第23話 回復魔法

冒険者ギルドから家に帰る。

今日は歩いて帰る元気が残っていて。

まだ、外は明るくて穏やかだった。

人々も街中を歩いている。


「レイン、どこかで食事でもしない?」

「えっ、うん。そうだね。でも荷物多いし…」


彼は鎧を背中に背負って歩いていた。

私は鎧があるのをすっかり忘れていたのだ。


「あっ、そっか。屋敷に帰った方が良いわよね」


私は慌てて否定する。


「で、でもたまには外でもいいかも」


「疲れたのなら無理しないほうが良いわ」


なにも無理に外食する必要は無い。

疲れたなら、家で早く休んだ方が良いだろう。


「じゃあ屋敷に…」



「「あの娘見つけた!」」


レインに話しかけようとして、目の前の壮年男性と視線が合う。

ゾクッと寒気がした。


男の手には何か光るものが握られていた。

無意識に視線を向けると――――。


「「ローレライ!!」」


レインが叫んで、私に覆いかぶさる。

鈍い嫌な音がした。


「「キャアアアア――――」」


甲高い女性の悲鳴が響き渡る。


今、何が起こったの??

レインが倒れて動かないでいる。

目の前の男にナイフで刺されたようだった。


「「レイン、レインしっかりして!!」」


「ローレ…よかった…無事で…」


腹にナイフが刺さっていて、見てる間に血が流れだしてくる。

早く血を止めないと。


「ナイフ…抜かないと…死んじゃう…」


どうしよう、どうしよう…手が震えて触れない。

何とかしないと。

そうだ回復魔法で…。


回復魔法ヒール


「だめだお嬢ちゃん、先ずはナイフ抜かないと!傷が塞がってしまってナイフが抜けなくなる」


近くの人が私を止める。


「ローレライ、わたくしがナイフ抜くから。直ぐ魔法かけて!」


フィリアさんが駆けつけていた。

悲鳴を聞いて戻ってきたのだろうか。


「いくわよ」

「はい」


フィリアさんがナイフを抜いた。

直ぐに私は回復魔法をかける。


回復魔法ヒール

回復魔法ヒール

回復魔法ヒール


思っていたよりも傷が深くて塞がらない。

私は何回もヒールをかける。

魔法が弱すぎるのだ。


初級じゃなくて、中級以上の回復魔法でなければ。

私の魔法では治せない。

もっと勉強をしておけば良かった。

今頃後悔しても遅いけど。


私は両手でペンダントを掴んだ。

そして祈った。

どうか彼を助けて下さい。

神様でも…何でも…私はどうなっても良いから――――。




    *




「ローレライ、ローレライ」


レインの声がする。


「ああ、良かった。目が覚めたんだね。死んじゃったかと思った」


これは夢?

レインは生きているの?

私はぼーっとしていた。


「魔力枯渇かしら。恐らく、使った事のない魔法を一気に使ったから無くなってしまったのかも」


フィリアさんの声がする。

魔力枯渇?

そういえば気を付けなさいって言ってたっけ。

でも私ヒールしか使っていないよ?

意識はあるのに、体が動かない。

声も出せない。


「僕が連れて帰ります。魔力枯渇って休んでいれば回復するんですよね?」

「出来れば、マジックポーションを飲ませたほうが良いかも」

「わかりました。買って帰ります」


私はゆらゆらと揺られている。

どうやら、レインに運んでもらっているみたいだった。

途中、何処かへ立ち寄っていたようだ。

私たちは馬車で屋敷まで乗って行く。

私は横になったままだけど。


「ローレライ、凄いよ。僕死ぬかと思ったんだよ?傷は無くなっちゃったし血の跡は残ってるけどさ」


レインは独り言のように語り掛ける。

私が聞こえていると解っているのだろうか?


「今日は何だか散々だったけど、やっぱり凄いや。流石…」


レインの言葉が途切れた。

肩が震えて、嗚咽おえつが聞こえてきた。

私に気づかれないように泣いているようだった。




   *




「あ、あれ?」


私は気が付くと自室のベッドの上にいた。

あの後眠ってしまったらしい。

体が重い…。

ふと、横を見るとレインが椅子に座って眠っていた。

もしかしてずっと隣に居てくれたのかしら?


「ローレライ、起きたんだね。あの後3日も寝てたんだよ。このままずっと起きないかと心配しちゃったよ」


レインは苦笑いをしていた。


「心配かけちゃったわね。ごめんね」

「ううん。だって僕を魔法で助けてくれたんだもの。ローレライは命の恩人だよ」


「えっ?」


私が助けた??

全く身に覚えが無いので、私は首を傾げた。


「多分、無意識だってフィリアさんは言っていたけど…ハイヒールなんじゃないかって言ってた」


私は胸に付けていたペンダントを見た。

真っ白い真珠しんじゅの様に輝いていたそれは、くすんでみえる。


「このペンダントのお陰かな?」


以前、道具屋で店の店主に譲り受けたものだった。

キレイだから付けていたのだけど、本来の力を全く忘れていた。


「そっか。じゃあ道具屋の店主にもお礼を言わないとね」


あの時、襲い掛かった男は直ぐに衛兵に捕まったらしい。

どうしてあんな事をしたのだろう。

疑問に思ったが、考えても仕方ないと思い忘れる事にした。


「あ、そういえばピクニック…」

「そんな事もあったね。流石にそれは出来ないって言って、二人ともローレライの様子を見に来ていたよ。眠っていたから分からなかっただろうけどね」


二人には悪い事をしたわ。

きっと楽しみにしていただろうに。

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