第9話 フィリアの妹

「ローレライ凄かったね!いつの間に練習してたの?」


レインが興奮気味に話しかけてきた。

最近、偶然に習得してしまった回復魔法。

指を紙で切ってしまい、試しにやってみたら出来てしまったのだ。

回復魔法の実演は出来ないので、校庭の枯れている木に魔法をかけてみた。

不思議と木が生き返ったのだった。


「まさか、こんなに上手くいくとは思わなかったけどね」


回復魔法は、使い手が貴重らしく先生にも褒められた。

是非人々の為に使って欲しいとか、大げさなことを言われた。


「今のは精霊魔法に近いかな」


いつの間にかケリーが近くに立っていた。


「ちょっと面白そうなことをしていたので、見学に来た」


ケリーも授業で、運動をしていたらしい。

魔法学校にも体育の授業があって、体力づくりが大事なんだそう。

体操着を着ているのが新鮮に見える。


「わああ、生王子だわ」


ジョディー他、クラスの女子は色めき立つ。

王子様って地位と権力、財力もあってチートだわね。


「今日も行くからよろしくね」


ケリーは私にウィンクする。

思っていたより、キザな男だわ。





***ケリー王子視点





今日も夕刻にアルフレッド家に訪れた。

いつもの様にリビングに案内される。

週3回とか来すぎだろうか。

今日は何故かレインがローレライの隣に座っている。


「私、レインと付き合う事にしたの。きょうだいで変に思われるでしょうけど」

「え…」


突然の告白。

言葉にならなかった。

仲の良い姉弟だとは思っていたけれど。


「そうなんだ。血はつながってないものな…」


ショックだった。

告白する前に失恋するとは。

その後、彼女と何を話したのかは憶えていない。


「今回は諦めますか?珍しく乗り気だったので、上手くいくと思っていたのですが…まさか弟さんとは」


帰りの馬車内でシルダに言われた。


「いや」


諦めたくはない。

今までこれ程、気の合う女性はいなかったんだ。

今回の機会を逃せばいつ出会えるか分からない。

最悪、親が決めた国同士の政略結婚になってしまうだろう。

本来はそういうものなのかもしれないが。


「諦めないさ。彼女に俺の気持ちを伝えてみるよ」


ローレライは俺の気持ちを知らない。

もしかしたら心変わりしてくれるかもしれない。

とても低い確率だけど。


俺が彼女と会話していた内容はシルダが憶えていた。

どうやら俺が頻繁に来るのが迷惑のようだ。

来る回数を減らしてほしいとの事だった。


暗に「弟と付き合うから来ないでほしい」ともとれるが。




***




私はリビングでレインと話をしていた。


「一応、遠回しに来ないでほしいって言ったのだけどね」


王子は私の言葉を聞いてから放心状態だった。

もしかしたら聞いていないかもしれない。


「護衛のシルダさんだっけ?彼女が内容を憶えているでしょ。流石に分かると思うんだけどな」


立場上、王子様なので来るなとははっきり断れない。

遠回しに言うしかなかったのだけど。


「彼、やっぱりローレライの事好きだったみたいだね」

「えええ?そうだったの?全然気が付かなかったわ」


「ローレライってそういうところ鈍感なんだよな」

「鈍感で悪かったわね」


「そういう所も好きだよ」

「もうっ、レインってば」


気持ちが通じ合ってから、レインは恥ずかしげもなく好意を伝えてくる。

聞いているこっちも恥ずかしくなってくるのだけど。





   *





私はレインと学校の廊下を歩いていた。


「レイン様~」


遠くから、赤い髪の女子生徒が手を振り近づいてくる。

あれ?どこかで見覚えがあるような…。

耳が長くエルフ族みたいだけど。


「ええと、誰だっけ?名前分からないんだけどごめん」


レインは謝っていた。

私と同じで、見覚えがあるのかもしれない。


「初めまして、わたし一年Bクラスのエリサと言います。今日はレイン様に訊きたいことがありまして…」


顔を赤くしながら、モジモジするエリサ。

何だ初対面か。

きっとレインを好きな女の子なのね。


「あ、あのっ。お姉さまとはどういった関係なのですか?」


「「えっ?」」


私とレインは顔を見合わせる。


「えっと、仲のいい姉弟ですよ」


レインはにこやかに言葉を返した。


「嘘です。わたしには解ります」


エリサは執拗しつように食い下がる。

め、面倒くさい。

ん?どこかで見たことがあると思っていたら。


「貴方、知り合いにフィリアさんっていない?」


顔の特徴、姿が似ている。


「フィリアはわたしの姉です。それが何か?」


私はエリサさんにじっと睨みつけられる。

恋敵と思っているんだろうか?

少し、怖いんですけど。




   *




「フィリアさん。お久しぶりです」


私とレインは、夕方冒険者ギルドへやってきた。

フィリアさんは冒険者ギルド内の食堂で食事をしていた。


「学校は順調ですか?」

「お陰様で、魔法の練習が役に立っていますよ」

「この間、先生に褒められちゃいました」


お酒も飲んでいるようで、ほろ酔い状態みたいだ。


「それで?わたくしに会いに来るって事は何かありましたか?」

「実は…学校でフィリアさんの妹さんにお会いしまして、それで…」


私たちが付き合い始めたことを話した。

姉弟で付き合っている事を、学校では内緒にしてほしいので姉のフィリアさんにお願いしに来たわけだ。


「…うちの妹が申し訳ありません!思い立ったら猪突猛進ちょとつもうしんするタイプなので。でもお二人は義理の姉弟だったのですね」


私が王女の子供という事は内緒にして話した。

あえていう事も無いだろうから。


「解りました。妹にはよーく言って聞かせます」


それからしばらく飲食をしてフィリアさんと語り合った。

冒険者って思っていたよりも大変みたい。


「そういえば私、回復魔法使えるみたいなんですよ」


「えっ?そうなんですか?冒険者になったら是非一緒にパーティを…」


冒険者ギルド内が急に騒がしくなった。

元々騒がしい場所ではあったのだけど。

冒険者たちの視線を感じる。


「ローレライ、それ言わないほうが良かったみたい」


そういえば、先生が回復魔法の使い手は貴重と言っていたっけ。


「早めにここを出たほうが良さそうだ」


私たちは逃げるように冒険者ギルドから出る。

今頃フィリアさんは質問攻めにあっているかもしれないけど。

ごめんなさい。

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