第8話 私の本心

カーベルの家に来た。

彼とは幼馴染で家も隣同士だったりする。

家に来たのは久しぶりだけど。


「あれ?ローレライどうしたの?」


驚いた様子で出迎えるカーベル。

カーベルの親御さんと挨拶をする。


「あらまあ。ローレライちゃんキレイになったわね」

「ゆっくりしていきなさい」


「叔父様、叔母様、お邪魔します」


私は会釈をして、リビングに通された。


「カーベル、あのレインの事で聞きたいことがあるのだけど」

「じゃあ、オレの部屋が良いか」


カーベルの部屋に入る。

入ったのは何十年ぶりだろうか。

昔は三人でよく遊んだっけ。


パタン。

カーベルがドアを閉めた。


「それで?内緒の話なのだろう?」

「実は…」


私は最近の出来事を、かいつまんでカーベルに話す。


「そういう事か…。多分遠慮をしているんじゃないかな」

「遠慮?」


「王子がよく来ているのだろう?きっとローレライを気に入ったのだろう。それでレインは君の事が好きなんだぜ?」

「どういう意味?」


「つまりだ。王子とローレライがくっつけば幸せになれるって思っているんじゃねえかな。それで身を引こうとしている。君は言ってたよな以前、弟としか見れないって…」


そういえば言った記憶がある。


「だからもう諦めちまったんだよ、レインは。今は失恋の苦しみを味わっている…出来れば、もう君に会いたくはないだろうさ」


何を勝手なことを…付き合ってもいないのに?

私の意見が全くないじゃないの!


「「か、勝手な事言わないで!」」


私は声を荒げた。


「お、びっくりした。大丈夫かお前」


「え?」


視界がかすかに歪んだ。

じわりと目がかすむ。


「あ、あれ?」


ぽたりと雫が落ちた。

私泣いているの?

何だろう胸が苦しい。


「なんで…」


「ローレライの正直な気持ち。今一度、自分と向き合ってみな」


私の…気持ち?


「誰を好きなのか。誰を大事にしたいのか」

「誰を好きなのか、大事にしたいのか…」


私はカーベルの言葉を繰り返した。


「余計なことは考えるな。常識を取っ払って自分に素直になれ」

「良く解らないけど、わかったわ」




私はカーベルにアドバイスされて屋敷に帰ってきた。

ベッドに寝転び、自室で一人考える。


「誰を好きか」


レインの顔が脳裏に浮かんだ。


「弟なのに?私が好きなのはレインなの?」


常識を取っ払えとはこういう事なのか。

弟という事を除けば好きだけが残る。

元々血のつながりはないのだけど。


「私、姉弟にこだわり過ぎていたのかもしれないわね」


最初から私はレインの事が好きだったのだ。

一目見た時から。

転生して記憶が戻った時も。


気持ちが楽になった。

思い切ってレインに言おう。

「貴方の事が好きです」って。





   *





今日は学校は休み。

レインはリビングでのんびりと寛いでいた。


「レイン、ちょっと良い?」


私はレインに声をかける。

彼は直ぐに立ち去ろうとしたが、私はとっさに手を掴んだ。


「姉さん、僕これから用事あるから…行かなきゃ」

「ごめん。真剣な話なの。座ってくれる?」


「嫌だ。聞きたくない。それに忙しいんだ」

「ごめんね。少し時間ちょうだい?」


レインが珍しく拒否して、なおも立ち去ろうとするが何としても聞いてもらわないと。

私は彼の瞳をじっと見つめた。

灰色の瞳は困惑し、目を反らしている。


「私、貴方の事が好きなの」

「……?」


「今何て言ったの?」

「私レインの事が好きなの。弟としてじゃなくて」


あれ?固まってるわ。

目をまん丸くしてレインが突っ立っている。


「冗談…じゃないよね」

「冗談でこんな事言わないわ」


私はレインをぎゅっと抱きしめた。

心臓がドキドキする。

言葉に出してみて、本当に好きなのだと自覚した。


「本当?ほんとうに?」

「本当よ。だから私を諦めないでちょうだい」


「信じて良いの?」

「何よ私を信じてくれないの?」


「だって…だって…」


レインはぽろぽろと泣き出していた。

顔を真っ赤にしている。


「あらまあ、どうしちゃったの?」

「だって…嬉しいんだもん」


レインの温かいぬくもりが伝わってくる。

心がぽかぽかと温かくなる。


「しょうがないなあ、レインは」


私はレインの涙を拭ってあげる。

そして、頬にキスをした。


「大好きよ。レイン」


信じてくれるまで何回も言ってあげるわ。




   *




「ローレライ、見てて」


レインが笑顔で手を振っている。

今は魔法の実技の授業でクラスメイトは校庭にいた。

各々練習の成果を見せる事になっている。

レインはすっかり元気になった。


「あら、呼び方が元に戻りましたわね。一体どうしたのかしら?」

「まあ、色々あってね」


一応、ジョディーには言っておいた方が良いだろう。

私とレインが恋人になった事を。

私はこっそりと事情を話した。


「まあ、そうでしたの」


少し驚いていた様子だったけど、直ぐに納得したようだった。

レインは水魔法で、辺り一面に雨を降らせる。


「「おお!」」


クラスメートがどよめく。

快晴の空に美しい大きな虹が現れていた。


「私も負けていられないわね!」


レインほどじゃないけど、少し魔法が使えるようになった。

まだ始めたばかりだし、もっと上手くなると思う。


「ローレライ頑張って!」


ジョディーが応援する。

私は深呼吸をして息を深く吸った。




***




「レイン様…今日もカッコいいです~」


三階の教室の窓から、一人の女子生徒が呟いていた。

レイン様が、ローレライと名前呼びをしている女性。

確かレイン様のお姉さまだったと思うのだけど。

きょうだいにしては仲良すぎる気がする。


でも…確か彼女には王子と仲が良いという噂もあるから、やっぱりただの弟だと思うのだけど。

わたしの嫌な予感は外れたことが無いのよね。


「まさか、ね」


レイン様とお姉さまは義理のきょうだいとの話もある。

わたしはレイン様に直接聞いてみることにした。

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