第26話 想い出の人

わたしはエルトン。

アルティナ城の騎士だ。

今日は突然、王に執務室に呼び出されていた。


「王女の護衛ですか?」


わたしは驚いていた。

最近まで王女がいたなんて知らなかったのだから。

どうやらキアラ王女が残したご息女だと言う。


「ケリー王子と同じ魔法学院に通っている。学校内のみの護衛なのだが」


「承知いたしました」


わたしは王に頭を下げる。

王女の事は公にはしないのだろう。

わたしは少し複雑な思いを抱いていた。


「エルトン、学校内で何かあったら俺に言ってくれ」


ケリー王子に声をかけられる。


は他の人に交代させるから」


無理?

王子は何を言っているのだろう。

その言葉の意味を、その後思い知ることになる。



   *



「キアラ王女?」


城の廊下で出会った少女に思わず声をかけていた。

そんなはずはない。

彼女を最後に見たのは城のベッドの上だった。

わたしは衰弱していく彼女を見守るしかなかったのだ。


目の前の少女は、キアラ王女と同じプラチナブロンドの髪で青い瞳、顔立ちが幼いがよく似ていた。




***




「キアラ王女?」


私はレインと城の廊下を歩いていた。

突然、男性に声をかけられ振り向く。

私のことを言っているわけではないのだけど、呼ばれた気がしたのだ。


王宮の騎士の制服。

腰に剣を携帯している。

最近幾度となく見ている服装だ。

私は慣れない青いドレスを見に纏っていた。


「王様も仰ってましたが、私ローレライと言います。キアラさんではありませんよ」


「し、失礼いたしました!わたし貴方様の護衛を務めさせていただきます。エルトンとお申します」


騎士は私の護衛の人だったらしい。

私は生んだお母さんによく似ているらしいとは言われたけど。

間違えられたのだろうか?


「あの、そんなにキアラさんに似てますか?」


私はエルトンに問いかけていた。


「え?ああ、申し訳ありませんでした。以後気を付けますので」


エルトンは私の問いには答えずに押し黙る。



バタバタ…。

廊下をケリー王子が走ってきた。


「レイン、いたいた。これから合同訓練だそうだ。城の中庭なんだけど場所わかるか?」


合同訓練?


「ローレライ様さえよければ、一緒に向かいますか?わたしが案内致しますので」


エルトンが中庭まで案内すると申し出た。


「ええ、お願いできますか?」


「エルトン助かった。じゃよろしくな」


ケリーは元の道を引き返す。

私たちは、エルトンに案内され城の中庭へ向かう事になった。




   *




ガキン!ガキン!

城の中庭に、金属音がぶつかる音が響く。

大勢の男性がたむろしていた。

男性二人でペアになり、お互いに剣を合わせている。


「「もっと腰を落として!」」

「「本気でやれ!」」


時々、腕を組んだ、白髪で口髭の中年男性の声が上がっていた。

少し離れた場所では、魔法の訓練もしているようだ。


「当たり前だけど、大人ばかりだね」


「城に雇われている兵士たちです。少ないですが若者もいますよ」


「えっと、何でレインはここに来たのかな?」

「王子に見学させてもらえるようにお願いしていたんだ」


私は首を傾げた。

えっと、何で?


「つまり、訓練を受けてみたいのですね?」


「うん。少しでも強くなりたくて力を付けたいんだ」


「君か、見学したい少年というのは。オレはログ・ファーレン、ここの責任者だ」


訓練の様子を見ながら、声を上げていたログが声をかけた。

レインはログに連れられて向こうの方へ行ってしまった。


「私も魔法の特訓しようかしら」


「ローレライ様は魔法を使われるのですか?学校へ通われていますものね」


「少し回復魔法をね…この間は倒れちゃったみたいだし」


「でしたら、いい先生が居ますよ。良かったら紹介しますが」




***




「ボクに王女の魔法の練習に付き合えと?」


ボクはラン・ラベット魔法の研究をしている。

城の研究室にこもっていると。

エルトンが厄介ごとを持ち込んできた。


「エルトン見ての通り、ボクは暇じゃないんだ。相手ならどこかから探して来ればいいだろう?」


「最近襲われたらしくて、同じ女性同士の方が良いと思うのだが…」


眼鏡のふちを持ち上げて、ズレを直した。

最近よくズレるんだよな。

めんどくさいったらありゃしない。


「っていうか、王女って居たっけ?初耳なのだけど」

「ああ、わたしも最近聞いたばかりだよ。何でもキアラ様の息女らしいのだが」


「なるほど?話くらいは聞いてやってもいいかな?」

「たまには普通の女性と会話したほうが良いぞ」


「普通?」


何処を見て普通と言っているのだろうか?

確かに一人称がボクっていうのは珍しいとは思うけど。


「失礼な奴だな、エルトンは」


彼は勤続20年のベテラン騎士だ。

ボクとも付き合いは長いのだけど。

他人の事ばかり構ってないで、自分の事を何とかしたほうが良いと思うのだよ。

40代なのに独身だし。


「今、わたしに失礼な事考えただろう」

「気のせいだ」


「会ったら驚くぞ。前王女にそっくりなのだからな」


キアラ様に似ている?

っていうか、エルトンはそんな人の護衛なんて大丈夫なのか?

彼が慕っていたという彼女にそっくりだなんて。

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