第18話 冒険者の初仕事

今日は、初めての冒険者としての仕事。

少し楽しみにしていたのだけど。

私とレインは街の側溝の掃除をしていた。

何で掃除をしているかって?


私たちが受けられる依頼だったからよ。

ランクが低いと雑用仕事が多いらしい。

危険度も低いからね。


「臭い…服も泥だらけよ」

「もう少しだよ、頑張ろう」


私たちはEランク。

一番下だ。

急にモンスターと戦うとは思って無かったけど。

まさか二人で側溝の掃除をする事になるなんて。


「体力仕事なんてしたことないでしょ?貴族だからね。体力付けるのも冒険者として大事なのよ?お金も貰えるし一石二鳥じゃないの」


フェリアさんは椅子に腰かけて、私たちの仕事ぶりを見ている。

腕は痛いし、腰も痛くなってきた。

明日筋肉痛かも。


「ローレライ、回復魔法使っちゃ駄目よ。筋肉付かなくなるから。筋肉痛も慣れれば痛くなくなるからね」


今の仕事終わったら、速攻で回復魔法かけようって思っていたのに。

考えがバレてしまっているようだった。


「あの、ローレライは何もしなくても良かったんじゃないですか?」

「魔法使いはね、体力要るの。筋力が多少あった方が良いに決まってるでしょ」




   *




「痛たた…」

「大丈夫?ローレライ」


掃除が終わり、冒険者ギルドへ完了報告しにやって来た。


「依頼達成ですね。お疲れさまでした」


ギルド職員の女性が判を押し、貨幣がトレーに置かれた。


「銀貨3枚…」


三千円くらいだろうか。

1日頑張ってこれっぽっちとは。

レインも金額が少なくて驚いていた。


「フェリアさん…」


もう帰りたい。

帰って休んで、お風呂入りたい。


「貴方たち今日は疲れたでしょ。これで終わりでいいわよ。また来週ね」


まあ、金銭感覚が身について良いのかもしれないけれど。

家は裕福で、お金に困ったことは無い。

お小遣いは使い切れないほどあるのだ。

かといって無駄遣いはしてないけど。


次の日は、一日中寝て過ごした。




   *




「どうだった?冒険者やってみて」


学校へ行くと、ジョディーが興味深そうに訊いてきた。


「疲れたわ」

「そっかー。お疲れ様ですわね」


ジョディは上機嫌の様で、ウキウキして鼻歌を歌っている。

私はまだ少し体がだるい。


「うふふふ♪」

「ジョディーは彼と何処かへ行ってきたの?」

「そうなんですの。訊いてくださる?」


ジョディーはカーベルと仲良くなり、街へ一緒に遊びに行ったらしい。

彼女は、思っていたより積極的で彼をぐいぐい引っ張っているようだった。


「ローレライのお陰ですわ」

「仲良さそうで何よりね」


レインは元気で、クラスの男子の友達と喋っているみたいだ。

昨日は何処かへ行っていた様子だったけど。

「元気だなぁ」と思って机に突っ伏していたら、珍しい声が掛けられる。


「ローレライさん、朝から元気ないけど…どうしたのかしら?」


扇子を広げて、リリーが目を細めていた。


「少し疲れているだけよ」


疲れすぎて、一々答えるのも面倒になって来ていた。

正直に言う必要も無いのだけど。


「そうなの?そういえば貴方、王子様と仲が良いっていうのは本当なのかしら」


クラスの誰かから聞いたのだろう。


「ケリー王子は、他にお相手がいるらしいわよ」


「ええっ、それは本当の事なのかしら?」


ザワッ。

教室内が一瞬騒めいた。


「わたし、狙っていたのに…」

「ショック―。お相手はどなたなのかしら」


ザワザワ…。

女子たちが騒めきだした。


あれ?

私何か不味い事言っちゃった?


「ローレライ疲れてるとは思いますけど、少し軽率ですわね」


「その口ぶりだとお相手の方を知ってますの?」


リリーが更に訊ねる。


「さ、さあ?どなたかしらね?」


「ちょ、ちょっと知っているのでしょう?勿体つけないで教えてくださいな」


いつの間にか、女子たちが私の周りに集まっていて真剣に耳を傾けている。

みんなケリーの事狙っていたの?


考えてみれば、彼は次期国王と言われている立場だし。

そうでなくても、王子と知り合う機会なんて滅多にない。

あわよくば、仲良くなってどうにかなりたいと思うのは乙女心だろうか。


「そっかー。女の子は『白馬に乗った王子様』って一度は憧れるわよね〜」


「ローレライさん、教えてくださいな」


リリーが私の肩を揺する。

女子たちの真剣な圧力で圧倒されそうになっていた。



キーンコーン〜。

チャイムが鳴ってドアが開く。


「皆さん、席について…」


担任のロレッタ先生が教室に入ってきた。

強制的に会話は終了する。


「助かった~」

「うかつですわね。ローレライは」


ジョディーに呆れられてしまった。


「ところで、本当は知っているのでしょう?わたくしにだけ教えてくれないかしら」


ジョディーも興味津々だったみたい。

わたくしにだけ…何て言ってるが、言ったら噂が広まってしまうかもしれない。


うーん。

まいっか。

広まったところで困る訳じゃないだろうし。


「王子にいつも付いている護衛の方、あの方と恋人らしいわ」

「そうなのですか。そんな事まで知っているなんて、ローレライって王子と本当はどういった関係なのですか?」


「えっと…」


このままでは私の秘密もバラされてしまいそうだ。


「ただのお友達よ」


引きつっているのが自分でもわかる。

私が、王女の隠し子だって事バレちゃうかもしれないわ。


「ふうん?そうですか。今はそういう事にしておきますわね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る