第11話 魅了魔法?

***レイン視点


「ケリー…」


ローレライは王子の名前を呟いていた。

朝起こしに行くと、もう既にローレライは起きていて。

ベッドの上で寝巻のまま、ぼーっとしている。


「ローレライ…」

「レイン?ああ。今朝も起こしに来てくれたのね」


僕はいたたまれなくなり、彼女の部屋を足早に出て行く。




「…もうローレライを起こしに行かなくてもいいか」


壁に寄りかかり、自室で独り呟く。

僕は数日前、姉さんに好きと言われた。


「私、貴方の事が好きなの」


今だって忘れてない。

つい数日前の事なのに、他の人を好きになる事なんてあるのだろうか?

何かおかしい。

そう思うが、心がぐちゃぐちゃしていて考えがまとまらない。


僕はずっと姉さんが好きだった。

今でも好きだ。

揶揄からかわれていたのだろうか?

だけど、姉さんは嘘をついたり人を馬鹿にしたりしない人だ。


コンコンコン。

ドアがノックされた。


「レイン様、少しよろしいですか」


ラルスの声だ。

どうしたのだろう。


「急ぎお伝えしたほうが良いと思いまして…」


ラルスが珍しく焦った様子だった。

僕はドアを開けた。


「えっ?ローレライが魅了魔法にかかってる?」


「さようで御座います。ローレライ様に用があり、お声をかけたのですが少々様子がおかしかったので、体調が悪いのかと思い鑑定をさせていただきました。魅了魔法にかかっているようでしたので。御本人には全く自覚はないとは思いますが…」


「ラルス、鑑定魔法なんて持っていたんだ…」


ずっと一緒に暮らしてきたけど初耳だよ。


「はい。隠すほどのものでもございませんが」


何てこった。

ローレライは、魔法をかけられていたんだ。

だからおかしかったんだ。


「本人にお伝えする前にレイン様に伝えておこうと思いまして。この魔法は本人に伝えても、魔法にかかっているのを信じてもらえないのが往々にしてありますゆえ」


ラルスは以前、経験したことがあるのだろうか。





   *





「「今回ばかりはお通しすることは出来ません。例え貴方様であったとしても」」


玄関ホールでラルスの声が響いていた。

誰か来客したのだろうか?

いったい誰が…。


階段上から確認すると派手な金髪が目に入る。

今日は学校は休みだけど、まさか朝から来るとか…。


「頼む会わせてくれないか?どうしても謝りたくて」


訪問するたびに内心嫌だなと思っていた彼、ケリー王子の姿だった。


「もしかして、ローレライ様に魔法をかけたのは貴方様ですか?」


「ああ、やはりかかってしまっていたのか。だったら解呪させるから彼女だけでも通してほしい」


いつも王子の後ろに控えている護衛が前に出る。


「今回、王子の不手際で魔法をかけてしまい申し訳ない。わたくしが責任をもってローレライ様の魔法を解除させて頂きます」


深々と頭を下げる護衛のシルダ。


「まあ、一体どうしたの?」


ローレライが騒ぎを聞きつけて顔を出した。


「ケリーわざわざ来てくださったのですね」


ローレライは恍惚の表情を浮かべている。

魔法にかかっているとはいえ、こんな顔は見たくない。


「ローレライ、着替えて」


僕は、寝間着姿のまま出てきたローレライを注意する。


「あら、嫌だわ私ったら…」


頬を赤らめ、部屋に戻っていく彼女。

胸のモヤモヤした気分が気持ち悪かった。




   *




「先ほどは、お見苦しい姿をお見せして失礼いたしました」


ローレライは頭を深く下げる。


「いいえ、こちらも朝から訪問して申し訳ありません」


結局、王子と護衛が一緒にリビングに通された。


「早速解呪したいのですが。この事をご本人様は知っておりますか?」

「まだお伝えしておりません」

「そうですか」

「何々?私の事?」


ローレライは首を傾げている。


「ローレライは魅了魔法にかかっているんだよ。それで、何故だか知らないけどかけた本人が解呪するって言ってうちに来た」

「私、魔法にかかっているの?」


ローレライは目を見開いていた。

そりゃ、驚くだろう。

知らないうちに、魔法がかけられていたなんて普通は思わない。


「そっか…何だかおかしいなとは思っていたのよね。私レインの事好きなはずなのに急に気持ちが変わるなんて…そっか魔法だったのね」


意外と素直に受け入れたようだ。


「わかりました。では解呪お願いしていいかしら」


座るローレライの前にシルダが立つ。


「ではいきます。『解呪ディスペル』」


淡い光がローレライの体全体を包み込む。

不思議そうに光を見つめる彼女。


「終わりました。いかかですか?」

「えっ?もう終わったの?ええと…」


彼女は王子を見た。


「そうね。ケリーに特別な感情は湧いてこないわ。解呪できたみたいね」

「本当に申し訳なかった」


王子が平謝りしている。

わざと魔法をかけたわけでは無かったようだが?


理由を訊くと、王子は普段能力を抑え込む腕輪をしているらしい。

その日は付けるのを忘れていて、うっかり能力を発動させてしまったみたいだ。


「本当申し訳なかった!都合がいいとは思うが、友達として仲良くして頂けないだろうか?」


「もう、謝らなくていいですわ。故意にした訳ではないみたいですし、今後は十分注意してくださいね?」


ローレライは懐が深い。

僕だったら絶対許せないって思うんだけど。


「レインごめんなさいね。苦しい想いをしていたでしょう」

「えっ…」


ああ、いつものローレライだ。

僕はホッとする。


「そうだね。だったら僕の我儘を一つ聞いてくれないかな」

「何かしら?」


今、思いついたことを彼女に話すことにした。

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