学園編入と生徒たち

アルノアは、上級クラスの寮で生活を開始した。寮費が無料というのは助かるものの、ダンジョン実習で得た戦利品を学園に還元する義務があり、実力の証明と生活維持が同時に求められるシステムです。


アルノアは、フレスガドル学園の寮に荷物を置くと、少し緊張した面持ちで学園の廊下を歩いていた。ここに来てから感じる視線の多さに、どう対応すべきかまだ慣れていない。彼はランドレウスではほとんど「おこぼれのBランク」と称される存在で、周りから大きな関心を持たれたことがなかった。しかし、フレスガドルの生徒たちはアルノアの「白髪」という容姿も、ここフレスガドルでは興味を持たれ、さらには容姿の良さも相まって神秘的な雰囲気を感じさせるようだ。


アルノアは自己紹介も兼ねてグレゴール教官から紹介を受けた際、その雰囲気はさらに強まった。「この編入生、アルノアは私との戦闘試験で実力を見せ、私の油断があったとはいえ私を倒した。まさに潜在能力の高さを感じる」と教官が述べたことで、彼に対する関心が一層高まったようだった。


学園内では、クラスは実力で区分されており、アルノアは優秀な生徒たちが集まる上級クラスに編入された。ここでは年齢や経験は関係なく、純粋な能力と潜在力で評価される。フレスガドルの生徒たちはアルノアに興味を抱きつつも、彼の静かで神聖な雰囲気に話しかけにくい印象を持っているようだった。


学園には専用の寮があり、広々とした共同の食堂や、交流スペースも整っている。寮生活は初めての経験だったが、規律のある生活は意外と心地よいものだった。


授業は戦闘スタイルを基にした選択制の戦闘授業と、全員が共通して受ける学力授業、それにダンジョン攻略の実習があった。戦闘授業では、自身のスタイルに応じた鍛錬が行われる。アルノアは自身がまだ未熟であることを痛感していたが、適応能力を活かして少しずつ課題をこなしていった。


昼下がりの学園の中庭で、アルノアが一息ついていると、ふとした気配を感じました。振り向くと、そこにはヴィクトールが立っていました。彼は鋭い眼差しでアルノアを見つめ、少し興味を惹かれた様子で口元に微かな笑みを浮かべています。


「君が…アルノアだったね?」ヴィクトールは少し低めの声で話しかけてきました。その声にはどこか探るような響きがあり、彼の知的な雰囲気が際立っています。


「そうだけど、君は…?」


「ヴィクトールだ。上級クラスで錬金術を学んでいる。他の魔法と違って、触媒がないと発動しないちょっと特殊な魔法さ。錬金術、と言っても君にはあまり馴染みがないかもしれないけどね。」


アルノアは頷きながら、目の前のヴィクトールを観察しました。彼の持つ独特の雰囲気と、自信に満ちた表情が印象的です。


「君の戦闘試験の噂は、聞いたよ。グレゴール先生をあれだけ圧倒するなんて、並大抵の実力じゃできない。…それに、君の属性適性、少し気になってね。」


「属性適性が…どうかしたのか?」


ヴィクトールは片手を顎に当てながら、興味深そうにアルノアを見つめました。「君はすべての属性を使える、けどそれぞれが強いわけじゃない。それはまるで、いろんな素材を混ぜて何かを作り出す錬金術に似ている。だから、君には興味が湧いたんだ。僕の魔法も触媒を使っていろんな効果を引き出すけど、君の適性もそういうふうに応用できるんじゃないかってね。」


ヴィクトールの言葉はアルノアの心に引っかかりました。いままで、すべての属性を扱えることがどこか自分の弱点と感じていましたが、彼の視点から見れば、それは一種の「可能性」として捉えられているようでした。


「…確かに、今までそう考えたことはなかった。錬金術の魔法って、たとえばどんなことができるんだ?」


アルノアが問いかけると、ヴィクトールはふっと微笑み、懐から小さな瓶を取り出しました。その中には微量の青い液体が入っており、瓶を振ると液体がきらめきます。


「例えばこの触媒を使うと、少しの間、物体に特殊な力を付与できる。風の力を宿すことで、軽やかに動けるようになったりね。」

 目の前で踊るように軽やかにステップを踏みながらヴィクトールが言う。


ヴィクトールはその瓶をアルノアに見せながら言いました。「君が持つ属性の多さ、そして応用力…それは錬金術と相性が良さそうに思える。もちろん、実際にやってみないとわからないが…君の可能性をさらに広げられるかもしれない。それに僕の錬金術ももっと高みを目指せるかもしれない。」


アルノアは少し考え込みましたが、彼の提案に心が揺れました。ヴィクトールの言葉からは、単なる興味本位ではなく、実際に共に成長できる可能性が感じられます。


「…そうだな、興味はあるよ。もし機会があれば、君の錬金術を見せてもらいたい。」アルノアがそう答えると、ヴィクトールは満足そうにうなずきました。


「いいだろう。その時は、君も僕の実験に付き合ってくれると嬉しいな。…なんせ、僕の触媒だけじゃ足りないことも多いからね。」


ヴィクトールは軽く微笑むと、興味を感じたようにアルノアを見つめ続けました。こうして、アルノアとヴィクトールの間には、ひとつの繋がりが生まれ、互いの力を引き出し合う可能性が広がり始めるのでした。



その後、訓練場での授業中、リヒター・ハイウィンドとも偶然顔を合わせることとなった。彼は強力な風魔法の使い手で、攻撃的な戦闘スタイルを得意とする。リヒターは、アルノアが試験でグレゴール教官を倒したことを聞きつけ、彼をライバル視しているようだった。


「おい、編入生。あのグレゴール教官に勝ったって聞いたが、そんなに強いのか?」


リヒターの挑発的な態度に、アルノアは少し困惑しつつも冷静に答えた。「全力を出した結果だよ。ただ、まだまだ学ぶべきことは多い。」


リヒターはその返事に一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐにニヤリと笑い、「ふん、つまらん謙虚さだな。だが、お前の実力は確かめさせてもらう」と言い放った。こうして、彼との間にも競争心を持った関係が芽生えることになった。


また、アルノアは図書館で偶然シエラ・エニグマに出会った。彼女は他の生徒とは異なり、静かで独自のオーラを放つ存在であり、その魔力は何者にも明らかにされていない。シエラは彼をじっと見つめ、何かを見透かすような視線を向けた。


「君、面白い気配がするね。まるで見えない何かを隠しているかのようだ。それもいくつかありそうね。」


シエラの謎めいた言葉に、アルノアは戸惑いを隠せなかった。しかし、彼女の観察眼は鋭く、アルノアの中に潜む戦神エーミラティスの力にわずかに気づいているかのようだった。シエラはその後も何も言わず、再び静かに本に目を落とした。


こうして、彼女との間にも不思議な絆が生まれた。


アルノアは周囲の生徒たちとの交流を通じて少しずつ自分の立ち位置を理解していった。グレゴール教官が戦闘試験で自分が敗れたことを語ったことで、アルノアに対する注目度は高まり、強者たちが彼に対して興味を示すようになったのだ。


様々な出会いがあったが、ここから彼らの学園生活が始まる。

まずはダンジョン演習が始まるようだ。

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