第16話 将来の事

私は、王様の前に座っていた。

優しい目をしていて、顔には深いシワが刻まれている。


「…それでローレライはどうしたい?」


じっと私の目を見つめ、改めて訊ねられ私は答える。


「私はアルフレッド家でこれからも暮らしたいです」


「そうか…」


私はしっかりと自分の言葉を口にする。

決めたことに後悔はない。

私たちは王様に、深々と頭を下げ部屋を退出した。




   *




「ローレライ、これで良かったの?王族になれば生活は安泰だし、贅沢も出来るのに」


帰りの馬車の中でレインに訊かれた。

私はアルフレッド家に残ることを決めたのだ。

王女になるという選択肢もあったのだけれど。


「うーん。王族って言われても、あまりピンとこないのよね。正直興味もないし。今の生活ですっごい幸せよ」


私はレインに向って微笑んだ。


「そっか。ありがとう…」


レインは涙ぐみ、指で涙を拭った。

全く泣き虫なんだから。





***ケリー王子視点



「……」


父上が落胆している。

王なのだから、無理にでも城に住まわせることも出来たはずなのに、どうして彼女に選択させたのだろう?


「なぜ…」


「ケリー、お前の実の姉が死んだことは知っておるな?…だから今回は彼女の意志を尊重したいと思っておったのだが…それでも傍に置きたいと思うのはワシの我儘であろうか」


父上は窓から遥か遠くを眺めていた。


「ローレライと、その人は違いますよ。父上。彼女に会いたくなったら城に呼べばいいじゃないですか」


「それも、そうだな」


父上の背中が小さく見えた。

ローレライに亡くなった姉を見ているのだろうか?


「ローレライは、キアラに似ておって…性格はだいぶ違うようだが勘違いしそうになるわい」


父上の頬に、キラリと光るものが流れ落ちた。





***レイン視点




ローレライは屋敷に残ることを決めた。

王族の地位を蹴ってまで。

これからずっと一緒に暮らしていける。

でも、僕はこのままで良いのだろうか?


「レイン様は18歳で男爵を継ぐことが決まってますが、仕事は何か考えておいた方がいいかもしれません。領地も持たない貴族ですので。学校で魔法の技術や知識を学んでおけば仕事にも役に立つでしょう」


将来の事をラルスに訊いたら教えてくれた。

僕の魔法レベルは初級程度。

今後の為にも冒険者登録をして、鍛錬したほうがいいかもしれない。

今、出来る事をしよう。


「僕、冒険者になるよ」

「ええ?急にどうしたの?」


ローレライに驚かれた。

そりゃそうか。

貴族が冒険者になんて普通ないだろうしな。


「将来の為に力を付けようと思って。爵位を継いだ時に弱いより強い方が良いに決まっているでしょ?」

「それは、そうかもしれないけれど…」


ローレライは心配しているようだ。


「そうだ!私も一緒に行っていい?ほら私、回復魔法使えるし」

「えええ?」


1人で行くつもりだったのだが、何故か彼女も一緒に冒険者登録をする事になってしまった。




***




今日はレインと冒険者ギルドへ行く。

レインは力を付けるために、鍛えたいらしい。

私は彼のことが心配で付いて行くことにした。


イザというときは、回復魔法を使えるし役に立つと思うのだけど。

そういえば、以前誰かに何かを頼まれていたような…。


「あら?今日はどうしたの?」


冒険者ギルドに入ると、フィリアさんに出会った。

私たちが冒険者登録することを伝えると少し驚いていた。


「あの時は、ほんの冗談のつもりだったのだけどね。貴方たち貴族の御子息じゃない?冒険者をして稼がなくても生活できるだろうし。冒険者って貴方たちが思っているより危険な仕事よ。本当に登録するの?」


以前、私が回復魔法を使えるっていったら一緒のパーティで…ってフィリアさんに言われたんだっけ。

思い出した。

あれは冗談だったのね。


「僕は、どうしても今より強くなりたいんです」


レインの意思は固まっていた。


「レイン君の意思は分かったわ。ローレライさんは?」


「私は…レインが心配で、それと少しでも役に立てたらって思って…」


「う~ん。まあそりゃ心配よね。じゃあ、こうしましょう。私と一緒にパーティを組むこと。ローレライさんは前に絶対出ない事。怪我したら回復魔法を使ってもらうけどね」


「「はい。わかりました」」


私とレイン、フィリアさんで一緒のパーティを組むことになった。


冒険者登録は、登録用紙に名前と使える魔法を書き込むだけで直ぐに登録が終わった。

金属の四角いカードが渡される。

名前が記されていて、その後ろにEと書かれていた。


「学校が休みの日の週に一日だけね。無理すると怪我するから疲れている時は休みで。…魔法使いばかりのパーティか…バランス悪いけどしょうがないわね」


「迷惑かけてごめんなさい」


私はとっさに謝った。


「ああ、ごめんなさい、悪かったわね。わたくしの悪い癖ね、つい愚痴っちゃったわ。気にしないでいいから」


「フィリア、新人をいじめるなよ」


何処からか男性の声がかけられる。

髭面の中年男性が、フィリアさんに絡んできた。


「死なない程度にがんばりなよ、ひっく」

「まあ、ロイドお酒臭いわ」


どうやら酔っぱらいの男性のようである。

知り合いなのだろう。

フィリアさんは絡まれて少し困っているみたいだった。

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