第28話 将来の事

コンコンコン。


私が城の自室で寛いでいると、突然人が訪ねてきた。

制服からまだ着替えていなくて、ベッドに寝転んでいて。

部屋には私一人。

レインは何処かへ行ってしまっていた。

最近すぐ居なくなるのよね。


「初めまして、王女様。ボクはラン・ラベット魔法の研究をしているんだ」


白衣に身を包んだ長い黒髪の30代くらいの女性で、銀縁の眼鏡をかけている。


「黒髪…」


「ああ、これ?珍しいかい?ボクは異世界転移者でね。意味が解らないと思うけど」


「転移者?日本人なんですか?でもお名前が」


「こりゃ驚いた。日本人を知っているんだね。王女様はこの国の生まれだろう?」


私は彼女に転生者だと打ち明けた。

転生前は日本人だったことも。

お陰ですっかり打ち解けて、ランの表情が少し明るくなった。


「ラベットは拾われた家の家名だよ。ランは元々の名前。一応貴族だからね」


笑顔で彼女は続けて話す。


「実は、王女様っていうからどんな人なのかって緊張していたよ。「森下さくら」さんか、同郷の人で良かった。ホッとしたよ」


「私の場合、生まれも複雑なんですけどね」


「王女様がそんな暗い顔してどうするんだい?彼氏さんが心配するだろうに。今日は顔合わせだけの予定だったけど、もう少し話がしたいな」


ランさんは魔法の研究にはまり、色々と実験をしているらしい。

魔法も扱えるが、魔法を新しく開発するのが好きなのだとか。

事故で転移しちゃったらしいけど、楽しそうだから良かったわ。


「冒険者してたんだって?最初から城に住めば楽だったのに。回復魔法を習得したいんだっけね。次から練習に付き合ってあげるよ」



コンコンコン。

再びドアがノックされて、今度はエルトンさんが訪ねてきた。


「おい、王女様に変な事してないだろうな?」


「いやー気が合っちゃって。ボクが護衛だったら良かったなあっと」

「お前、わたしのことバカにしてないか?」

「お二人とも仲が良いんですね」


「「良くない!!」」


二人の声がハモった。

どうやら、ランさんとエルトンさんは友達の関係らしい。


「あ、ボクが転移者ということは内緒でお願いするね」

「何か企んでいるんじゃないだろうな?」

「ないない」


二人の会話を見ていると漫才みたいで面白いわ。




   *




部屋にレインが来た。

私とレインはベッドに座って話をしている。


「へえ~魔法の研究者ね。そんな人がいるんだ。ローレライが魔法頑張るんだったら、僕も訓練もっと頑張らないとね」

「無理しなくていいのよ?」


「僕がしたくてしてるから大丈夫」


レインは私としばらく一緒の部屋だったけど、レインは隣の部屋に移った。

流石に仲が良くてもずっと一緒は疲れるわよね。

最近黙って出かけることが多くなったので、一人で居たい事もあるのだろうし。


「そういえば…婚約ってどうすればいいのかしらね?」


ジョディーに言われたことを思い出していた。


「こ、婚約??いきなりどうしたの?」

「ジョディーが私とレインと婚約したら、レインが安心するんじゃないかって言ってたから」


「あはは、何それ。婚約しなくても、僕は大丈夫だよ」


本当かなぁ?

レインは結構やきもち焼きだと思うんだけど。


「ああ、そういえば…」

私は大事な事を思い出していた。


チュッ。

私はレインにそっと近づいて頬にキスをした。


「え?」

「お誕生日おめでとう。すっかり忘れてたでしょ」

「そうだっけ。すっかり忘れてたよ。嬉しいけど心臓に悪いな…」


レインの頬が赤くなってる。

可愛い。


「レインも16歳になったのね。もう結婚が出来る年齢よね」

「結婚か~そっか…」


物思いにふけっているレイン。


「もう、キスしてもいいわよ」

「え?」


以前、森に一緒に行った時レインの様子が変だったので「キスを禁止」していたのよね。


「あの時は浮かれすぎていたし…もう大丈夫でしょ」

「や、やった!凄い誕生日プレゼントだよ。ありがとうローレライ」


チュッ。


レインの口が私の唇に触れた瞬間、ビリビリと電流が走った感じがした。

ドキドキしてきちゃったわ。


「ねえ、エッチしていい?」


可愛い顔して、レインが訊いてきた。

まあ、そうきたわね。

実は、私もしてみたいけれど…。


「ん〜と、結婚したらね」

「じゃあ、今すぐ結婚する!」


「そんな無茶な…まだ早いと思うし、大人になってからする事だと思うの」  


 私って考え方が古いだろうか?


「16歳になったから、良いとおもったんだけどな。そっか…分かった」




   *




レインは自分の部屋に戻った。

私は王女でこの城に居られるけど、レインはそうはいかないかもしれない。

彼はこの後どうなるんだろう。


「考えていても仕方ないかもね」


私は回復魔法を習得したい。

ヒールよりももっと強力な。

最初はレインの助けになればと思っていたけれど、純粋に魔法を極めてみたくなっていた。


「ランさんに色々教えてもらおう」


魔法を研究しているって言っていたし、色々知っているに違いない。

それで、力を付けて城を出よう。

またあの屋敷に戻って、二人で暮らせるようになるといいわ。

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