第13話 王子と護衛

エリサが走って近づいてきた。

そんなにレインに会えたのが嬉しかったのだろうか?


「街中で会うなんて奇遇だね」

「運命を感じます!お姉さまは王子様と一緒ではなかったのですか?」


王子を許したとはいえ、そのフレーズは聞きたくなかった。

イラっとして、顔をしかめてしまう。


「悪いけど、また学校でね。今日はローレライとデートだから」

「仕方ないですね。今日は譲ってあげます」


意外とあっさり引いてくれた。

折角のデートが台無しになるところだったわ。



「大丈夫?ローレライ。辛そうに見えたけど…」


え?

そっか。

そんな風に見えていたのね。


「ああ、うん。大丈夫よ。少ししゃくに触っただけだから」

「ローレライでも、あんな表情するんだなって驚いちゃった」

「私だって人間だもの。嫌なこともあるわ。馬車が待ってるから帰りましょう?」


私は自然とレインの腕を組んで抱き寄せる。

レインの頬が赤くなっているわね。

あら、私もしかしてエリサに嫉妬したのかしら?




***ケリー王子視点




「ケリー、ローレライに故意ではないといえ魅了魔法を使ったようだな」

「申し訳ありません。父上」

「大事にならなかったから良かったが…以後気を付けるように」


俺は玉座の間で父上に叱られていた。

意外にも口頭注意で済んだようだったが。



玉座の間を退出し、廊下でシルダに声をかけられる。


「処分が無くて良かったですね」

「そうだな」


家族とはいえ、王は厳しい人で不正があれば厳罰があってもおかしくは無かった。

王子だから許されるわけではないのだ。


「ローレライとは、いとこな訳だし、厳しくても仕方ないのだがな」


亡くなった娘の子供。

それだけで大事にしようと思っているのは理解できる。

俺だって同じ立場ならそうするだろう。


「実のところローレライはどうなるんだろうな?実際は王女な訳だし」


今まで城に住んでいたわけでは無いから、普通の王女とは異なるとは思うが。


「どうでしょうね。価値観もだいぶ異なりますし。城に住むにしても周りに合わせるのが大変でしょうね」


王妃ならともかく、王女だと立場が違う。


「どうせなら、俺の嫁さんになって欲しかったな」

「そうですね…誰か他の人を探さないとですね」


シルダは目を伏せる。

彼女は、時々こういう表情をするんだよな。


「なあ、シルダって誰か好きな奴とかいないのか?」


俺は初めての問いかけをシルダにしてみた。


「…えっ?」


彼女はしばらく固まっていた。

あれ?これ訊いてはいけない質問だったか?


「プライベートな事を訊いてすまなかった。忘れてくれていいから」


「えっと、その…何と言いましょうか…わたくしは仕事が恋人のようなものでありまして…王子と一緒に居られるだけで充分です!」


珍しく、しどろもどろになりながら答えるシルダ。

心なしか顔も赤いようだけど。

いつもクールな彼女がこんなに取り乱すなんて見たことが無い。

俺はシルダの瞳をじーっと見つめた。


「な、なんでしょうか。わたくしの顔に何か付いていますか?」

「いや…」


まさかな。

そんなはずないよな。

俺は幼い頃からずっとシルダと一緒だった。

年上の彼女とは幼馴染のようなものだ。


「俺の事を好きとか…」


「そ、そんなはずあるわけが…ごにょごにょ…」


どうやらそうらしい。

だから魅了魔法が効かなかったんだ。


「言ってくれればよかったのに」

「言えるはずないじゃありませんか。わたくしとじゃ身分が違い過ぎます」


「バカだな。今なら俺フリーだしチャンスだぞ」

「そういう問題じゃありませんよ」


「そうだ、今から俺の部屋へ来い。もっと話ししよう」

「言われなくても付いていきますよ。わたくしは護衛ですから」

「お前、ロマンが無いなー」


シルダは俺の護衛で、美人で何でも知っている仲だ。

いつもは傍に居てずっと立っているのだが、無理やりソファに座らせた。


「さあ、お前の思っている事全部話せ」

「これ?尋問ですかね?」


「いつから俺を好きになった?」

「……」


「無言は許さん」

「初めて会った時でしょうか」


「そんな前からか!」

「ずっと片思いしていました」


「ほうほう…それで?」


コンコンコン。


「失礼します。お茶とお菓子用意致しました」


「入れ」


ドアが開き、メイドがワゴンを引いてお茶菓子を持ってきた。


「そこに置きっぱなしで良いから、下がって」

「はい。あら?」


「どうした?」

「シルダさんとても嬉しそうですね。わたし、シルダさんの笑っている顔初めて見ましたわ。失礼しました」


メイドが会釈して部屋を出る。



「これから毎日話しするか?」

「ちょ…毎日尋問!?」


「尋問とは人聞きが悪い。恋愛相談だ」

「誰のですか」

「もちろんお前の」


シルダは俯いて顔を赤くしている。

彼女はこんなに可愛かったんだな。

男勝りの騎士だから全然意識していなかったけど。


「面白い事がみつかって良かったよ」

「わたくし玩具おもちゃですか?」


「最高の玩具だな」

「ひ、ひどい…」


「どうとでも言え。折角なら俺を口説き落としてみろ」

「え、ええええ??」


悲壮な声を上げるシルダ。

そんな彼女を見て、楽しいと思えてきた俺は鬼畜だろうか。

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