第19話 武器と防具

息子のアレックスは、俺の自慢の息子だった。

アルティナ城に、兵士として勤めるようになってからは周りに自慢していた。

16年前、あの事が無ければ…。


「モリス、ツケがたまってるよ。そろそろ払ってもらいたいね」


酒屋の店主に言われる。

俺はいつもの酒場で酒を飲んでいた。


「すまない、もう少ししたら金が手に入るからさ…」


「お前は…いつもそんな事言って、っておい!」


俺は酒場を逃げ出していた。

アレックスが死んでから酒ばかり飲むようになってしまった。

酒を飲めば嫌なことを忘れられる気がしたからだ。


「酒を飲むには…どこかで金を手に入れないとな」


あの女がいなければ、アレックスは死ぬことは無かった。

息子は何も悪い事をしていないのだ。

何故、殺されなければならなかった?




   *




酒場を出ると若者の声が聞こえてきた。

うっとおしい声だ。


「レイン、あのお店行ってみようよ」

「ええ?まだ行くの?」


他愛もない若いカップルの会話。

最初はそう思っていたのだが。

あの女にそっくりな少女が目の前に歩いている。


特徴的なプラチナブロンドの髪。

見間違いではない。

他人の空似か?




***




「あっ!すみません」


私は壮年の男性にぶつかってしまった。

白髪の男性は服もよれよれで、だいぶくたびれて見えた。

お酒臭くて、顔が赤らんでいる。

私を見て、何故か凄く驚かれていたけど。


「ローレライ、気を付けなきゃだめだよ」


レインが、私が落とした買い物袋を拾った。


「ごめんなさい。お怪我ないですか?」


私は壮年に声をかけた。


「お前さん、名前は?」


「えっ?私はローレライ・アルフレッドですが」


「ローレライ…」


壮年は腕を組み、考え込んでいた。

私は会釈をして、その場を立ち去った。




   *




「私ってお祖父ちゃんって居るのかな」

「どうしたの急に」


「居たらあのくらいの歳なのかなって思って。実のお父さんは亡くなっているでしょ?お父さんの親なら生きているかなって」

「もし、見つかったらどうするの?会いに行きたい?」


「うーん。わかんない」

「そっかー」


突然そう思ったのよね。

何でか分からないけど。


まだ冒険者になる前、数日前の出来事だった。




   *




フェリアさんに連れられて、私とレインは街に出かけていた。

冒険者になったので、色々揃えるらしい。


「今日は、武器と防具を買いに行くわよ」


フィリアさんが、防具屋に入り後を付いていく。

彼女は、並べてあったよろいを手に持った。


「これ、軽くて良いわね。動きやすそう」


「お客さん。そりゃ、軽いが薄くて防御力が低いぜ。止めといた方が良いな。割高になるがもう少し高い物をお勧めするぜ」


髭の店主がフィリアさんに声をかける。

親切な店主のようだ。


「ああ、いいんですよ。まだ初心者ですし。強いモンスターと戦う予定も無いので。ローレライさんは魔法使いのローブでいいかしら。確か奥の方にあったわよね。魔法がかかっているから防御力も少しあるのよね」


「魔法のローブかい。持ってくるから待っててな」


店主が幾つか色違いのローブを持ってきた。

羽織ってみると意外と重みがあった。

素材は麻かな?


「あと、レイン君の剣かな。武器屋へ行きましょう」


「あれ?僕、魔法使いじゃ…」


そういえば、剣って戦士とか剣士が扱うイメージがあるけど。


「剣に魔法をまとわせて使うの。炎とか氷とか」


「えっ?」


「急に使えるようにはならないけどね。練習するのよ」


「そうなんだ。カッコいい…」


レインはその姿を想像しているみたいだった。

確かに、魔法を纏わせれば強力な武器になるだろう。

レインは剣を、私は魔法使い用の杖を購入した。





「何だか強くなった気がする!」


「気のせいよ」


レインは早速鎧を着て、剣を腰に付けてみた。

恰好だけなら強そうに見えるけど。

フィリアさんに即否定されていた。


「杖って思っていたより重いんですね」


杖は特別な木で作られているらしい。

幾つかの石が埋め込まれていた。


「魔石が付いてるからね。魔力を増幅させる働きがあるの」


値段も結構高かった。

銀貨20枚。

二万円くらいかな。


「あ、あと大事な物買い忘れてたわ。道具屋へ行くわよ」


フィリアさんは道具屋でいくつか小瓶を購入していた。


「回復魔法だけだと心もとないからね。ポーションよ」


肩掛けのバックに収納していく。

バックは小さいのだが、それ以上に物が収まっているみたいだった。


「これはマジックバックなの。沢山、物が入るのよ」


「そこの金髪のお嬢さん、良ければこれを身に着けてくれないか?」


ダンディな店主が突然私に声をかけてきた。

店主の手には、ネックレスが握られていた。

白い石のネックレスのようだけど。


「娘の形見なんだけどね」


私は訊ねた。


「娘さんの形見なのによろしいのですか?」


「いつまでもわたしが持っていても仕方がないからね。君を見ていたら是非身に付けてもらいたくなった。出来れば役に立ってもらった方がいいから」


石は白い真珠しんじゅのように輝いて見える。


「これは回復石といって、魔物から取れたレアアイテムよ」


フィリアさんはごくりとつばを飲み込む。


「ローレライさんにはぴったりのアイテムかも。回復魔法を増幅ぞうふくさせる効果があるわ」

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