第7話 王子の想い
放課後、気になって見に来てしまった。
どちらにしろ、一緒の馬車なので待たなくてはいけないし。
ただ待っているのも退屈なのだ。
「私は良いとして、何でジョディーも来てるのかしら」
「覗きはお姉さまでも良いとは言えないですわよ?」
校舎裏の近くの茂みに隠れて様子を伺う。
だって気になるんだもの。
「レイン君って凄くモテるらしくて、わたくしも紹介してほしいって何人かに頼まれましたわ。断りましたけど」
「そうなんだ」
知らないところでそんな事があったとは。
女子生徒が校舎裏で待っていると、レインがやってきた。
「それで?何の用なのかな」
落ち着いた声で話すレイン。
女子生徒は俯いていて、必死に言葉を出そうとしている。
「好きです!付き合ってください!」
言った。
女子生徒は顔が真っ赤だわ。
どう返事するのかしら?
カサカサ。
葉っぱがこすれて音を出してしまった。
「悪いけど。僕、好きな人がいるから」
良かった。
私はホッとしていた。
あれ?何でだろう?
お姉さんとしては応援するのが当然なのに。
「出てきなよ。覗きとは趣味が悪いな」
見つかっていたの?
私とジョディーは茂みから抜け出した。
服が葉っぱだらけだ。
「ごめんなさい。どうしても気になっちゃって…」
「申し訳ありませんでした」
私とジョディーは一緒に謝った。
レインは苦笑していた。
「まあ、姉さんたちならいいけどさ」
*
私は帰りの馬車の中で考えていた。
あれ?何か違和感。
何だろう?
私は首を傾げていた。
「ところで姉さん…」
「それ、呼び方!元に戻ってる」
「今まで通りの方が自然かなって思って、変かな?」
「変じゃないけど…」
何だろう。
寂しい。
何で寂しいのだろう?
「姉さんは王子と付き合う事になるかもしれないしさ。だったら僕は名前呼びじゃなくて姉さんって呼んだ方が良い様な気がして…」
彼なりに気を利かせたのだろうか。
「変な気を利かせてるわね。好きに呼んだらいいわ。でもケリーと付き合うなんてありっこないじゃないの」
「王子、婚約者居ないんでしょう?だったら可能性はあるよ。興味ない人の家に行かないと思うし」
一国の王になる予定のケリーが私と付き合うとか無いでしょ。
私がケリーと結婚したら王妃になってしまうじゃない。
「ないない、絶対ないから。彼とは良いお友達よ」
「ふうん」
親が存命なら大歓迎するだろうけど。
親が居てくれたら私の運命は少しは変わっていたのかもしれない。
***ケリー王子視点
「王子?」
「シルダ?ああ、ごめんぼーっとしていたよ。聞いてなかった」
俺は今、執務室で仕事をしていた。
徐々に父上の手伝いをするようになっていた。
まだ気が早いと思うのだけど。
ふと気が付くと彼女の事を考えてしまっていた。
プラチナブロンドの髪、水色の透き通った瞳。
今まで俺に近寄ってくる貴族たちは下心が丸見えでいけ好かなかった。
ローレライはそのような人たちとは違う。
「また、会いたいな」
俺はぼそっと呟く。
「会いに行かれるのは良いのですけど、やる事をやってからお出かけしてくださいね」
お目付け役のシルダに叱られてしまった。
羽ペンを走らせる。
早く仕事を終わらせないといけないな。
***
「あっ!」
そういえばラルスさんに訊きたいことがあったんだわ。
廊下を歩いていると、目の前を丁度通りかかったので訊いてみることにする。
「ラルスさん、アルフレッド家の爵位はどうなっているのかしら?知っていたら教えてほしいのだけど」
「旦那様が亡くなっておられるので、自動的にレイン様が男爵の爵位を継ぐことになっておりますね。確かレイン様は15歳でしたかな」
まだ若いので仕事は任されないのだそう。
ある年齢になったら城から手紙が来るようだ。
「それで、王様は私たちに学校へ行けと言っていたのかしら」
知識が無いと仕事も出来ない。
魔法も無いよりはあった方が良いのだろう。
それにしても学費無料は大盤振る舞いな気がするわ。
*
ふとレインが呟いた。
学校に通い始めて一か月が経ち慣れてきた頃だった。
「僕、冒険者になろうかな。そうしたら家から離れられるし」
「え?どうしたの急に…」
「何でもない」
私と目を合わさず、自室にこもってしまうレイン。
ケリーが来るようになってから、レインが元気が無い気がする。
学校には一緒に行くけど、ほとんど話さなくなった。
トントントン。
私はレインの部屋のドアをノックする。
「最近どうしたの?悩みなら私が聞くけど」
「……」
「部屋に入れてくれない?」
「話すことは無いよ」
拒絶されている。
何でだろう。
「うーん。カーベルに訊いてみるか…」
彼はレインと親しい。
話してみれば、何でレインに避けられているのか解るかもしれない。
***レイン視点
トントントン。
姉がドアをノックしている。
応じるつもりは無い。
姉さんは王子と付き合うべきなんだ。
僕が一緒に居て良い訳が無い。
頭では分かってはいるんだけど。
辛くてたまらない。
胸が苦しくて息が出来ない。
いっそこの家を出られたら…。
「僕、冒険者になろうかな。そうしたら家から離れられるし」
思わず言ってしまった。
貴族が、冒険者とか前例が無いかもしれないけど。
苦しさから逃れられるかもしれない。
ローレライ以外の人を好きになれるかもしれない。
姉は、僕の事を弟としか見れないから。
「学校での告白、受けておけば良かったな」
知らない人だったけど、付き合えば愛着も湧くだろうし。
好きになるかは分からないけれど。
「はぁ」
僕はため息をついた。
失恋が少し早まっただけだ。
冒険者をすれば多少気がまぎれるだろう。
学校が休みの日に冒険者登録をしてこよう。
「全く、叶わない恋なんてするものじゃないな」
僕はベッドの上で胸を抑えつけた。
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