王に呼び出されて護衛の任を解かれてしまった。
ローレライ様の弟はかなりのやきもち焼きらしい。
食堂で言われた時はかなり驚いた。
「ごめんなさい」
と後からローレライ様に謝られてしまった。
彼女は何も悪くないのだが。
「でも、一日だけとはいえ、悪くなかったな」
後ろから眺めているだけでも幸せだった。
一生手の届かない人なのは、今も前も一緒だ。
では誰が護衛をする事になるんだろう?
「ま、いいか。もう関係のない事だし」
誰かがする事になるのだろう。
早いうちに離れて良かったのかもしれない。
*
「エルトン、護衛一日で解任されたんだって?」
城の廊下で、クスクスと笑いながら友人が話しかけてきた。
「ラン、笑うなよ…これでも傷ついているんだから…」
彼女は珍しい黒髪の女性。
わたしは他に黒髪の人に会ったことはない。
白衣を見に纏った魔法研究者。
以前は違う世界に居たとか言っていた。
わたしには意味がよく分からなかったが。
その世界は魔法が存在しない世界らしい。
科学というものが進んでいて、鉄の塊が空を飛んだりするのだそうだ。
嘘を言っているようには到底思えなかった。
奇人扱いされる為、この事は滅多に
「エルトンが傷つくって、どんな相手だよ」
友人は怒りの目を向けた。
「こらこら、今日はその話をしに来たんじゃなくて。その彼女に魔法を教えてやって欲しいんだ」
「解任されたのに?」
「それとこれとは話が別だ。そもそも彼女じゃなくて彼氏に言われたのだから…」
「なんでそこに彼氏?が出てくるの」
「あ……」
わたしは仕方なく、ローレライにご執心のレインという少年の話をした。
ローレライとレインは、義理の姉弟で今は恋人同士なのだと。
レインの嫉妬心で、男のわたしが解任されたことを話した。
「ふうん~そうなんだ。よっぽど王女様が魅力的なんだね」
「見て驚くなよ?前の王女にそっくりなんだ」
「キアラ様に?」
「うん…」
「そうか。だったら早く辞めて正解だったかもしれないね。エルトンが居たらもっと傷つくだろうから」
「流石にもう想っていないよ」
「そう?」
彼女は、眼鏡の奥から俺の瞳をじっと見つめた。
わたしの心を覗き込むように。
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